冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十八話 #DDDVM
元より、さして広くはない村落。目的の湖畔最寄りの家はすぐに見つかった。木材豊かな地域特有の丸太組の一軒家は、他の家々からは隔絶したかのようにぽつんと建っていた。
軋みを伴って開かれたドアから、一人の少年が姿をあらわしたのが我々の眼に映る。栗色の統一性なく伸びた髪に、あどけない顔立ちと人間としても小柄な体格はまだ年若いことを雄弁に物語る。腕には洗濯物を満載した桶を抱えていて、これから何処に行くかは明白であった。
そんな彼は、我々一行を視界に入れると同時に……洗濯物を取り落した。転がった衣服が、泥の中に舞い散る。そして彼はすぐさま駆け寄ってきては、大地に両腕をついて懇願したのだ。
「お願いします!おれはどんな罰も受けます!だけど先生は何も知らない、無関係なんです!」
「落ち着き給え、少年」
仮面の騎士はひざまずいて少年を助け起こすと、切羽詰まった様子の彼をなだめる。その様子を固唾を呑んで見守る一行。
「私達は君を捕らえに来たわけではないんだ」
「え……?」
「だが、君がやった事は確かに知っている。このまま行けば、君は厳罰を免れないだろう。その前に、私達は君の免罪を女王陛下に嘆願したい」
「えっと、俺てっきり……」
「そう思うのも無理はない、まずはお互いの事情を共有したい。いいかい?」
「はい、バレてるならもう隠すこととか無いし……何でも話します」
リューノ殿が、こちらに向かって頷く。
誤解からの強硬な反抗などが起きれば、双方ただでは済まなかったかもしれない。すんなり対話に持ち込めたのは僥倖であり、彼の手腕の賜物でもある。冒険者たるもの、交渉も技術のうちということか。
少年は、我々を湖畔のほとりに招くとぽつり、ぽつりと語りはじめた。
「俺、サーン・ラカ・トナムって言います。この村でエリシラ先生を師事して、魔術を教わってる魔術師見習いです」
「私はリューノと申します」
「ワトリアです、王都で医学生をしています」
「シャンティカよ。冒険者をしているわ」
「お供です、私のことはまた後ほど」
一行の中で唯一名乗りを濁した二世殿に怪訝な視線を向けながらも、サーンは続きを語る。
「皆さんは、もう俺が何をしでかしたかはご存知なんですよね」
「グラス・レオート公の殺害、そして彼が管理していた遺物の奪取だ。動機については、君のお師匠だろう」
「えっ、今喋ったのは……?」
「今発言したのは、この場に居る誰でもないんだ。申し遅れました、私は冥竜、シャール=ローグス。ある術式を通してこの場に声を届けている」
「竜<ドラゴン>……!ま、まさか村ごと焼け野原に、とか!」
「しない、しないとも。さっきリューノ殿が告げた話は真実だ。私達の役目は2つ、グラス公の死の真実を解き明かすこと、そして君の行いを免罪することだ」
「あのー、それって両立するんですか?バレたらもう問答無用とか……」
「かなり、難しくはある。だからこそ真実を語って欲しい。我々も出来ることはしよう」
私の言葉に、サーンはこわばった顔を幾分か和らげ、ようやく本題について語りはじめた。
「わかりました。どっちみち、覚悟は出来てましたし、問答無用で縛り首に比べたらまだありがたいです。みなさんを信じますよ。それで、事の起こりは1年前くらいのことでした」
「やはり、君のお師匠かね?」
「はい、エリシラ先生が発症してしまったんです。伝説の奇病、『水晶薔薇病』に」
語られたワトリアくんの動揺が、彼女の視界の揺れから私にも伝わってきた。
【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第三十八話:終わり|第三十九話へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
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