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冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十六話 #DDDVM

瞳を皿のようにして、複数宙に並べた資料をくまなく読み込む。
視界の端で門番の方達が私の振る舞い、一挙一動が気になるのかこちらに視線を送ってきているけれども、今は資料あさりのほうが優先だ。

「シャール殿、この部屋には他にこれといった証拠は残っていないようです」
「わかりました。天井の跡が犯行の証拠であれば、他に証拠が残っていないのも道理かと」
「入り口からあの犯行現場まで、床をたどってみたけど酸による溶解跡は残ってなかったわ。犯人さんは一滴もこぼさず有効活用したみたいね」
「シャンティカ君もありがとう。次は遺物の現状確認についてお願いしたいのだが、三人ともよろしいかな?」

私の提案に、護衛の二人は揃ってうなずく。ついでに視界も上下に揺れたのでワトリア君も 同意してくれたようだ。

「あ、先生ひとつ疑問に感じた事があるのですが」
「なんだい?」
「これほどの溶解効果がある雨竜のしずくがあれば、宝物庫の扉を開けることも不可能ではない気がするんです。でも、犯人は迷宮公の心臓部を直接攻撃した……何かそうしなければならない理由があったのではないかと」
「うん、良い観点だ。そしてワトリア君が疑問に思ったように、犯人にはそうしなければならない理由があったんだ。それは先程資料に記録されていた公の口述から確認出来たよ」
「それはもしや、迷宮の宝物庫が開く条件は、公の死に紐付けられていたのでは?」
「うん、その通り。流石リューノ殿だ」

さらりと答えにたどり着いたベテランの冒険者を褒め称えつつ、その内容を肯定する。剣士の横で、弓手はなんとも言えない、味わい深い表情を見せていた。

「ちょっとまって欲しいんだけど、ここの宝物庫って、宝物庫とは名ばかりの厄ネタの集積場じゃない?」
「危険物だけ、という訳ではないけれど、まあそうだね」
「その……故人に失礼になっちゃうかもだけど、閉じたままにしておいた方が良かったんじゃないかしら……」
「かもしれない。だが、故人の意向によって死後には開放される様になっていたようだ。理由は二つ。一つは危険物といって使い方次第では良い結果を得られもする物品があること。もう一つは」
「もう一つは?」
「迷宮なのだから、制覇されたのならば栄光を勝ち得た英雄には腹の財宝を開放せねばならない、という故人の強いこだわりだそうだよ」
「う、うーん……申しわけないけれど私は迷宮になったことはないから、そのこだわりはちょっと理解できないかも」
「私なら、死後においては蔵書は腐らせるよりも心ある読書家の方に持っていってもらいたいから、そういう意味では彼の気持ちはわからなくもない、ね」
「先生の蔵書と公の遺物だと危険度が違いすぎちゃうかと……それと、やはり物理的にも、宝物庫を破壊して開放するのは難しかったのでしょうか」
「おそらくはね。今はもう安全になっているはずだから、私達の目で実物を拝見するとしようか」
「わかりました」

そうして、一行が退出すると示しを合わせたかのように祭壇、心臓部の門は厳かに閉じていった。

【冥竜探偵かく語りき~生体迷宮停滞事件~ 第ニ十六話:終わり|第ニ十七話へと続く第一話リンクマガジンリンク

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