「神秘捏造」ミステフィカシオン~女人訓戒士O.D
『待ちぼうけー兎の女』①
「女は?」
「外に出ている」
「じゃ、すぐに出るぞ」
「ああ」
隣の部屋の前を通る時、不自然な沈黙の空気を感じた
息を殺して、開いているのかもわからないくらいにドアを操り、聞き耳を立てているんだろう?隣のおばさんよ
また女を残して(騙して)仕事にゆく
女には酒のツマミが欲しいと、買い物に行かせた
女は俺が長居をすると思って、喜んで出かけて行った
いなくなった後に奴が迎えに来た
一時間程前にベランダを覗いたら、下に奴の車が停まっているのが見えた
俺は煙草を吸うふりをして、奴とコンタクトを取った
「煙草吸っていたの?」
「ああ、お前嫌だろ?」
「外寒いのに」
「じゃあ、暖めてくれよ」
女が変に勘がいいと怖くなる時がある
俺は女を押し入れのへりに後ろにさせて、足を開かせた
女はどうしてこんな時にとか、不満そうだったが、爪先立って応える
声は漏らさないように、だが時々咄嗟にあえぐ
俺にとってもお前にとっても、仕事が終わるまでお預けだ
仕事の前に女を抱いたにおいは、獲物にはわからないはずだがな
「いなり寿司が食いたいな。まだ八助やってないかな」
「じゃあ、行って見てくるわ」
女はだるそうだったが、いそいそと出て行った
再びベランダに出て煙草を吸いながら、奴に合図をする
ほどなく奴が部屋にやって来る
「仕事か?」
「仕事だ。長くはかからんだろう。元々お前さんのリストにある」
「へぇ、誰?」
「◯◯◯◯」
「・・へぇ、おもしれぇ」
そう言いながら、俺の目は笑っていない
奴の車で移動する時、帰ってくる女とすれ違った
大事そうに包みを抱えて、うつむいて歩いていた
(悪かったな。戸締まりはちゃんとしろよ)
女は帰り着いて、また俺がいないから怒り、悲しさのほうが大きくなって抜け殻のように暮らす
もう長いこと寂しい思いをさせている
「懐かしくならねぇのか?◯◯とは同じ釜の飯を食った仲間なんだろ?」
「もう俺のボスじゃねぇよ。それにあいつはカタキのようなもんだ」
「じゃあ、段取りは任せるぜ」
「ああ、好きにさせてくれ」
「わかった」
(俺の子どもを殺しやがった)
(それが元で俺は殺し屋になった)
ベランダに出て、暗い夜の空を見上げている女を思い浮かべる
ひとしきり泣いたあと、それとも泣きながらか
女はむしゃむしゃと、いなり寿司を頬張っているにちがいない
そんな俺も自分の中の殺意を感じ、急激に腹が減って来るのだった