「オーメンド~ル」

夕焼けピンク


そんな映像が頭の中のスクリーンに映し出された

それも一瞬で

なんでだろうと不思議に思ったが

すぐに現実に戻った

昼飯、なんにしよう


さっきまでの渋滞がウソみたいだな

気持ち悪いほどスイスイとしている

眼の端の隅を合成映像のように、面白いように、不自然に流れて行く景色

通い慣れた道

知らない町

「昼飯、なに食べんね?あんたいい店、知ってるか?」


俺は左側に聞く

そいつは少し沈黙して

「最後の晩餐に、あんたならなに食う?」


「そんなこと言われてもなあ・・トンカツ?ラーメン・・いや、わからなくなってきた。たぶん、このトラックの中にあるもんでも食って終わりじゃねーかな。そもそもなんでよ?あんたはどうなの」


「口の中が気持ち悪い」


「え?ガム食うかい?ペット🅱️の緑茶ならあるけど」


「鉄臭い味がするんだよ」


変なことを言い出されたなあ、と思ったが

今日の助手だ

なぜか今日、急遽二人付きの仕事に変更になった


あまりしゃべらない奴だな

それがさっきから打って変わって

重苦しい言葉で饒舌だ


なぜかイライラしてくる

ちくしょう


甘いものを反射的に探して

フロントガラスの前
サイドボードを目で追う


奴とその時、目が合った

朝見た時、こいつこんなに人相が悪かったっけ?


けったくそ悪りぃな


「まあ、いいや。丁度道は空いているし、食堂寄ってみるべよ。どうせ搬入はあちらさんの休憩明けだしな」


恐ろしく空いた道を、加速する

加速したところで、店やコンビニはよく映る

ただ

ただ、丁度いい広さの駐車場も、飯屋ののれんも見当たらない

イライラも加速する

イライラした分、もっとイライラさせてやろうとムダに腹が立った

「鉄の味がする」


呪いのまじないのように、それは苛立ちを倍増させる


そして次の瞬間、ハンドルをおかしなほうに切り損なった

反射的にブレーキを踏んでいた

自分の声が三回くらいプレイバックした

そんな気がしただけで

俺はもう胸がいっぱいで、もうなにも食えねぇなあ・・と思った

どうしてこんな時に、鮮明に

走馬燈が走るってこんなことを言うんだな

いきなりトラックの前に飛び出して来て

キョトンとした顔の犬の顔

うつむいて口の端から血を流している、左側の奴

なんでブレーキ踏んじゃったかね

いや、普通踏むでしょ

しかもなんで

今日たまたま積んだ荷台の鉄骨が

たまたま今日始めて組んだ奴乗せて

たまたま道に飛び出したまぬけ面の犬よけてブレーキ踏んで

たまたま積んだ鉄骨が荷台と運転席の間のガラス破って突き抜けるかね

そんでそれがたまたまでも

俺と奴の心臓をドストレートに貫通するわけなの


夕焼けピンクが一瞬見えたワケが見えた気がした


え~


そんなことほんとにあるわけぇ~


ケタケタ笑っていた女の顔を思い出した


そして唐突に俺は
中国の路上で焼かれている犬の丸焼きを思い出していた




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