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全裸の呼び声 -14- #ppslgr

 警戒し硬直する二人の前で、老婆はみるみるうちに変質し、異質ななにかへと変貌していく。けして低くはなかった背は見てわかるほど縮み、さほどしわが多くなかった顔は千年樹めいてしわしわに、着ていたありきたりな衣服は黒霞のノイズがかった後には、まるで深い森の魔女のそれに変わり果てていた。

 託宣を受けた洗礼者めいて、落ちくぼんだ眼窩から飛びださんばかりに血走った眼を見開いた老婆は、自身の今の異常な外観と先ほどの恐慌状態を忘れてしまったかのように、落ち着いていた。そして二人の顔を交互に見やると好々爺然と笑う。

「おや、あんたがた観光客かい?こんなところに、物好きなこったねぇ」
「ご婦人、お前さん……」

 老婆の異常を問いかけようとしたレイヴンを制し、アノート教授が問いを継ぐ。

「ええ、私たちはこの一帯の郷土史を調べに来たんです。お婆さん、この辺りはその昔なんて呼ばれていたか、ご存じではありませんか?」
「ふぇ?あんたら知ってて来たんじゃなかったんかい。この『ドブヶ丘』は昔、『水溢首縊谷』っちゅー立派な名前があったんじゃがのう。なんせ、水が溢れて首をくくる……なんて不吉すぎるもんじゃて、今じゃだーれもかれも、ドブヶ丘呼びよ。まあ呼びやすくていいがねぇ」

 『ドブヶ丘』、『水溢首縊谷』。聞きなれない地名にレイヴンは1秒思案し、続いてスマホでインターネット検索をかけた。その地名は、たしかにヒットした。ただしどちらも地図情報ではない。検索結果は、SNS上のコメントだけだ。それも一年前の日付がついた、完全無欠なる与太話の。

「どういうことだ……」

 とうてい因果関係があると思えない、二つの事象をいぶかしむ黒ずくめ。

 だがその時であった。空より、全裸が舞い降りたのは。

『裸ーッ!』

 総勢六名の全裸中年男性が次々二人と老婆を中心に円を描くように着地、大地を揺らす。そして露出者たちは、一糸乱れぬ動きで秘匿された格闘術のかまえをとった。老婆は自分を取り囲んだ露出者の群れに腰を抜かす。

「やはり来たな非脱衣者!ここが貴様らの墓場と知れぇいっ!」
「幹部級ではなく、一露出者が大きく出たな」

 挑発しつつも、黒ずくめは油断なく己の得物を引き抜き、刀身を返した。同時に、包囲陣形を組んだ全裸中年男性陣は一斉に奇怪な構えを取る!

『裸ーッ!!!』

 すると何たることか、一同を包むようにどんよりと曇った闘気がドーム状結界を形成したではないか。同時に、老婆はバネ仕掛けめいて立ち上がると、自身の服に手をかけたではないか!?

「見よ!ワシの年季あふれる一大露出……っ!?」
「失礼」

 老婆がおそらくは自分の意思にそぐわぬ脱衣をする直前に、アノート教授の手刀が届いた。一撃の元昏倒する老婆。

「これ以上、場に振り回されるのは忍びないので」
「ただしい判断だ」

 二人は背中合わせに、自分たちを取り囲む露出者集団に対し戦闘態勢を取った!

【全裸の呼び声 -14-:終わり|-15-へと続く第一話リンクマガジンリンク

注意

このものがたりは『パルプスリンガーズ』シリーズですが、作中全裸者については特定のモデルはいない完全架空のキャラクターです。ご了承ください。

前作1話はこちらからどうぞ!

現在は以下の作品を連載中!

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