全裸の呼び声 -17- #ppslgr
「とんだバツゲームだ」
「愚痴るには、まだちょっと早いんじゃないかい?」
ごちゃついた人垣をなんとかくぐり抜けた二人は、仕切り直しと称して近くの喫茶店とおぼしき施設へ入室した。いまや中途半端に古くて昭和の香りがただようごちゃついた空間は、返って二人の非現実感を煽る。
愛想のない女性店員が卓に叩きつけたお冷に、未知なる虹めいた油膜が浮き沈みしているのを見たレイヴンは、これ以上ないほどデカイため息を吐き出してから、店員にチップを投げて告げる。
「食い物はいい。場所だけ貸してくれ」
店員がもう一度手を差し出したのを見るにつけ、もう一枚チップを投げて渡した。細長いタコツボめいた空間の店内には、サイン色紙がベタベタと所狭しと貼り付けられている。それらの色紙に書かれた名前は、まるで見覚えがない。それどころか、常軌を逸した線が描かれたものばかりだ。
二人はぐるりと店内を見渡し、そのさんざんたる異形と、来店客が居ないことを把握してからどっかりと座り込む。教授の椅子はなんとか持ちこたえたが、レイヴンの方はぐしゃりと崩壊した。気を取り直して別の椅子に座ると、店員が荒々しく残骸を掃き出していく。
「ヨモツヘグイ」
「同意するよ」
アノート教授はレイヴンが吐き出した一言で、彼が何を言わんとしているか理解したが、読者の皆様にはもう少し内訳をご説明しよう。
ヨモツヘグイとは、日本古代伝承に語られる黄泉の国の禁忌を指す。黄泉の国で煮炊きされた食物を食らうと、あの世に存在を留められ現世に帰る事ができなくなるとされている。類例として、ギリシャ神話における冥府のザクロなどもあげられるであろう。
つまり、このドブヶ丘で出された食物を食べることは、この地に帰化させられることを意味している、という符丁であった。
「それはヨシとして、一旦わかったことを整理しよう。まずいちばんでかい要件」
「うん、露出会とこの異界を作っている存在は関係が薄そうってとこだね」
「その通り。頭の痛い話だ。虎穴に入ったら虎とは別に竜が出てきた、みたいな話だな」
黒ずくめは天井を仰いだが、二度目のため息は避けた。深く息を吸うことにもなるからだ。
「このドブヶ丘って世界が露出会の意図したモノなら、間違いなく取り込まれた人間は露出者になる。が、実際はそうはなっていない。さっきの婆さんにしても、露出しようとしたのは奴らのテリトリーが張られてからだ」
「では、彼らがここに集結しているのは、利点か、陽動か」
「断言出来る材料は少ないが、陽動はない可能性が高い。ここが別勢力によるものなら、ここは奴らに取っても化け物の胃の中ってことになる。もっとマシな場所はいくらでもあるはずだ」
「確かに」
「おそらく、ドブヶ丘は奴らに取っても利点がある。それが何かはわからないが……」
「それについてはおいおい調査するとして、ドブヶ丘の出どころ、わかっちゃったんだけど」
「俺も心当たりがある、いっせーのーせで答え合わせしよう」
そして、次に二人が述べた言葉は一字一句同じであった。
【全裸の呼び声 -17-:終わり|-18-へと続く|第一話リンク|マガジンリンク】
注意
このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。
前作1話はこちらからどうぞ!
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