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信用

6月14日(水) 午後7時30分。
打鍵音だけが響く職場で、手元の電話が鳴った。
ディスプレイは080で始まる番号を表示している。
携帯電話から職場にかかってくる時は大抵面倒事だ。

「もしもし、わたくし株式会社〜〜の△△です。
 わたくしども資産運用のご案内をしておりまして
 よろしければお話しさせていただきたいんですが
 ご都合のよい日はありますでしょうか。」

あからさまな営業電話なわけだが、この時間に職場に電話かけてくるあたり、常識人では無さそうだ。そんなこんなで、この類の電話を断りきれない僕は、流れされるまま翌々日の昼休みに話を聞くことになった。(若い女性の声だしまぁいいか。)

貴方用の資料をお持ちしたいので!と、年齢やら年収やら、当日までに色々聞きたいことがあるらしかったが、残業中だからメールじゃダメか?と聞いてみたところ、明日の夜電話しますね!と携帯番号を教えさせられた。

SMSを貰えればお互いにいろんな手間が省けると思うんだけど、どうやらこのあたりの察しが悪い。対面>電話>メールみたいなのが営業の掟なのだろうか。でも、そっちの都合で信用を落としている。

そして翌日、携帯電話が鳴ったのは20時。この日も残業で出れなかったが、かけ直す義理もないので放置して帰路に。自宅の最寄駅に着いてスマホを開くと、なんと10分前(21時半)にも彼女から着信が入っている。さすがに営業行為をしていい時間じゃない気がする。

翌日の朝に電話が来る方が嫌だったから仕方なく掛け直したが、彼女は出ない。そこは出なさいよ。と思ってスーパーで買い物していたら着信した。彼女は欲しかった情報をゲットできたようで、明日12時に1階のカフェで待ってますねー!と上機嫌な様子。(ちょっと可愛かったんだなこれが。)

そして迎えた当日、正午前。我が社の受付から「〇〇様あてに、株式会社〜〜の△△様ほか1名が御挨拶にいらしております。」と。

案の定、上司と部下のハッピーセットで来たわけだが、何人で行きますくらいは事前に伝えてほしいもんだ。だってこれ、突然4人で来て囲まれるなんてサプライズもあり得たんでしょ。ハッピーなのはそっちだけだ。この辺も含めて、段取りの悪さというか、配慮不足というか、僕のわがままというか。

そんで実際に対面してみたら、髪巻き巻き、まつ毛ギャンギャンの20歳前後のギャル。なるほど、合点がいった(偏見)。そして隣にはアラサー婦人。

ギャルは入社したばかりとのことで、話は全て婦人さんによって進められたが、内容は『ワンルームマンション投資で資産形成しませんか』だった。年金は減るだろうし、団信(保険)もあるから万が一ご不幸があっても家族に資産を残せる。この類の話は過去に何度か聞いたが、なかなか興味を持てずにいる。

それより、ギャルは資産運用と言っていたわけだが、資産形成の話である。ゼロから資産を築くことと、今ある資産を増やしていくことは、まるで違う。お金持ちに対して資産形成しませんか、は悪手だし、資産のない人に資産運用しませんか、は意味が分からない。新人だからなのか、教育体制に問題があるのか、揚げ足を取る僕の問題なのか。

そんなこんなで、お昼休みだし時間も限られてるから概要だけ話すねと40分ほど話をされ、今日は挨拶がメインだから、よかったら後日詳細を話させて!と次のアポを取り付けようとする姿勢は、さすが営業職。(40分の概要って一体なんだろう。)

とはいえまたしても断りきれない僕は、7月の土曜日14時にファミレスで会う約束をした。

まぁせっかくなので、税金やら水道料金やらを含めた年間のフルコスト持ってきてほしいとお願いしたら、当然シミュレーションしてお持ちしますよ!と自信有りげだ。

どこの会社さんもシミュレーションするんでしょうけどそもそも正しいんですかね。とジャブを打ちながら、ちなみに時間どれくらいかかりますか?と尋ねると、1〜2時間くらいですかね、との返答。

まじっすか!大学の講義より長いんすね!っておどけてみたら、楽しくお話ししましょうとニコニコしてやがる。一般人が何千万円のローンを背負う際の判断基準に「楽しさ」を持ち込ませようとするセンスの無さはどこから来るのか。大人しくイオンでウォーターサーバーを売っていてほしい。

いや待て、そんなことよりも1時間と2時間は全く違う。10分20分ならまだしも60分120分とは何事だ。

僕の年齢を聞き、年収を聞き、そして営業相手はおおよそ僕と似通った性質の人である。とすると、婦人ともなればその経験から、話のテンプレートが見えてきてもおかしくない。それにもかかわらず、見積りは1〜2時間と幅を広げている。

たった数週間後に自分が話したいことの時間すら見積もれない人間が、数十年スパンで付き合っていくマンション投資のシミュレーションなんて出来るわけがない。この瞬間に全てが潰えた。

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インターネットが普及し、SNSが万人に浸透し、情報が開かれた今日の社会では、同種同族間において機能面で差が生じることは少ない。かくして「機能検索から人検索へ」となったわけだが、人検索の時代では、この人を応援したいだとか、この人なら信用できるだとか、属人的な要素に価値が見出される。

今回の一件で考えると、確かにギャルには応援要素があったかもしれないが、マンションなんてのは一般人がそもそも応援で背負える額ではない。

だとすると、初めから信用を勝ち取るしか選択肢がなかったわけだが、そこの嗅覚が研ぎ澄まされていなかったのだろう。時間だったり、言葉だったり、話の整合性だったり、信用を落とし続けていた。

もう一点、営業の一手法として確立された『不安ビジネス』。今回も例のごとく、年金や遺族の手札を切ってきたのだが、散々不安を煽った挙句、ウン千万円のローンを背負いましょう!なんてのはさすがに無理がある。『マンション投資×不安ビジネス』の掛け算はそもそもの相性が悪い。

営業なんてしたことないから偉そうなことは言えないが、何を売るにしても、手にした先の輝かしい未来を想像させた方が良い。たるんだ体はモテない...よりも引き締まった体はモテる!だし、ガラケーは不便...よりもスマホはこんなことができる!だし、コンパクトカーじゃ物足りない...よりもSUVはキャンプも楽々!だ。思い返せば、ライザップもAppleもトヨタも、ワクワクする未来を想像させていたはずだ。

もはや購買意欲はマイナスの回避という消極的要素ではなくプラスの獲得という積極的理由に駆り立てられる。なぜなら、大抵の場合「無くても困らない」なんてことは分かっているから。それは経験則かもしれないし、SNSが人々の生活を透明にした結果かもしれない。

そんで、暗い気持ちにさせて買ってもらうより明るい気持ちにさせて買ってもらった方がみんな幸せじゃないですか。不安を吹き込んで回る人よりも、夢を語って未来を見せる人の方が、真っ直ぐだし、応援したいし、周りに人が集まりそうじゃないですか。そんな人間になりたいなぁ。みつを。

というわけで、遅ればせながらキンコン西野のオンラインサロンに加入したので、しっかり影響されたテイストの文章にしてみました。

<ギャルと婦人から学ぶ信用講座>

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