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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十四話 #DDDVM

「サーン君は、こちらに」
「はっ、はい!」

果敢にも咲き誇る脅威を前に突貫する戦士二人を背にして、少年はワトリア君の眼前へと駆けてくる。大音声にならないよう注意を払いつつ、私はメガネ越しにサーン少年へと語りかけた。

「いいかい?今から君の先生、正確には彼女のまとった魔術兵装がその安定を失う。君にはその隙に乗じて、彼女の兵装の魔力構造体に干渉して無力化してほしい」
「えっ、ええっ!?」
「君が適任だ、私ではこの状況下で彼女を無力化する事はできない。そちらに行けば村人達にいらぬ恐怖を与えてしまう」
「ででで、でもっ、俺にそんなこと……!」
「あの迷宮公を出し抜いた君なら充分可能だとも。そしてこの事件を丸く収めるためには、彼女にも話を聞いてもらわないことには終わらないんだ」
「……っ!わかった、わかりました!やります!俺が!」
「良い返事だ、よろしく頼むよ」

私がそう告げた頃には、サーン少年は身をひるがえして己の師へと向き直った。彼の右手からは不可視の魔力流が溢れ、湧き水のように青の魔法陣が編まれていく。彼の陣が噴水のように水を溢れさせて、右腕をふるえば宿り木よりも獰猛に、使役される水が相対する水華へと突き進んでいった。

そして私が打ち込んだ楔はというと、既に上方の2つはシャンティカ君の鮮やかな手並みによって射抜かれていた。最後の一点は警戒を強めた水華の、猛攻といって差し支えない水の触腕の猛打の雨あられが、リューノ殿へ襲いかかることで被弾を遠ざけている。

「シャンティカ君、最後の一点も射抜けるかい?」
「駄目、警戒されちゃって射線を防がれてる……でも、彼なら大丈夫。やってくれるわ」

彼女が断言するほんの少し前に、水華より二十歩程度は間合いをあけたリューノ殿は、やおら剣を大きく振りかぶった。次の瞬間、彼の手にしていた剣は、水華の紅点、そのすぐ側へと移っていた。投擲、したのだ。

恐るべき速度で投げ放たれた剣は、水華の茎を真横に深々と切り裂いて止まる。残念ながら紅点にはいま一歩届いていはいない。だが。

「なっ……!?」

水華の主が動揺して剣へ意識をそらした瞬間に、リューノ殿は動いた。疾い、私の視覚でもまるで風の行く先を追うかのような速さで。水華もすぐに意識を彼へと戻し、水撃を持って行く手をはばまんと大地に撃ち込むも、リューノ殿は短くステップを踏んで狙いをかわし、猫が障害をすり抜けるが如くふかく踏み込んで相手のふところまで潜り込んだ。彼の手が、剣を掴む。

「ハァ……ッ!」

短い、しかし天地をゆさぶらんほどの裂帛の気合と共に剣が振り抜かれ、ここで初めて水華は自身の意に沿わない水しぶきをあげることとなった。

「サーン君!いまだ!」
「わかってます!」

サーン君が私の合図に応え、右手から形成した水の管をしたたかに水華の裂け目へと撃ち込んだ!

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十四話:終わり|第四十五話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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