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青い太陽

電話を待っていたあの頃は、常に胸がざわめいて、四六時中相手を思っていたものである
今は片隅に置いてある
西日が執拗に窓を射る
早く開けろと嘲笑いながら、体の内側から攻めてくる
顎先にひとしずく溜まる
頁をめくりながら知らない顔をしてみせる
ただの1行ですら頭に入らない
手の甲に水滴の蓮が咲く
西の太陽はシャンパンゴールドに象牙の肌を染み抜いた
胸元の滝の流れに我慢出来なくなり
全開に羽を回すと冷気がうなじの奥まで吹き抜けた
晴天の玉のしずくはどこに消えたのか
落日燃ゆる

森の小径にあるような
ちいさなかわいいお店の中に吸い込まれてゆく
雲だって涼みたい
地上に降りて階段に乗る
水蒸気の裾を踏んでしまった
3つの小部屋を隠すように
柱があるから
その敷間の中に半分体を隠す魔女がいる
硬化して厚くなりゴワついた甲冑の皮膚
柔らかで汗を吸う衣は年輪の給わりもの
ひい
ふう
飛び越えて
みい
よう
乾いた口は止まらない
粘着質な目は迷いこんだ虫を物色してる
本当の蟇蛙はもっと無口で上品だ
この湿地のオアシスは砂漠の丘の穴に繋がっている
そこにはたくさんの蟻地獄のごとき巣穴がある
落日の彼方

電話の向こう
ライターのカチカチいう音
感情は湿るのに空気が乾くと雑音はこんなにもクリアなのか
ふと、耳飾りが揺れる音も聞かれているのでは、と思った
不思議だった
カチカチ金属の音の後
声と一諸に煙草の煙のにおいがしてくる
風の吹くノイズはなかった
落日を待つだけ

空が青かったかは覚えていない




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