冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十三話 #DDDVM
奇妙な存在だった。私のできる表現でもっとも近い存在はフルプレートアーマーの騎士に相当するが、装甲の継ぎ目が無くツルリとした表面はこの迷宮の壁材と同様の物質に見受けられる。そう、鎧姿にして黒灰色のマネキン、といった表現が最も適切であろうか。
「オッと失礼。声帯ニマだ不備が……」
謎のマネキン……彼から自己紹介をいただくまではそう表現しておこう。彼は自身の首周りをさすると、何度か咳払いをしてみせた。その後、不安定だった声色は透き通った高音の、男性のそれに落ち着く。一方で、剣と盾を構えたままなのは、リューノ殿だ。
「何者ですか」
「警戒させてしまって申し訳ない、少なくとも敵ではないね、あなた方の」
「敵ではない、という表現は、危険がないことを率直に意味しませんね」
「あなた方にとって脅威でないかといえば、まあ脅威ではあります。えい」
マネキン氏がパチリと硬質な指を鳴らすと、一瞬にして宝物庫の棚は壁に覆われ、何もなかったかの様に変じる。これで、彼が何者なのかは明白になった。
「あなたが敵でないことは存じておりますよ、グラス・レオート二世殿」
「二世、良いね。確かにあなた方の有する概念では、親子がもっとも近しく、そしてわかりやすい表現だ」
「二世、それではこの方が……」
「そう、私達の探索をサポートしてくれた当の本人さ」
レオート二世殿は、わずかに首をかしげ微笑んだ気配を発した。彼の頭部はフルフェイスの板面に覆われ、リューノ殿のようなスリットさえ存在していない。
「君たちが侵入した当初は父が残した権限を引き継いでいる真っ最中でね、なにせ元々はなかった機能だからすんなりとは行かなかったし、内部警戒機は自動巡回のまま君たちに襲いかかってしまった。後一日経ったころに来てくれればもっとスムーズにご案内したのだけれど、そこは不可抗力って事でどうか許してほしい」
「いえ、ご配慮感謝いたします、二世殿」
「えっと、ごめん。一気に言われると私置いてけぼり感が……」
自己紹介が一段落したタイミングで、シャンティカ君がおずおずと手をあげた。
「何なりと、ミス・シャンティカ」
「じゃあ順番に、結局迷宮公本人はその、お亡くなりに?」
「そう、その認識が一番近いんだ。厳密には違うんだけれど、父の持っていた多くのものは、あのおっかない液体の災禍によって大部分が失われて、自分が引き継げたのはこの迷宮を維持する権限と知識、そしてごくわずかな想い出。ここまで毀損と変質が発生した以上は、自分は父と全く存在とは言えない。父は死んで、代わりに僕が産まれたんだ」
「そう……それは、残念ね」
「何事にも終わりはあるって、ミス・シャンティカ。それで、探偵君には僕からも一つお願いがあるんだけど」
「探偵?」
聞き慣れない言葉に、私は思わず問い返した。
「失敬失敬、この国にはまだ探偵って概念はなかったね。ええと、今の君たちみたいに、あれこれ探し回って謎解きをするのが探偵ってやつでさ」
「探偵、ふむ。『看取り屋』などという不名誉な呼ばれ方よりは良いかもしれません」
探偵、という役割名は確かに私には似合いかもしれない。
だが、彼の口ぶりからすると、彼らはまるで未来から来たような表現だ。いったい彼ら親子は何処から来たのだろう。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十三話:終わり|第三十四話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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