冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十五話 #DDDVM
迷宮公二世殿が水晶を打ち鳴らした様な澄んだ音を指先で奏でると、にわかに全員の足場がスライドし、宝物庫の中より外へと運び出す。決して早い速度ではないが、それでも徒歩よりは幾分か早い。
「へぇ……便利なことも出来るのね」
「コレもようやくついさっき復旧した機能でね、いやはや君たちにはお手間を取らせてばかりで申し訳ない」
「どうかお気になさらず、公には公のご都合があった事に変わりはありませんし」
「ありがとう、仮面の勇士君」
彼らが移動している間、こちらはこちらで索敵の作業を進める。
まず、やはりおっかなびっくりのままこちらを見守っている門番の二人に対して、これから魔術を行使するが周囲に危害を加えるたぐいの術式ではないことを申し開き、その上で空中へと陣を敷く。
フェート魔術学部長より頂いた魔術式の陣を、平面から立体構造の三次元陣へと再構築、より広範な天球儀に類似した構造の魔術式が展開される。
そして構築完了した魔法陣へ爪先を振るうと、その中央部から間欠泉めいた勢いで多量の水が天をさかのぼり、青空の元で四方八方へ拡散していく。
私の推理が適切であれば、犯人は必ずある『証拠』を残さざるを得ない。
それを追うには同様の術式を使うのが最も相手と同様の視点に立ちやすい、そう私は判断したわけだ。
まるでメロンの網目のように緻密に、この山地の山肌をくまなく水の管が見聞していく。その情報は間断なく私の脳裏に流れ込んでは、すぐに目的の物の存在に気づいた。
そこから方角を限定して水管を張り巡らせると、芋づるをたぐって目当ての芋を掘り当てるみたいに、次々と目的の『証拠』が見つかっていった。
「まずは、これでよし、と。ミスリードがあったら次の手を考えないといけなかったけど、その様子はないか」
おそらく、首謀者が出来る手段は相当に限られている。
そもそもが、見張りの門番にも、迷宮公本建にもさとられずに遺物のみを持ち去るという困難な目的に対して、彼が手持ちの手札から何とか引き出せた唯一の手段がコレなのだろう。
「火・風・土のエレメントでは類似の試みを行っても、雨竜君の雫は魔術構造へ干渉して破断してしまう。表層をただの水で覆えたからこその芸当だった訳、か」
思案に没頭する私の視界の端で、ワトリア君達は宝物庫のドーム、その中央部の円盤床に移っていた。二世殿が上を指差すと、彼女らが乗っていた円盤床は音もなく浮かび上がり、ドーム天井の真ん中にある筒状の通路へと進んでいった。
ほどなく、眼鏡越しの光景の中に私自身の姿を認めれば、迷宮の入り口より一行が姿を見せたのを確認する。いつの間にか一人増えている探索メンバーにぎょっとする門番君達に、身振り手振りを交えて仲間であることを伝えた。加えて、二世殿の自己紹介。
「父、グラス・レオート公の後継ぎです。二世って呼んでくださいね」
彼のフランクな言い草に眼を白黒させる彼らをさて置き、私は一行をその背へと背負いあげた。目指すはもちろん、犯人の居場所だ。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十五話:終わり|第三十六話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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