冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十七話 #DDDVM
私にも聞き慣れない風切り音が感じられるようになった段階で、曲がり角より迫りくる脅威が姿を見せた。
それらは長短二種類の三角錐を二つに合わせて浮かせた様な物体で、中央にはまるで瞳のように水晶体がはめ込まれている。三角錐の周囲には人間の握りこぶし大ほどの球体が三つ周遊しており、実に奇妙な存在だ。そんな三角錐が三体、こちらに向かってくる。
「ゴーレム……の一種でしょうか」
「魔力、マナは感じないわねっと!」
逡巡するよりも早く、矢が三つ連なって打ち出された。シャンティカ君による先制の急襲だ。撃ち放たれた矢はまっすぐに浮遊ゴーレムの瞳に向かって突き進むが……浮かぶ球体が前に並ぶと真剣白刃取り、とでも言うように挟み込んで止めれば大地へと叩き落とした。
「むむーっ、見た目より賢いわ、アレ!」
「前に出ます。援護を」
「ええ」
今や寸前三メートまで迫ったゴーレム群に対し、リューノ殿は盾を前面に構えると砲弾の勢いもかくやの速度で踏み込む。だが、ゴーレムもさるもの。彼を包むように包囲陣を敷くと三方向より浮遊球体による殴打を振るう。
「危ないっ!」
思わずワトリア君が声上げるよりも早く、彼は動いていた。
正面からの一発は盾でそらし、背を狙う一玉はかがみ込んで伏せ、頭上を複数の球体が虚しく行き過ぎる。かがんだ反動で伸び上がるように剣を振り上げると、手近なゴーレムの三角錐が真っ二つに切り裂かれ、水晶体が青と白に明滅した。
「左方に撃つ!」
「了解!」
続いて行われたシャンティカ君の援護射撃が、健在な左方のゴーレム側面を今度は的確に撃ち抜く。だが、矢じりは表面をわずかにえぐっただけにとどまるも体勢までは維持できなかったか、軸のぶれたコマのように波打った動きのままたゆたう。
右のゴーレムが再度球体による猛打を繰り出せば、彼は剣を打ち払って叩き落とし、返す一刀であやまたず左のゴーレムの瞳を真正面から貫く。精緻な装飾の剣がゴーレムの背から飛び出した。瞬きするほどの間に二体のゴーレムが何も出来ないままに無力化されている。
残りの一体も、リューノ殿に再度襲いかかろうとしたところで隙を見せた瞳に矢じりが吸い込まれていった。三本の棒がゴーレムの瞳に突き立つと、痙攣とともに落下し最後の個体も停止。だがリューノ殿もシャンティカ君も構えを解いてない。
「後続の気配はありますか?」
「いいえ、いまので最後」
その言葉でようやく二人は残心を解く。流石に練達の冒険者といったところだろう。ワトリア君が硬直している間にあっさりと事は済んでしまった。警戒を保ったまま、ゴーレムに突き立った矢を引き抜くシャンティカ君。
「冗談みたいな強度ね、これ。私の弓、並の金属装甲だったら撃ち抜けるはずなんだけど」
ゴーレム達の身体はこの迷宮の壁材と同質とおぼしき灰黒の物体で構築されており、シャンティカ君が手にした矢じりでつついてもかすり傷一つついていない。
「門番さん達がくださったメモによると、公の使い魔に当たる存在のようです」
「ふうん、主がうんともすんとも言わない状態でもちゃんと仕事してるなんて、健気ね」
「一般的な魔物よりも若干厄介ですね、気をつけて行きましょうか」
一行は浮遊ゴーレムの観察を終えると、再び進行を再開する。
しかして、リューノ殿の剣の冴えはいかほどのものか。これほどの強度の存在をあっさりと切り裂くとは。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十七話:終わり|第十八話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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