全裸の呼び声 -37- #ppslgr
灯りは歯抜け、自動ロックはオフ、当然のようにひと気のないホテルは、廃墟と営業中の境界のギリギリ一歩廃墟のほうへ踏み出していた。下層階は教えられた通りにひどい有様だったが、最上階まではいくこともなく中層ほどでまともな部屋を発見出来た。特に特筆すべき点もないビジネスホテルの客室に、ベッドが二台。
一行がシャワールームで血糊を落とし、携行食を腹に押し込むと、黒い方はさっさと布団をかぶって横になってしまった。いわく、キツい時ほどしっかり寝るのが信条、だそうだ。
星のない夜の、黒く塗りつぶされた大海原。それがアノートが窓からドブヶ丘の夜景を見下ろした感想だった。灯りはやはり現代日本とは思えないほどまばらで、この一帯においては電気設備がひどく不安定なのが伺い知れる。
「まあ、彼を見習って私も……?」
窓側のベッドに腰掛けた時、ソレと目があった。さして広くはない暗い客室の片隅に溶け込むようにつやめく黒髪を流し、暗闇の中でもわかるほど無垢の白をまとった少女。
とっさにアノートはレイヴンの方へ振り向いたが、熟睡していた。いな、まるで動きがない。石の像めいて、彼の動きは停止している。少女のガワをかぶった何かを刺激しないように、平静を保って向き直る。
(殺すつもりならいつでも、いくらでもできるはず。それがこうして目の前に出てきたのは、つまり……対話がしたい?)
未知の存在を前にざわめく生存本能を押さえつけ、表面上はきわめて平静を保ってアノートは目の前の何かに挨拶した。
「いい夜ですね、お嬢さん。なにか私に御用でしょうか」
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目の前のソレが口を開いた時、名状しがたい音なるささやき声がアノートの鼓膜ではなく、脳を直接揺らした。猛烈な不快感、視界が揺れるほどの眩み。少女の像がぼやけるが、かすんだ姿でもなおわかるほど奇妙な挙動をしていた。あたかも、油の切れたブリキ人形細工が、軋みながら芸をしているかのようだ。辛うじて、相手に攻撃の意思はないことだけがわかる。今はまだ、だったが。
「縺ゅl?溘♀縺九@縺?o縲√■繧?s縺ィ邱エ鄙偵@縺溘?縺ォ縺ゥ縺?@縺ヲ縲ゅ%繧薙↑縺薙→縺倥c縺?繧√?∝ォ後o繧後※縺励∪縺??縺ォ」
すさまじい目眩にかぶりを振るアノートへ、それは出来の悪いラジコンめいてガタつきながらにじり寄ってきた。レイヴンの方は、この期に及んでピクリとも動きがない。
(どうする、迎撃……しかし、相手にコミュニケーションを取る意思があるなら、攻撃すればご破産になる)
小刻みに震える人型の手がアノートの頬に触れた時、世界が揺れた。明らかに自分ではなく、建物が揺れている。少女の夜空のような瞳孔が開くのが見えた。
【全裸の呼び声 -37-:終わり|-38-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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