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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十話 #DDDVM

一行が通路を曲がった先は、両側がホテルの客室のようにドアが立ち並んでいて、この迷宮に収められた遺物が途方も無い数であることを間接的に指し示していた。もちろん、ホテルという例えについては、私は人間族の宿泊施設には色々な意味で入れないので、知識として知っているに過ぎないのだが。

「そのまま真っすぐ進んで、君たちから見て左側の十五個目のドアが目的の部屋だ。部屋の目印として……ううむ、説明するのが実に難しいな。ワトリア君の眼鏡を通して壁に表示しよう。合わせて手近なドアの同様の、おそらくは部屋番号を示している板を見て欲しい」
「はい」
「これは……」
「ちょっと、こんな文字見たこと無いんだけど」

彼らが観察しているのは、左方にある部屋番号……もっとも、縦5セーチ横20セーチほど(訳者注:1セーチ=1センチメートル)の文字盤の上でほのかに光っているのは、私達の公用語とは全く異なる言語、いや記号といった方が適切であろうか。私の知るよしもない古語である可能性も十二分にあるが、それを考慮しても異質な形状の記号である。

「まるでヒモを湾曲させたかのような図形ですね」
「そうね、まるでツタみたいな……」
「実に興味深いが、今回は先達の知識をありがたく活用して目的の場所を特定することにしようか」
「はーい」

私は彼らの視線の先へと、遺物目録に記された図形を幻像描画する。
それをワトリア君が素早く書き留めると、彼らは探索を再開した。

「罠とかは、やっぱり無いわ。いくらこの壁材が強固といっても、遺物のひしめく場所で下手な事はしないって思うんだけどね」
「火薬タルの側で火花を散らすようなものですから」
「そーそー。遺物だらけなら下手な罠より危険じゃないかしら、ここって」
「はわ……そ、そうなんですか?」
「そうよ?遺物っていってもピンきりだから、詳しい内訳を聞かないとわからないけど」
「そうだね、今君達が通り過ぎた右側の部屋に、ちょうど『ハルカバルカの旅行記』が収められている。厳重に封印された箱の中に、だけれども」

私の、そう、実に余計な一言にシャンティカ君は身を縮こまらせ、こわばらせた。

「ちょっと、それ有名な人食い本じゃない!よりにもよってそんな厄ネタ振らなくても良いのに!」
「失礼、ちょっと今のは我ながら空気が読めなかったのを認めるよ」
「そんなに怖い本なんですか……?」
「開かなければ大丈夫ですよ。旅行記と称されていますが、その実『ハルカバルカの旅行記』は、開いた人間を取り込み……その人生を書き記すと言われています。発見された時に題字に描かれていたのが、有名な冒険者ハルカバルカだったのですが……」

リューノ殿の解説に、ワトリア君は怯えた小動物の様な、としか例えようがない表情を見せる。

「その、寄り道せずに目的の部屋に入りませんか……?」
「さんせーい。変なものに手を出して無駄死にしたくないもの」
「同意します。興味本位でのぞくには、少々危険物が多いようですから」
「お願いするよ、他の遺物については私は口を慎むことにしよう」

軽い気持ちで例えに出したのは、正直失敗だったと私は反省する。死を恐れるのは人も竜も変わらないが、物事に対する恐怖感はやはり、種族が異なれば耐性も大きく異なるのだろう。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十話:終わり|第三十一話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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