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ヒトよ、ネコと和解せよ -1-

「この一週間で行方不明の届け出が急増しており、警察が現在捜査を行っています」
「物騒だな」

 展示台代わりのテーブルに自作のパルプを並べ、今日も日がな一日バー・メキシコでクダを巻く俺は、誰からもさしたる注目を集めていない壁面に据え付けられた大画面テレビを見ながらつぶやく。

 隣の卓では、様々な年齢の女性達が黄色い声をあげている。当然の事ながらガラの悪いごろつきめいている黒ずくめの俺の方に向く者はいないが、いつもの事だ。

「あーっと、Fuチャンのポートレート売り切れちゃった。ゴメンネ!」

 女性達の相手をしているのはとてつもないボリュームのアフロにフチ付きサングラスをかけ、カジュアルな服装をまとった男性。だが、女性陣の声援を主に受けているのは彼のアフロからひょっこり顔を出している毛足の長いネコチャンだ。

 茶色のふわふわの毛並みに、ちょっと困ったようなお顔立ちをしているそのネコチャンが一身に注目を浴びているのである。お目当ての写真集が売り切れたためか、名残惜し気に手を振って去っていく女性陣。中にはまばらに男性も混ざっている様に俺には見えた。

「おつかれさん」

 人の群れがまばらになった頃を見計らって俺はネコチャンことFuちゃんとそのパートナーであるアフロ男性ことM・Nにねぎらいの声をかける。俺もFuちゃんに小さく手を振ってみたが、今日は営業終了とばかりにアフロの茂みに引っ込んでしまった。実に残念だ。

「R・Vもネコ派?」
「ネコ派というか、俺はイヌもネコもキツネもタヌキもネズミも好きだ。まあ、Fuちゃんは実家の子を思い出すな」
「その子も毛足が長いんだ」
「ああ」

 M・Nが展示している、パルプ小説の中から俺が未読の物を手に取ると、代金を彼に手渡す。”Note”では運営の規則に反しない限り、作品はどんなジャンルでも販売できる。M・NもFuちゃんの写真だけでなく、パルプ小説も出している腕利きのパルプスリンガーだ。

「Fuちゃんのカリカリにでもあててくれ」
「ドーモ、ありがとさん」
「しかし、そもそものジャンルが違うとはいってもパルプスリンガーにとってネコチャンは中々の強敵だなぁ」
「はは、そうだね」

 インターネットにはネコチャンが溢れているというコトワザがあってもおかしくないくらい、世の中にはネコチャンコンテンツが溢れているが、それでも需要の方が上回っている。

 とはいえ、写真と小説ではそもそものジャンルが違うし、”Note”ではちゃんと小説を目当てにやってきては手に取っていくありがたい存在もちゃんといる。現に俺だけでなく、他にもM・Nのパルプ小説を手に取っていく者は多い。

「閉店したFuちゃんにならって俺も今日は閉店すっか……おや?」

 どうもパッとしない成果に今日は諦めようかと思った俺の視線に、他の客が出入りした隙をついてドアから黒猫が入り込んできたのが映る。その奇妙な来店客はよたよたとこちらの間近までやってくると、一声鳴いて、倒れた。

「む……っ!?」

 すかさずかがみこんで黒猫を抱き上げると、呼吸をはかる。浅く、不安定だがまだ息はあるようだ。出血もない事から少なくとも外傷もない。黒猫の鳴き声に応じてかすぐにアフロから飛び出して黒猫の様子を探るFuちゃんに続くM・N。

「大丈夫そう?」
「息はある、目立った外傷もなさそうだ」

 しかし奇妙なのは、あきらかにこの黒猫はFuちゃんを頼ってきたように見受けられた。果たしてこの黒猫が運んできた物は幸福か、災いのどちらだろうか。

【ヒトよ、ネコと和解せよ -1-終わり:-2-へと続く

前作第一話はこちらからどうぞ。

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