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「幻想夜話」新怪奇幻想倶楽部

夜のとばり

俺は自分のからだと同じ色の闇の中で

大きく羽をのばす

小さな明かり障子すら見当たらない

完全にこのまちは夜にのまれているのか

静かな、静かな、夜だ

月も星も出ていない

城の真上にさしかかる

一、二度城の周りを巡ってみる

時折、内と外で小さく松明が揺れ動く

眠らぬ者もいくらかあるのか

風もない夜

不気味ですらある

だれか空に旋回するものに気付く者でもあれば、凝視する

が、窺っているのが俺だと知り、あくびをかき、舌打ちしたりして、奥に消えてゆく

上空をすこし

俺はこの城を気にかけて旋回していた

遠く空の裾が赤い

燃える火なのか、大きな別の町の灯りなのかは、わからない

この町の先に町があったのか知らない

まだ夜明けには程遠いことは知っている

黒い町

赤い町

青い町

それぞれの町の夜のとばりの色

この黒い町のどこかに

赤と青におおわれた夢をみる娘がいると聞いた

その娘はたしか

どんなに小さな羽音にも敏感で

目を覚ますはずだった

俺はふたたび大きく

のびのびと羽をひろげて合図をした


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