冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十七話 #DDDVM
「でしたら何よりです。それと、発症前にこれと言って変わった事象はありましたか?」
「いんや?ぜんぜん」
「そう、ですか。ありがとうございます」
声に物足りない雰囲気をにじませながらも、礼を述べるワトリア君に入れ替わる形で、今度はリューノ殿が問いかけた。
「エリシラさん、もしや水晶薔薇病が発症する少し前に……水系統の大魔術、それも本来自分の手にあまる様なものを使いませんでしたか?」
「ん、使った」
「それはどの様な術式でしょうか」
「あー……」
なにやら照れくさい様子で髪を掻いて往時を振り返るエリシラ殿。
しばし時を置いたのち、当時のことを彼女は語り始めた。
「大したことじゃない。ほら、ここって湖畔の集落だろ?水源が近いってのは平時は良いが、大雨になるとそれが牙を剥くってわけだ」
「湖の水位が激増し、集落が飲み込まれる事態になったと」
「その通り。散々世話になったんだから見て見ぬ振りも出来ないし、こう……ちょいっと一番近い川に無理やり水路を造ったんだ」
「無茶をなさる」
「まあねえ、やってる最中も後悔しっぱなしだったさ。しかし、それがなにか関係あるのかい?」
問い返しに対し、一呼吸置いた後リューノ殿が回答した。
「伝承によれば、不死王の随伴者も水の大魔術を使った後に同じ病を発症したと聞いております。事例が少ないので断言は出来ませんが、何らかの因果関係があるのではないかと」
「ふぅん……ま、覚えておくよ」
「そんなこと言って、先生ここぞという時はすぐ無茶するんだから」
「おーだーまーり。やれる奴がやれる時にやれることすんのが人間なんだよ」
最後のやり取りで、サーン少年は椅子代わりの小タルに座り込んだままぶすくれてしまった。打って変わって再びワトリア君が口をはさむ。
「では、寛解後に調子が良いこととも説明がつくと思います」
「どういうことだい?」
「人間の肉体には、ダメージを受けた後の回復後により強靭になる性質があります。おそらくエリシラさんは魔術の酷使、水マナの暴走を経由して回復したので、身体の魔力容量が以前より向上したのではないかと」
「なるほどねぇ。ま、鍛錬の手法としちゃ駄目だな。死にかける上に、犯罪者になって治療薬取ってこないとってのはあまりに非効率的だよ」
私の視界が、わずかにかしげた。エリシラ殿の、若干一般人からずれた応答がワトリア君には少々不可解だったのだろう。私も僅かな知見しか無いが、人間族の魔術士は魔術の追求にこだわるあまりに……標準的な良識を逸脱することがおうおうにしてある。その点で言えば、エリシラ殿はまだ自制がきいている方だろう。しかし彼女の、自分の命の扱いは随分と軽いものだ。
「さて、世間話はもう良いだろう。後は女王陛下に詫びを入れるのがアタシらの務めさ。そうだろう?」
「ええ、ですが悪い結末にはならないよう努力しますよ」
「ハッ、どうだか。駄目だったらワトリアちゃんに医術調書取らせる時間くらいはおくれよ」
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十七話:終わり|第四十 八話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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