冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十一話 #DDDVM
立ち止まったリューノ殿が指し示した文字盤は、確かに私が指示した記号と一致していた。身震いを隠さないシャンティカ君。
「ここは危険物あるの?」
「いや、ここに保管されているのは比較的安全な遺物だよ」
「わかったわ、でも違う物に手を出さないようどれが対象なのかちゃんと指示してよね」
「もちろん」
黒灰の板によって塞がれている様にしか見えない出入り口は、リューノ殿が目の前に立った事でシュッという軽い駆動音を立てて右にスライド、そして来訪者を迎え入れる。
「わぁ……」
感嘆の声を漏らすワトリア君の眼の前には、一室だけでも実に多種多様な物品が棚に保管されていた。杖とも剣とも似つかない道具に、一枚鏡にも関わらず合わせ鏡のように鏡面が反射している鏡、魔力とは異なる力で浮遊し回転し続ける天球図などなど、害は無いとは言えどなかなかに関心を引く遺物が揃っている。
「それで、目的の遺物はどこに?」
「入り口から十歩ほど進んだ先の右側、ちょうどシャンティカ君の目線ほどの高さにクライン形状の……奇妙な形をしたガラス瓶がないかね」
「ええと……あったわ」
シャンティカ君に続いてワトリア君が駆け寄った事で、その物品が私の眼にも写る。それは、クラインの壺、などとも呼ばれる奇妙な構造を持った透明なガラス瓶、そしてその中にはほのかに輝く黄金の液体が静かにとどまっていた。
「量は、減っているね。明らかに」
「そうなの?」
「ああ、目録によると瓶の八分目までは入っていたらしい。今は瓶の半ばほどだね」
「ふうん……でもおかしくないかしら、普通盗むなら瓶ごと持っていかない?そりゃあ、こんな私が一抱えしてなんとか持てるサイズの瓶なんてまるごと持っていったら目立ってしょうがないと思うけど」
「それには二つ理由が考えられる。一つは犯人はこの瓶に入っている全量は必要なかった事。そしてもう一つは、そもそもこの瓶ごと持って帰る手段は犯人は持ち合わせていなかったんじゃないかな、私の推理が正しかったらだけどね」
「持って帰れなかった……ですか?でも減ってる量からすると、別の瓶を持ってくるにしてもそこそこ大きなサイズになるような気がします」
「その通り、だがそもそも犯人は門番達の前に姿さえ現していない」
ワトリア君の疑問を私は肯定する。
とはいえ、やって見せなければ具体的にどうしてこの大きな瓶は持って帰れなかったのか、いまいちピンとは来ないだろう。
「ちょっと今から、それらの疑問を一挙に解決出来るか私の考えた方法を実演してみるとするよ。準備は済ませてあるから、少しだけ待っていてほしい」
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