冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十九話 #DDDVM
とぎれとぎれのワトリアくんの言葉に、サーン少年は静かにうなずいてみせた。
「最初はほんのわずかな変化だったんです。先生の手足が、まるで雪が散ったみたいにキラキラしていて。今思うとそれは先生の肌の破片が、水晶化したものだったんじゃないかと」
「伝承の通りなら、それは『水晶薔薇病』の初期段階の症状です。おそらく、その次は足先から結晶化が進んでいったのではないでしょうか」
「うん、そう。その通り。おねーさん、俺よりちょっと上くらいなのに、よく知ってるのな」
「非常に特徴的な症例ですので、頭に残っていたんです」
おそらくは非常に深刻な表情をしているであろう、ワトリアくんの視界がまたも揺れた。いつのまにやら、隣に移動していたシャンティカくんが彼女の腰を肘でつついたのだ。
「ゴメン、話が全然見えないんだけど……危険な病気なのよね?」
「あ、失礼しました……伝承の病気の症例を聞けるとは思わなくて、つい。その通りです。『水晶薔薇病』はアルトワイス王国史上では未確認、近隣国史においてもはっきりと記録されているのは1,2件程度、後は各国の伝承にのみ伝わるだけの、極めて稀な症例です。発症した場合において、治療が行われなかったケースでは、すべての事例で発症者は死亡したと言われています。進行事例として、第一段階では角質の結晶化、第二段階にて足先からの肉体組織の結晶化が進み、最終的には生命維持に必要な臓器が結晶に転換することで死亡します。『水晶薔薇病』の病名は、死亡した発症者が、死後に遺体からまるで薔薇を咲かせたかのような結晶体を形成することから命名されたと……」
「ストップ、ワトリアちゃんストップ」
シャンティカくんの言葉に、びくりと私の視界が、正確にはワトリアくんのかけているメガネが震えた。ワトリアくんの好奇心は、特に医学関係において強く発揮され、大体この様な怒涛の解説として挟まるのである。
「す、スミマセン!」
「ええと、かかったら治療しない限りは絶対助からないって事でいいかしら?」
「はい、その通りです」
「……ってことは、治療出来た例もあるんでしょう?でなきゃこの坊や、ただの当てずっぽうで行動起こしたことになるじゃない」
「一番確度の高い治療例は、かの不死王が諸国を漫遊していた頃の事例ですね。不死王は……当時は一介の冒険者だったと言われていますが、彼の旅に同行していた水を奉ずる巫女が『水晶薔薇病』を発症した、とされています」
ワトリアくんの解説に、リューノ殿の兜がわずかにかしげたのは、果たして私の気の所為であろうか。彼女の解説は続く。
「当時としても治療のあてなどなく、王が最終的に賭けたのが、今回持ち去られた黄金酒だと言われています」
「治ったのよ、ね?治療例なんだから」
「はい、黄金酒の投与により、『水晶薔薇病』は寛解。巫女はその後も王と旅を続けたとされています」
「俺も、同じ話を読んだんです」
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十九話:終わり|第四十話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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