冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第九話 #DDDVM
蒼天直下、程よく雲の漂う朝方に私はいつもの合流場所、具体的にはアルトワイス王都の城門より出て、少し歩いた場所にある小高い丘の影に身を潜めていた。
私の存在が人間にとって害が無いことは王家公認ではあるものの、実際に眼にした人々がどう受け取るかはまた別の問題である。ゆえに私はいつもこうやって、おおっぴらにひと目にはつかない様人里から離れた地点に姿をあらわすことにしていたのだが……実際の所この様な気遣いがどこまで人々に伝わっているかは、中々うかがい知ることは出来ない。
「今度ワトリア君に聞いてみようか……」
彼女の眼鏡が映し出す景色にばかり集中していたため、住居にひきこもってばかりで凝り固まってしまった身体を伸ばす。旧友はこういう時、微弱な電気を通して私の身体を解してくれたものだが、今となってはそんな頼み事をすることも出来ない。
ぐっと羽を縮めたまま身を猫の様に伸ばすと、パキリと生え変わり時期のウロコが一枚地面に落ちた。城門から死角となる丘の影から、爪を鳴らしてまるで鏡の反射で曲がり角の向こうを覗くように様子を伺うと、事前の取り決め通りワトリア君達三人がこちらを目指して来るのが見えた。
「せんせーい!お待たせしましたーっ!」
手を振りふらつきながら駆け寄ってくるワトリア君を先頭に、冒険者の二人が確かな足取りでゆっくりとこちらに近づいてくる。三者とも思い思いの準備をしてきたのか、相応の鞄に荷を詰め込んで来たようだ。
「こちらの方が今回の?」
「ええ、物好きな謎解き屋さんのね」
仮面の人物は、私の眼の前までたどり着くと物怖じした様子一つ見せずに、私に向かって会釈した。一つおことわりさせていただくと、ワトリア君とシャンティカ君は非常に度胸というか肝が座っている方である。いくら私が竜の中では害は薄い方とはいえ、こうして平然と初対面の挨拶を交わして見せる人物はごくごく稀……なはずであった。
「お初にお目にかかります、私はリューノ・プレヲカ。探索を人生の楽しみとする一介の冒険者です」
達人、その言葉が私の思考によぎった。彼の落ち着きは途方も無い実力者のそれだ。しかして彼は敵ではないし、敵意も感じられない。人間のようにはいかないものの、私も首をさげて会釈の真似事をしてみせた。
「はじめまして、リューノ殿。私はシャール・ローグス、同族から『冥竜』の冠位を押し付けられているもので」
「お噂はかねがねお聞きしています。しかし女王陛下は、今回の事件をよほど重大視しておられますね」
「迷宮公の立場を考えれば、陛下の判断が過剰とも言い切れません。我々は、それだけの期待をたくされたということですね」
私の言葉に、仮面の冒険者ことリューノ殿は深く頷いた。
「ええ、一刻も早く彼女の重荷を取り除いてさしあげたい。お力を貸していただけますか?」
「もちろんですとも。事前にお伝えしました通り私が現地にお送りします。ささ、背に登ってください」
「恐縮です」
ぺたりと私が地に伏せると、リューノ殿は何処かなれた様子で私の身に手足をかけするすると登っていった。続いて何度か乗り降りしているのに未だに不慣れな様子のワトリア君に、難なく登っていくシャンティカ君が乗ったのを確認すると私は翼を広げゆっくりと上昇した。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第九話:終わり|第十話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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