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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十九話 #DDDVM

そばに控えていた大臣が、女王陛下より後を引き継ぐ。重苦しい玉座の間の空気も、この男にとっては何処吹く風といった趣だ。

「陛下、続きはわたくしめが」
「よしなに」
「御意にて」

大臣はうやうやしく女王陛下に会釈した後、改めて一行へと向き直った。

「さて、容疑者のお二方。アルトワイス王国国民であるならば、王国が法の秩序の基づいて運営されており……犯された罪は法によって裁かれるのが大前提だが。そのへんはわかっているだろう?」
「……はい」

硬い声色で返答するサーンくん。その様子を満足気にながめながら、大臣はわざとらしく顎髭をしごきつつ、続きを述べる。

「にも関わらず、大罪人にあたる君たちが、陛下の御前へと目通りかなっているのには当然事情がある。もちろん、ちょおっと舐めた態度を取るなら、君たちのかろうじてつながっている命運の糸は、あっさり途切れるのでそのつもりでいたまえよ?」
「わかっています」
「よろしい。ではまず何故君たちが法廷ではなく、陛下の御前へと引き出されたかの大きな理由の話をするとしようじゃないか」

わざとらしい咳払い。相変わらず人を食った態度だが、これが果たしてどう出るか。

「法治において、とても重要な前提として、まず法でさばくにあたっては、罪が定義されていなければならない。せーいーかーくーには罪を犯したと判断される条件づけだねぇ。わかるかい少年」
「はい」
「うんむ、よろしい。では率直に言おう。我が国の法律家は大失態を犯していたのだよ」
「大失態?」

サーンくんの問いに、大臣はニッと人の悪い笑顔を見せた。

「そう、大失態も大失態だ。なにせ彼らは迷宮公が亡くなられるってことを想像もしていなかったもんだから……当然、彼が殺害されたときの罪状も定義してなかったんだねぇ。ハハッバカバカしい話だろう?」
「えっと、それはどういう」
「要するに、君は大やらかしをしたがそれを定義する罪状がない。君は犯罪者でないってことだ。はっはっはっ、まったくとんだ笑い話だが……だからといって、即無罪放免ともいかないんだなぁ。君が王国のかけがいのない財産を毀損したのは、紛れもない事実。ゆえに我ら統治組織は君の扱いを慎重に取り決めないとならないね。法律に記載のないことならなんでも無罪放免となれば、別の形でやらかす輩も現れかねない。まあ、やるとするなら貴人殺害の罪状と王室付き財産の毀損横領あたりを拡大解釈すれば、君の首をちょんと飛ばすのには十分な罪過となる」

早口でまくしたてられた大臣による長口上に、サーンくんは地震に揺さぶられる燭台のように小刻みに震えている。一方のエリシラ女史は肝の据わりゆえか、動揺した様子もなく泰然とひざまずいたままに、ことの成り行きを見守っていた。

「とどのつまるところ、君の命運は女王陛下の胸先三寸次第、というわ、け、さ。それを踏まえた上で弁明するなり、命乞いするなり、好きにしたらどうかね。少年」

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第四十九話:終わり|第五十 話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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