冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十九話 #DDDVM
私の案内通り、一行は階段を降りて三階層下の宝物庫を目指す。たった今、一階めを通り過ぎたところだ。
「二通り、ですか?」
「そう。一つは、知性、精神を司る器官と身体機能の維持を司る器官は完全に分割されていて、知性が損なわれても今こうして迷宮としての身体機能を維持し続けているのではないか、というパターン。だがこちらは可能性が低いと考えている」
「どうして?何かそれを裏付ける様な要素が有ったかしら」
「それは、今もこの迷宮の動きには知性が感じられるからではないでしょうか。いかがでしょうシャール殿」
「うん、その通り。少し振り返ってみようか」
三者とも、硬質な迷宮の壁材と澄んだ音を奏でながら、より深層へと潜っている。その間も、彼らは私の説明に耳を傾けていた。
「私達がここに侵入した当初、内部は迷宮の通り名にふさわしい入り組んだ構造で、公の使い魔と思しき巡回兵も多数存在していたね」
「ええ」
「だが、あるタイミングから内部の様相は一変した。内部構造はほとんど脇道がない一本道になり、巡回兵との遭遇戦こそまばらに有ったものの、探索そのものは当初想定していたよりも大幅に難易度が下がったんじゃないかな?」
「確かに……振り返って鑑みるとほとんど一本道だったわ。それ、地図を書き留めているワトリアとしてはどう?」
「はい、地形については構造改変後から再度マッピングしていたんですが、先生のおっしゃるとおりです」
「それと、もう一つ重要な点があるんだ」
「重要設備のある部屋にあっさり入れたことですね?」
「うん、正解だ」
カツン、と甲高い音を立てて先頭を進んでいたリューノ殿が立ち止まる。そこは既に三階層降りた先の階だ。私は彼に、螺旋階段から出て目の前の突き当りを右に進むように提示する。後に続く女性陣。
「迷宮公の実質的な内蔵である祭壇は、私達が訪れた時にさも当然という様に開いただろう?あの時の門は公の堅牢極まりない壁材の分厚い塊で出来ていたものだった。あのタイミングですんなり自分からあいてくれなかったら、私達は部屋に入ることもおぼつかなかったんじゃないかな」
「確かに……でも、どんな事をすれば、死んでるのに生きてる、みたいな事が出来るの?」
「その条件を満たす2つ目のパターン、それは命を分けることだ。通常の生物であれば、子孫を残すのが最も近いといえる。でも、公のそれはどちらかといえば神霊や魔族が実行するそれに近いね」
「存在の分割、保存ですね。人間族やアルヴァ族などとは異なり、彼らは自分の命を分割し、並列で存在させることが出来る。限りある生命であることはかわりませんが、片方が死亡してももう片方が残っていれば生き残ったといえるのです」
「それ、本当?」
シャンティカ君の疑問に、リューノ殿は仮面の奥で苦笑した様に感じた。
「長きに渡る戦いで、それほどの命と力を備えた存在は神霊、魔族を問わず数を減らしていったそうです。それに、命を分ける、ということはその分脆弱化することも意味しています。同じ量の水を半分に分けたら、当然半分の量になるのと同じ事ですね」
「ふうん、どっちにしても厄介そうだから遭遇しないことを祈るけど……」
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十九話:終わり|第三十話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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