「CAFE404 Not Found」
一組いた客が去る
驚くべき静けさの中に思いがけず招かれたと信じたい
常に招かれざる者ではある
女性客の明るい声が消え扉が閉まったとたんに照明が落とされたのかと見まごう
11:00のランチが始まるには数分…メニューが決まらないうちに時計の針が鳴り響いていたのは…
今の今だったかほんの僅か前か…
カッチカッチカッチ
コッコカッカ
チャッチチャッチチャッチ
呼応し始める壁時計の群れ
ルームランプの水仙が逆さまになったような
ステンドグラスのスモーキーな輝き
カップの中のロイヤルミルクティの膜が、回るモーターの震音でか揺らいでいる
ふいにモーターが止まる
膜はなおも揺らいでいる
ここには風が吹いている
否、ここだけは停留している
物書きが喫茶店を訪れる理由がわかる気がした
いくつものメトロノームを置くと、その針の音はあべこべに刻まれ連動しながらやがて同調する
それを同期現象やリズム現象と言うそうだ
壁時計の音は聴いていると最初と違うような、変わらず自分の刻印を打っているかのような、考えのまとまらない混乱を与えて来る
何ダースごとに置かれたとしても同じリズムを刻めないメトロノームの自分
テーブルのすぐ脇にあるサイドテーブルの下から窺うような、罪深き時代の漂流者を照らし、巧みに引き入れる教会の灯り…
菓子の入ったアリスの缶々のデザインに
家の窓から出てくる腕があって、それを私の知人の王太子妃殿下は(潔癖から来る癇癪は置いておいて、品が良いのでそう呼んでいる)気持ちが悪いと言っていたのを思い出す
私には至って気持ちの悪さもない、言うなれば好物に近いモチーフなのだが、たぶんに真っ昼間から扉から腕だけが出て来て自分を呼んでいたら…きっと行きはしないのだが、心には作用するアプローチが重なると足を踏み入れてしまう異場所は既に用意されている
迷い込んだのも物書きの徳と悦に入り筆を取りたいが…
やはり一時の闖入者でしかない
鞄を開いた先ほど、思いがけず小分けにしていた金を見つけて、へそくりも嬉しいものだとたまの外出に気を良くして昔なじみの喫茶店に寄ったのだ
だがやはりそこは店主やメイドの(あえてメイドと書くが)常なる彼らの動きは何ら変わりのない当たり前のことで成り立っているのだが、まるきり目に入っていないように忙しなく、私はここでも居ないかの人のようだ
物語風に言えば私には魔法のかかったアリスの国への扉で境い目にある、あるのにない、ないのにある場所に居る訳なのであるが…
私には秘密がある
迷いがある
ただ今日のにはすぐ済む話だったので出口も消えずにあり、答えも自然と導かれることだった
人が迷うには森の薄暗い、鬱蒼と暗いの絶望的な違いがある
薄暗い森からの脱出の場合、それは自分が出ると心に決めることで容易に片がつく
導くために迷いと言う目眩ましの霞がかけられるのだ
思いのままに
告げればいい
書けば始まることもあるだろう