冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第五話 #DDDVM
「それにだ、説明した順番が悪かったがワトリア嬢をまっさか一人で迷宮の奥底まで行って人身御供になってこい、なんてつもりじゃないとも。ああ、もちろん」
言葉だけなら大層気を使った風な言い回しだが、私をからかっていると思わしき大臣の表情は実に愉快そうだ。まったく、評価に困る人物であることこの上ない。彼が説明する分には信頼が得られないと判断したか、ここで女王陛下が続きをついだ。
「私がもっとも信をおいている冒険者の方に、同行していただくよう協力を取り付けます。その方の元であれば、ワトリアさんの身に危険が及ぶ事はないでしょう」
「そうそう、陛下一番のご執心……ではなく、ご信頼の厚い腕利きを同行させようって言うんだ、不安な事なんて何もないと言えるんじゃないかね?」
「我々の方は、その御仁を存じませんので何とも言えませんね」
参った、彼らは彼らでなんとしてもワトリア君を送り出して、彼女を通して私に調査をさせたいらしい。もちろん、彼らからすれば国家最高の金庫が半開きのままで止まっているかもしれないとなれば、原因の究明に犯人の特定は、危急の課題であるのも事実なのだが。
これはデッドロック、膠着状態だ。交渉事がそこまで得意とは言えない私は、巣の中で一人ため息をついた。今まで黙ってやり取りを聞いていたワトリア君自身から、一つの提案が入る。
「女王陛下、先生、私からよろしいでしょうか」
「ええ、この場では貴方が主賓です。気兼ねすることなく発言してください」
「私からも止める理由はないよ、ワトリア君」
「それじゃあ……その、私自身は、入ってみたいです。グラス公の迷宮に。だってほら、王家の禁足迷宮に入れてもらえるなんて一生に一度の体験ですから」
そうだった。ワトリア君自身もまた、私にまけない位の好奇心の塊であった。であれば、私の方が延々彼女の意志を無視して依頼を拒むのも、パートナーシップに欠ける行いと言える。
「ほらほら、賢竜殿。肝心のワトリア君もこう言っているんだし、君のほうが拒み続けるのは少々大人気ないんじゃないかい?」
「自分だけが安全な所にいて、友人だけを危地に送り出す事はそう安々とイエスとは言えませんよ、大臣殿。とはいえ、私だけが意地を張るのも良くはない。ここは一つ、私からも要望をいくつか出させていただきたい」
「王家に解決出来る事であれば、助力は惜しみません」
陛下からお墨付きをいただくと、私もまた要望を淡々と述べていく。
「一つ目は、もうひとり私が信頼をおいている冒険者を同行させること。ニつ目は事件の解明よりもワトリア君を初めとする調査者の生命を優先すること。最低でも以上二点は承諾していただきたい」
「そんなんで良いのかい?遺物の一つ位は要求されると思ってたんだがね」
「危険物に興味はありませんよ。先人の封印すべき、という判断を尊重すべきでしょう」
「ありがたいこったね、であれば何か対価とかいらんのかい?」
「対価、ふむ」
何でもくれると言われても、私が欲しい物はアルトワイス王国においてごくごく限られている。だが、竜の身では手に入れるのが難儀な物が多い。例えば……
「では、王国内に存在する全ての図書館、それらの利用カードを希望します」
私の、それはそれは奥ゆかしいであろう要望に、女王陛下は初めて微笑を披露してくれた。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第五話:終わり|第六話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】