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全裸の呼び声 -28- #ppslgr

 目当ての蟻地獄めいた瓦礫穴が近づいてくると、それは遠目で見るよりもより一層に醜悪であることがいやでもわかる。いまや嗅覚などというものは、あまりにも入り混じった匂いに完全に麻痺していた。絵の具が種別問わず混ぜ込まれるとどす黒く濁るように、匂いもまた多数入り混じった果てには判別のつかない不快きわまる感覚になるのだった。

 二人が縁にたったすり鉢状の地形には、単なる廃鉄のみならず、割れたコンクリ、多様なビルの瓦礫、それどころか雑に放り込まれた死体やら、中身を改めたくもない昭和期の黒ゴミ袋に、古めかしい箱型ブラウン管のモニタやら、電子機器の産業廃棄物までよりどりみどり。おおよそ、悪しきものであれば此処に無いものはないのではないか、というほどだ。

「ひどいアトラクションだ」
「こういうの、ご経験は?」
「無いね。まっとうな悪党ほどキレイ好きだ。ゲリラやらテロリストにしたって、ここまで汚くする必要はない。大体汚染環境じゃ人間は生きていけないんだ。飲水が無くなるから」

 つまり、人間のようで今ここにいる連中は半ば人外だ、と付け足してレイヴンは産業廃棄物がかろうじて避けられた獣道を行く。人の歩く道筋があるということは、確かにここに出入りしている者がいる。中央辺りから、炭火の煙もあがっていた。

「さっさと見つけて、帰ろう」

 入り組んだ廃棄物の迷宮を、突き出す鉄骨やらパイプやら骨やらを右に左にかいくぐった先、ぱっと視界が開ける。もう一段下がったそこは、蟻地獄の真ん中、底なし沼めいた寸詰まり。レイヴンの眼は、そのど真ん中で異彩を放つ棒状のモノを視認していた。

 それはまるで、一帯から集まる汚濁を吸い上げているようなそぶりで、この瓦礫の山に埋もれずに突き立っている。異様な存在だった。彼はすぐに眼を逸らし、辛うじて建物の体裁を保っているトタンの掘っ建て小屋に視点を合わせた。煙は、そこから噴き出している。

 得体の知れない何かが絡み合って形成された立地を、一歩踏みしめるたびに肉食虫の内蔵を蹴っている感触が返ってきた。ここに比べたら、ドブヶ丘商店街はよっぽどまっとうな世界といえる。

「ごめんください、な」

 申し訳程度に垂れ下がった幌をのけて、中を覗き込むも明かりは鍛冶場の灯火程度で、ジャンク品を流用したらしき鍛冶道具が乱雑に転がる土間がうっすらと視認出来た。同時に、さして広くもない掘っ建て小屋に詰め込む与太者の群れも。

「おまえら、ヨソモンがセンセイに何のようだ!?」

 上がった詰問の声に、黒ずくめは眉根を吊り上げて答える。

「刃物を買付に来ただけだ。任侠の連中と違ってまともな一般客、だとも」
「テメェ、オレたちが汚泥会って知っての狼藉かぁ!?」
「汚泥会」

 どうやら、地元唯一の鍛冶屋とあってドス目当ての地元ヤクザと鉢合わせたのか、あまりの間の悪さにレイヴンは目元を抑えた。もっとも、これらのドブナイズドされたヤクザも、元々ヤクザとも限らなかったが。

【全裸の呼び声 -28-:終わり|-29-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

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