全裸の呼び声 -26- #ppslgr
「ここらドブヶ丘にゃー、住人にとって厄介きわまりない害獣どもがごまんとおる。住人も慣れちゃあいるが、だからといって無害ってわけじゃあ、ねえ。ちょっと路上呑みで吞んだくれて、そのまま寝込めば翌日には仏さんよ」
「害獣がいなくても逝く気はするがな……」
レイヴンのつぶやきをあっさり聞き流すと、次郎長は続けた。
「どうせお前さんがたがドブヶ丘をうろつくなら、自衛のためにもそいつらを狩るはめになるだろうよ。絡まれ次第、始末してくれりゃいい。大物がくたばれば、そりゃそこらの奴らからオレの耳に入る。いちいち報告にくる必要もねぇ。便利だろう?」
「スマホとかないのかい?」
「スマホだぁ?そんなハイカラなモン、ここじゃあ数時間でお釈迦よ!」
「だったらどうやって連絡を取る気だ」
「アレだ、アレ」
次郎長が指さしたさき、どんよりした曇り空を背景に、緑色の噴煙が上がっている。明らかに天然自然の現象ではなかった。
「ここじゃあ重要事項は、狼煙で知らせるのが伝統ってもんでな。お前さんがたの探しもんが見つかれば、男なら青、ガキなら赤の狼煙をあげるよう住民どもに口添えしてやる」
「何時代だここは……」
「令和の日本に決まってるだろう、なにいってんだおまえ」
「狼煙をあげるのがか?」
「他所はともかくここはここ、お前らのスマホが特別製だろうが住人の連中がもってねえんだからしかたねぇな」
「いいだろう。どのみち二人だけじゃ埒があかんと思ってたところだ」
「クク、賢い判断だぜ黒いの」
次郎長はそういって、どこぞから拝借されたであろう細い鉄パイプを煙管かわりに煙をくゆらせた。鉄パイプ煙管の先からは、比喩ではない紫煙があがる。
「ついでに聞きたいんだが、ドブヶ丘に刀剣か狩猟銃の店はあるか?」
「はぁ?反社の連中ならいざ知らず、ここは清く正しい現代日本の商店街だぜ?んなもんあるわけねぇだろうが」
ここのどこが清く正しいんだ、という言葉を喉奥に飲み込み、レイヴンは続けた。
「刀なら古美術品店、猟銃なら猟銃店があるだろう、法に乗っ取っていても。どこにでもある店じゃないが、そういうのもないのか?」
「ねぇもんはねえな。そういうのはもっとでけぇ街のもんだろ。ドブヶ丘には分不相応ってこった」
「参ったな」
「その包丁じゃ不足かい」
「忍者じゃないんだ、いい得物があるならそっちの方が楽だね」
「チッ、しかたねぇ。手間賃だ、オレが教えたって言うなよ?」
次郎長は濁った煙を吹くと、彼方を煙管で指す。現在地から若干下った先に、すり鉢状になった廃鉄の穴が見える。
「あそこにとち狂った鍛冶屋が独りいる。ドブヶ丘の廃鉄で最高の一本を創るって粋がってるイカレ野郎よ。ま、うまくいってねぇようだが試作品くらいはあるだろうさ」
「腕はいいのか?」
「てめぇが今振るった包丁は野郎の生活費代わりだ。どうだ、納得したか?」
「ふむ」
レイヴンが汚染奇怪ネズミを山ほど解体してなお、牛刀は奇妙な波紋と恐るべき切れ味を保っていた。それこそ、何もかも朽ち果てるドブヶ丘に似つかわしくない威力だった。
【全裸の呼び声 -26-:終わり|-27-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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