Power outage【掌編小説】
「もー限界!!これで終わりっ出てって、出てけ!」
至近距離で私は圭介を怒鳴りつけ、彼は顔を真っ赤に歪めて手を振り上げた。殴られる!
────次の瞬間、闇に包まれた。
「ひゃっ」
思わず変な声が出る。圭介も「……停電?」と呟いた。私達はそこにしばらく立ち尽くし、目が慣れるのを待った。私は窓にそろそろと近づき、外を覗き込んだ。街路灯も消えていて、辺りは真っ暗だ。遠くに見えるビル群は電気が付いている。黒い海に浮かぶお城みたい。圭介も窓の側に来た。
「この辺だけみたいだな。しばらくすれば電気つくんじゃね」
「うん……あっそうだ、アロマキャンドルがあった」
私は移動しようとしてゴミ箱に蹴つまずき、圭介に支えられる。
「あっぶね、俺行くわ。どこにあんの?」
「流しの下に開戸があって、そこの箱の中」
圭介が慎重に歩く音。「ここかあ?」カチッ。圭介のライターが付いた音と、闇を照らす光。圭介は箱の中からなんとか蝋燭を探し出し、それを居間の座卓に置いて火をつけた。私達は蝋燭の灯りを囲むように座卓の脇に座り込み、スマホで災害情報やツイッターを見る。
「ごめん」
圭介の声がした。ぼんやりと炎に照らされた彼は私を見ていて、目が合った。圭介は話を続けた。
「さっきは頭に血が登った……でもさ、話くらい聞いてよ」
「…………」
「先輩さ、GASEでバイトしてんだって。飲み会で話せるチャンスだったからさ……俺がGASE第一志望なの、悠理(ゆうり)も知ってんだろ」
「だから、私の誕生日の方をドタキャンしましたって? 自分の将来の方が大事なんだ」
「比べられないって。我儘言うなよ」
「へえ誕生日を一緒に過ごしたいっていうのは私の我儘なわけ?」
感情が昂って声が震えた。沈黙が部屋を支配する。
私は頭を冷やそうと、スマホを脇に置いて、蝋燭の炎を見つめた。
そう、今回は私の我儘だ。私も圭介も来年は就活が始まるし、少しでも早く情報を得ておきたい気持ちはわかる。第一志望の企業なら尚更。私が逆の立場でも、飲み会に行っただろう……でも謝るのも癪だ。
不意に右手を握られた。圭介がこちらに顔を寄せて来たので左手を彼の顔面に叩きつけてぐいっと押す。彼は負けじとその手を掴んで、指にキスをした。
「エッチしよ」
「なにサカってんの。こんな時に」
「暗いし、そりゃしたくなるって」
「あー停電があると出生率が上がるって……じゃない、ちょっヤダってば」
圭介は強引に抱きしめ、私を押し倒して「ねえ、仲直りしようよ」と耳元で囁いた。エッチで仲直りって良くないんだよな、でも、キスをされると力が抜けていく。
パッと眩しい光が世界に満ちて、圭介と私は部屋の照明を見上げた。
「ついた」「うん」
私達はそのままの体制で顔を見合わせ、圭介はにやりと笑った。
「続きしよ」
「喧嘩の? それとも」
「悠理が決めていいよ」
私は苦笑した。
「それじゃあ……」
(※本文1191文字)
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この作品は冬ピリカグランプリ2022参加作品です↓
※ちなみに……この作品から派生してBLも書いてみたので、お時間ある方、BL耐性あるよって方、読んでくれたら嬉しいです。2800文字程度。(こちらはピリカグランプリとは関係ありません)↓