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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十ニ話 #DDDVM

「いざ探検ってなると、ドキドキしますね」
「その前にちょっと失礼、門番さん。公は王国と盟約を結んでいたそうですが、それはそれとして中に脅威となる存在……要するに魔物などはいるんですか?」

奥の暗がりを覗き込んで身震いするワトリア君を他所に、リューノ殿は落ち着き払った様子でキリッとした方の門番へ質問を投げかけていた。彼は歴戦の冒険者であるはずだが、その思考には思い上がりや慢心といった物は見られない。しごく礼節と慎重さを兼ね備えているように私には見受けられた。

「はい、そこまで強力な種はいないはずですが、公いわく『なにせ迷宮なのだからそれっぽくしておくべきだろう?』とおっしゃっていて、今も中には脅威となる魔物がそこそこ徘徊しています」
「どうも。ではトラップの類もあるようで?」
「ええと、大枠で二種類ありまして、公自ら維持されているものと我々が後付で設置したものです。そのうち、公自身が維持されているトラップは、おそらく今はもう機能していないと思います」
「ありがとうございます、承知しました」

迷宮の内情について把握している人物がいるのは、類推するにとてもありがたい事だろうと考える。迷宮という存在は大抵は人間達に合わせた大きさで、私のような竜が探検するにはあまり向いていない。もっとも同胞の中にはその様な迷宮の奥深くに陣取り、財宝をコレクションすることを良しとする個体もいるのだが……この迷宮においてはその様な者の話を聞いたことはなかった。

「では、私が前衛、ワトリアさんは二番目、シャンティカさんはしんがりをお願いします」
「ええ、その配置で不満はないわ」
「き、緊張します」
「それではシャール殿、行ってまいります。お二人はこの身に代えても無事に守り抜きましょう」
「その言葉、ありがたく受け取るけれど、私としては三人そろって無事に帰ってきてくれることを願っているよ」
「失敬、自分の存在を軽く扱いがちなのは私の悪い癖で。友人にも良くたしなめられるのですが……では、全員無事に帰還出来るよう尽力しましょう」
「ああ、そうして欲しい」

徐々に高くなってきた日が、私の艶めいた鱗に弾かれて彼の仮面兜を照らす。やはりスリットの奥の顔立ちまでは伺いしれず、これから迷宮の暗がりめいて暗闇だけが帳をおろしている。そのことが、何とも彼の誠実な振る舞いにミスマッチで私の好奇心をかきたててしまう。論理的に考えれば、彼はたまたまこの件に回されてしまった存在として仮定するほうが筋道は立つのだが。

「それじゃ先生!行ってきまーす!」
「うん、慎重にね」

まるで遠足に行くかのような意気込みで背の高い戦士と小柄な狩人に挟まれて手を振るワトリア君を見送ると、その場には門番君達二人と私だけが残された。彼らの方へ首を向けると、どうにも居心地悪そうと受け取れる表情が返ってきた。

「ご安心を、私も一度巣に戻りますので、ここに居座るつもりはありません。もしもの時に助けに入ろうにも、公の入り口は私には小さすぎますのでね」
「あっ、はい。わかりました」

彼らの反応の方が、どちらかと言えば一般的な竜への反応だろう。生物の強度が根本的に異なる以上、致し方ないことである。対話が成立するだけ、彼らは十分に理性的と言えた。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第十ニ話:終わり|第十三話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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