全裸の呼び声 -39- #ppslgr
触手人、いやすでに触手がより合わさった壁、触手壁ともいうべき存在は、無機質なホテル回廊を埋め尽くして押し寄せてくる。なんとも悪夢的光景であったが、アノートが叩き起こされた通りこちらが現実である。
「疾ッ!」
引き絞られた弦が解き放たれるように、レイヴンの渾身の突きが通路ど真ん中を貫く。あたかも砲弾のごとく絞り込まれた瘴気の螺旋が、触手壁を根こそぎする勢いでえぐりゆくも、やはり畳縦二枚ほど撃滅した辺りで止まってしまった。古代ドットゲームのMOB崩壊じみて霧散する前面触手の跡を押しのけ、積層奥の触手壁が新たに迫ってくる。
「こいつはとんだ物量押し」
「一旦、後退は?」
「残念ながら後ろも居る」
言うが早いか、振り向いた先後方の通路は、触手壁とは別種の丸太めいた紫紺触手が格子のように突き出て通路を塞いでいく。今はまだ距離があるが、直に二人のところまで到達するのは目に見えていた。
「さあて、前後がダメなら横か上下か」
黒いのが一人ごちた時、脈絡なく天井が垂れた。階段が忍者屋敷のからくりのように現れたのだ。
「行こう!」
「都合が良すぎないか!?」
「触手プレス死よりはマシだと思う!」
「まあそうだが!」
二人が階段に飛び上がって駆け上がると、登り切るのをまたずして階段ごと上昇し、上の階へとたどり着く。済んでのところで奇怪触手まみれで死を迎えるという誰も得しない結末は回避出来た。
上の階はまだ触手の侵攻が進んでいないのか、打って変わってひっそりと水を打ったように静まり返っている。振動は続いているが、先程の丸太触手が突き破ってくることも今のところない。
「フムン、なるほど」
「あの触手の群れは、ドブヶ丘の主の管理とは別物って感じかな」
「おそらく。だとするとまあ露出会の方って考えるのが妥当だが……まったく今までの連中とは無関係の怪異ってのもありえなくもないのがイヤだな。まったくもって」
深々とため息をつくが、当然それで状況が好転するわけもなく。この調子ならこの階から下はもはや触手がぎっちり詰まったタコツボになっている可能性が高かった。
「下に抜けるのはちょっと無理がある、穴を掘り進める前に相手に押しつぶされるのがオチだな」
「横に移動しても状況はさほど変わらないだろうね」
「ああ。とすると後は上だが……」
「私が縄を用意できるから、特殊部隊バンジーと行こう」
「それでいこう。紐なしバンジーよりはマシ」
話がまとまったところで、一際強い衝撃と共に二人のちょっと離れた隣にタケノコめいて巨大触手が生え突き出た。どうやら安全というわけでもないらしい。そろって駆け出す二人。
「まずは階段だ!」
「オーケイ、急いで上がろう!」
階段の方向へ駆ける二人の後を、ドリル突出触手が追う!雨後の筍と表現するのが適切な勢いで次々生えるのはまったくもって脅威の一言に尽きる。
【全裸の呼び声 -39-:終わり|-40-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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