冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十三話 #DDDVM
「はい、私の方はお手上げ。ワトリアはどう?」
「もうさっぱりさっぱりです……魔術専攻であればまたもっとアイデアが浮かぶかもしれないですが、私医学科でして」
「お気になさらず。我々調査隊だけで解決できるのであれば、シャール殿にはお声がけされていなかったでしょうから」
「そうそう、考えるのはシャールにまかせて、私達はちょっとでも手がかりを見つけることに専念しましょう」
彼らのやり取りに思わず声を伏せて苦笑してしまう。謎を解き明かせないことで気落ちされてしまうよりも、気持ちを切り替えて調査に専念してもらった方が良いのは間違いないのだが。
「そうしてほしい。不可能犯罪に見えても、こうして実現された結果がある以上はいかでかして可能にするトリックがあったということだから」
「はい、はい、私が謎解き担当じゃなくてよかったってことにしとくわ」
軽口を返しながらも、彼女は熱心に内蔵器官室の臓腑……といっても無機質な物体の連なりを丹念に調べていく。レンジャー要員の面目躍如となるだろうか。一方、ワトリア君を通してリューノ殿が私に問いかける。
「しかし、魔術魔法も、神秘に機械も万能ではありません。この謎をとき明かすのは骨が折れそうですね」
「確かに、実にやっかいな問題だとも。だが、私が考えるに、厄介で難解な状況だからこそ、殺害方法も絞られてくるはずだ」
「それは複雑な知恵の輪が、複雑であるからこそ解き方も一つに絞られるようなものでしょうか」
「うん、その通り。けれど推理にはやはり情報が必要なので……シャンティカ君の判断が実に頼もしいことだね」
「であれば、私もわずかながらご助力できるよう頑張りましょう」
「あ、私もがんばります!私も!」
「ありがとう、二人共。だが身の安全が第一だ、くれぐれも気をつけてくれたまえ」
「ええ。そこは必ず」
それぞれ分担した三人を気にかけつつ、私もやるべきことをやる。まずは王家に対して追加調査の伝書鳩。内容は噂話の収集である。
竜である私にも把握できるほど、人間族は噂、ゴシップというものが大好きだ。錠前は口にはつかぬ、などという表現さえある。そして公が殺害された動機はおおよそ、彼が秘匿していた遺物である可能性が高い。
「それはつまり……」
犯人は、善行であれ悪行であれ、回収した遺物を使って何らかの行動を起こす。そしてその兆候は、大なり小なり、隠蔽しきるのは難しいだろう。遺物に頼らざるを得ない以上、起こす事象もまた異常性が強いものとなる。
「宣戦布告など起きていない以上、悪行でない事を期待したいものだが、ね」
羊皮紙を折り曲げてかたどった鳩に術とメッセージを預け、空へと放つ。
「シャール、ちょっと良いかしら?」
「もちろん、いつでも、なんなりと」
モノクル越しにかけられた声に、応答する。やはり彼女は優秀な斥候力を保持している。シャンティカ君に依頼して正解だった。
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