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「モルグ」③

翌朝、姉の水穂子が茄子の馬の残りの、茄子と葱で味噌汁を作った

あまりに葱が甘くて美味しかったので、小夜子は炊きたてのご飯と納豆、卵焼きまで食べた

昨日の今日だったが、卵焼きを一口食べたら昨日の踏みつけた卵のことは、どうでも良くなった

「食後の珈琲って美味しいわねぇ~。お茶でもいいんだけど、納豆食べちゃったし、珈琲にしよう。生ロールケーキ、姉さんも食べていいわよ」

「小夜子あんた、毎日自炊していないの?」

「毎日じゃないけど、ご飯炊くわよ。一人だもの、余っちゃうし。おかず余ると、ついご飯多めに食べちゃって、苦しいのよ。太った気もする。ううん、太ったのよ」

「どうせ甘いケーキやお菓子ばかり食べてるんでしょう」

「そんなことないけど、たまによ。目がさみしいんだもの、食べたいわけじゃないけど。なければないで食べないわよ」

「そうねぇ・・あーちゃんも増えたことだし、わたしも毎日のお献立には頭を悩ませるわ。結局食べ慣れているものだし」

「あまじょっぱい、姉さんの卵焼き。お塩多めの。それにめんつゆとガーリックパウダーの卵焼き。それに納豆か海苔。お味噌汁。あとピーマン切ってマヨネーズかけただけ。気が向いたらオニオンスライスにツナ缶。魚肉ソーセージとふわふわ炒り玉子。それくらいかなあ。あとシチュー。姉さんのがいいの」

「まったくあんたは」

その時見ていたニュースでは、帰省の交通渋滞が各地でピンポイントで始まった映像だった

暑さもひいてくると言う彼岸明けは

お天気も下り坂の予報だった

水の事故も増える

「小夜子がいる間に、あーちゃんと三人でお出かけしましょうよ。あーちゃんもずっとわたしとおうちじゃ、つまらないと思うのよ」

「うん、いいわよ」

最近、出がけに傘を持って行くか迷う

たいていそんな日は、予報が外れて雨になる

章と電車の中から見ると、ちょうど暮灰色の雨雲が、実家の町の辺りの上空を覆っていた

その日は実家に帰らず、章の部屋に泊まった

「最近、雨に降られる。たいした雨じゃないけど。日頃の行い悪いからかな」

「たまには、実家に顔出せば?明日は行ってこいよ」

「うん、章ちゃん。私、昨日小さい男の子が3人出て来る夢見たのよね。章ちゃん、心当たりない?」

「なんで俺が?」

「3人つるんだクソガキなんて、大人になっても悪友じゃない。あの夢の中に
章ちゃんいたかも」

「かもな」


ふっと外を見たら、外の柵の向こうに傘を差した人が立っていた

だから、雨?

そう思ったが違うようだ

傘の持ち手の上をつかんで、深く顔を隠しているように見える

少し、気味が悪い

エ○バとかって、雨の日に訪問活動するんだよな、って思ったけど、一人では来ないのだ

2人、3人、時には5人以上団体で

それまでも近所でよく会う人がいて

ああ、そうかって嫌な気分になったことがある

「姉さん、あの人知ってる?」

「えー?」

姉のほうを向いているうちに、窓の外をもう一度見た時には、もうその傘の女性はいなかった

小夜子はお盆で、人に敏感になっているせいか、踏みつけた腐った玉子をふいに思い出して、嫌がらせでは?と思った

どこでどう恨みを買うかわからない

顔の見えない訪問者

入り込むには、水はどこにでも繋がっている


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