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走れ、穿て、守れ -1-

 俺の目の前で、チャラくて色黒のいかにもなナンパ男が鼻から血を噴きながらぶっ飛び、木床を転げ倒れ伏した。遅かった、目を覆う俺。一方でこんな荒事には慣れっこ過ぎて人が殴られた程度じゃ微塵も動揺しないバーメキシコの利用客達。

「このアタシにパルプを無視してナンパたぁいい度胸してるねアンタ?」
「?!?!お、おれ何かワルイ事しましたでしょうか!?」

 声かけてきたナンパ魔を容赦なくぶん殴ったのは、緑色のツナギにタンクトップ、癖毛の豊かな緑の黒髪を持った妙齢の女性。彼女は腰に下げたホルスターから銃を指先で曲芸回転させながら引き抜くとナンパ魔の鼻先に突き付ける。

「ワルイもワルイ、大悪事さぁ。良いかい?アタシ達パルプスリンガーはここに自作を見せに来てんだ。アンタみたいな雑なナンパしてくるクソザコナメクジ相手にナンパ待ちしてる訳じゃあない、ワカル?」

 ガチリ、彼女が手にした銃の撃鉄が引き起こされ、後は引き金を引けば死体の一丁上がりという事態を前にナンパ魔は生唾飲み込み冷や汗鼻水垂れ流しておびえた。

「お、お許しください御姉さま!俺の好みだったんでつい出来心で!」
「おやおや、そう言えば許してもらえるなんて思ってるなら……生かしちゃおけないねぇ」
「ヒェッ……おゆるしください!なんでもしますから!」

 泣きドゲザで懇願するナンパ魔相手に銃のグリップでこめかみ掻きつつ、彼女ことS・Rは丸テーブルに並べていた自作のパルプ小説冊子をざかっとまとめて掴みナンパ魔へと突き付けた。

「買いな」
「へ?」
「アタシはパルプスリンガーだって言ったろう、買って読んで感想持ってくればユルシテやる」

 余りにといえばあまりな恫喝にブルブル震えながら素直に代金を差し出すナンパ魔。S・Rは代金と引き換えにパルプ冊子を渡すとニカッと笑って銃をホルスターへと戻す。

「毎度ありぃ。ああそうそう、適当にどっかに捨てたらアンタを地獄の果てまで追い詰めてハチの巣にする。イイネ?」
「承知いたしましたぁ!」

 ようやく解放されると脱兎のごとく逃げ去り、バー・メキシコから駆け出していくナンパ魔。ちょっとした暴力沙汰にも関わらず、ここバー・メキシコではいつも通りパルプの展示販売兼酒呑みのクダ巻きが続いていた。

 そんなタフなS・Rのとこに俺もまた移動すれば、今日の新作を確認する。彼女は他の創作品販売施設にも顔を出しているが、雰囲気が合うのか最近はNoteに積極的に作品を置きに来るようになったクチだ。

「姐さん、調子は?」
「フッフーン、上々さ。あーいう空気の読めないスカムバカは、最近は減ったしね」

 創作物であれば、なんであれ大抵の物は展示販売できるし、作者に直にコンタクト取れるのがNoteだ。とはいえ妙な思惑でコンタクトしてくる輩は居ない訳でもない。そういうヤツには銃の一つも突き付けてやるのが適切だ。

「そいつは重畳、と俺にも新作を一つ」
「あいよ、と。マッタ」

 俺を制止するとテーブルに置かれていたスマホを取って着信に応じるS・R。俺の前で即座に彼女の顔が険しくなった。

「なんだって!?」

 またぞろ、トラブルが舞い込んできたらしい。しかしどうしてこう、俺のいるタイミングで舞い込んでくるのか。俺がいつもここに居るのは事実だが、いくら何でも多すぎではないだろうか。

【走れ、穿て、守れ -1-:終わり:-2-へ続く

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