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GTDの収集は本当に必要か/こざねでもカードでもないもの/倉下の情報ワークフロー2019年版

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/07/08 第456号

はじめましての方、はじめまして。 毎度おなじみの方、ありがとうございます。

「タスク管理のScrapbox」というScrapboxプロジェクトがあります。そこに「やるおわ出張所」を設けました。

といっても大げさなものではなく、『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』の第3章から第6章で紹介されている「用語」の一覧です。中身はまたほとんどできておらず(青字になっているのは、もともとこのプロジェクトにあったリンクです)、これから少しずつ埋めていく予定です。

もともとScrapboxの存在を知ったときから、ここで用語をまとめたら面白い&便利だろうと予想しており、またタスク管理に特化したプロジェクトがあったので、やるならここだろうとは考えていたのですが、なかなか作業にかかれませんでした。

が、たまたま「Happy Outlining !」というアウトライナーの情報を集めたScrapboxプロジェクトの存在を知り、

「よし、私もやろう!」と今回決意した次第です。

やはり、知見が検索可能な状態になっているって、その分野の成長にとっては大切だと思うのです。もちろん、こうやって知見を並べることで、本に興味を持ってくれる人が少しでも増えたらいいな、という著者的な欲望もあります。というよりも、著者的な利益が一応見込めるから、時間管理大臣への稟議書が通る、というのが正確なところでしょう。フリーランスというのは、その辺のバランスを考えないとあっという間に手詰まりになってしまうので。

ちなみに、用語一覧のリンクですが、やるおわの原稿を管理しているScrivenerから、行頭に「○」がついた行だけを抽出し、それぞれの行の「○」を取り除きつつ、前後に[]を入れる、という処理を正規表現による置換で行いました。手作業でやろうとしたら悪夢のような人時が必要ですが、置換ならめちゃくちゃ簡単です。

というわけで、大量のテキストを処理する必要がある方は、ぜひ正規表現を覚えておきましょう。「今までの苦労は何だったんだ……」みたいな事例が頻発すると思います。

〜〜〜 ネクスト・ステップ・ワード〜〜〜

問題を分析し、原因を突き止め、状況を理解したら、そこで止まるのではなく、

「では、どうするか?」

と考えること。

問題だ、問題だと騒ぎ立てるのではなく、あいつが悪い、あいつが悪いと喧伝するのでもなく、「では、どうするか?」と考えること。

たぶんそういう姿勢が、巷で言われる「当事者意識」なのだと思います。

〜〜〜Amazonで星一つをつけたくなる気持ち〜〜〜

揶揄する気持ちは1mmもありませんが、Amazonのカスタマーレビューで星一つの評価をつけるときの気持ちってどんな感じなのか、実に気になります。私には、そういう気持ちがまったくぜんぜん湧いてこないので、うまく想像できないのです。

もちろん、読んであまりおもしろくない(=>オブラートに包んだ表現)本というのはあります。レーティングするならば、星一つに相当する評価もありえます。でも、私の中でそういう本は、何ら感情を引き起こすことなく、ただ意識の外に消えていくのです。

たまにアニメ作品で、他人から知覚されなくなる作用を受けた人間が目の前からシュッと消えてなくなり、あたかもそんな人間なんてはじめからいなかったかのように周りの人間が振る舞う、という表現がありますが、それに非常に近い感覚です。意識から消えてなくなってしまうのです。

「ネガティブなことを言うのはよくない。もっとポジティブなことに時間を使おう」といった啓発的なアドバイスがありますが、そういうのとはまったく無関係に、意識にないのだからレビューを書こうという気持ちが湧いてきません。だから、うまく想像でないのです。

そこにあるのは、怒りなのでしょうか。それとも、作品を下に見る優越感なのでしょうか。それとも、こんなものを他の人が買ってしまう事態は避けたいという正義感なのでしょうか。

もちろん、人の動機はさまざまでしょうが、個人的には気になる対象です。

〜〜〜今期チェックしているアニメ〜〜〜

『Dr.stone』
『ロード・エルメロイII世の事件簿』
『彼方のアストラ』
『荒ぶる季節の乙女どもよ。』

まだ第一話見てない作品もあるので、もう少し増えるかも。

〜〜〜文芸ニュース1〜〜〜

2019年7月5日発売の『文學界2019年8月号』に村上春樹さんの新作短編二作が掲載されております。

「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」
「『ヤクルト・スワローズ詩集』」

説明では、”連作短編「一人称単数」その4と5”となっているので、『文學界2018年7月号』に掲載された三作品(「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」)に連なる作品だと思われます。

〜〜〜文芸ニュース2〜〜〜

ちょー話題のSF作品『三体』が2019年7月4日に発売となりました。作者は、劉慈欣(りゅう・じきん)さん。アジア人作家として初めてヒューゴー賞を受賞したと聞けば、否が応でも興味は高まります。最近の中では、ガチで読みたい作品です。

〜〜〜お経と合理〜〜〜

だいたいお経というのは、聞いてる方はまったく意味がわかりません。意味がわからないから、眠たくなってきます。

だったらお経を現代語訳して、聞いている人にも意味がわかるようにすればいいのでは?

と思ったのですが、たぶんあれは意味がわからないからいいんだと思い直しました。意味がわからない、つまり意味性の遮断。合理に対する切断装置。

そういうものが必要なタイミングがあるのでしょう。

〜〜〜メモ禁止時間〜〜〜

意味がわからないお経を聞き続けるのはよいとして、問題はメモです。お坊さんがお経を読み上げ、周りが神妙な面持ちでお焼香を上げているときに、メモ帳を取り出して何かを書きつけるのは、そうとう憚られます。ましてやスマートフォンだなんて。

結局、1時間の間メモを取ることができませんでした。その間、思いついた(=>思いついてしまった)ことを忘れないために必死で脳内で復唱し続けていました。

いろいろな苦痛の形がありますが、取りたくてもメモが取れないのは、私の中ではなかなかの苦痛です。

〜〜〜他人の技法の面白さ〜〜〜

Tak.さんの新刊が出版されました。

執筆活動(=>本を書くこと)に関するインタビュー、という趣きの本です。これが実に面白い。

でもって、以下の記事も読みました。

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 具体的にはまず、ツイートのログをダウンロードして、「食事」「セクシュアリティ」「音」のように項目を立てて分類していきました。次にそこから、時系列に沿って、様々な場面を浮かび上がらせていく。そして具体的にまとまりを持った文章に書きかえていったのですが、その作業はある意味では「形式」ということ自体について考えることでもあって、本の構造全体は一つの変奏曲のようなものになったと思います。
 <<

これも実に面白いです。

私は方法論マニアなので、そのコレクション欲求を満たすという意味でもこういうコンテンツを楽しめるのですが、それ以上に「他人のやり方」に触れることには実際的な意味がありそうです。紹介されている技法を自分がまったく使う可能性がなくても──というよりも可能性がないがゆえに──、学べることはたくさんあります。

以前、「自分」というのは他人がいるからこそ確立されるものだ、という話を書きましたが、「自分の方法」というのも、おそらくそれに近いのでしょう。

〜〜〜見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

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 障害、健常、在日、おとな、こども、老いた人、蠢く生き物たち…首都圏の底“見沼田んぼ”の農的営みから、どこにもありそうな街を、分解し、見落とされたモノたちと出会い直す。ここではないどこか、いまではないいつかとつながる世界観を紡ぐ。
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 資本主義はどこに向かっていくのか―。経済、農業、社会、教育等、第一線研究者による最先端の問題意識から、現代文明社会をめぐる難問に鋭く迫る。
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 人生百年時代を生き抜くためのキーワード「トランジション」。実はトランジションとはとても仏道的な概念だった! 悩める二〇代にMBA僧侶が現代に使えるトランジション的仏教思想を伝授。
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〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 作品に対する低評価をpublishした経験はお持ちでしょうか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2019/07/08 第456号の目次
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○「GTDの収集は本当に必要か」 #BizArts3rd
 GTDの収集(把握)について考えます。

○「こざねでもカードでもないもの」 #「メモ」の研究 #知的生産の技術
 中間的なものをどのように扱うのか。

○「倉下の情報ワークフロー2019年版」 #物書きエッセイ
 現時点の私の情報発信の流れを整理してみました。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

○「GTDの収集は本当に必要か」 #BizArts3rd

GTD(Getting Things Done)には、以下の5つのステップがあります。

・把握する
・見極める
・整理する
・更新する
・選択する
※『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』より。

今回注目したいのは「把握する」です。『はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』では「収集」と呼ばれていたこの行為は、本当に必要なのでしょうか。

■理想は?

もちろん、結論は「必要」です。収集をしなければ、GTDはぜんぜん機能しないでしょう。が、問題はそれをどの程度の強度で実行する必要があるのか、です。

『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』(以下完全版)よりいくつか引用します。

 >>
 日々のこまごまとした「気になること」から来るストレスから解放されるには、やらなければならないこと、あるいは判断しなければならないことの「すべて」を完全に把握し、それらについてとるべき行動を近いうちに必ず見直すのだという安心感を手に入れる必要がある
 <<

「すべて」を完全に把握する、とかなり強度の高い表現がなされています。

 >>
 "漏れ"なくすべてを把握していくためには、あなたがやるべきだと思っている大小さまざまなこと──プライベートでも仕事でも、緊急性のあることもそうでないことも、なにかを変えなければならないと思っていることのすべて──を集めなくてはならない。
 <<

ここでも「すべて」です。

どちらにおいても、完璧完全な収集せよ、そうでなければうまくいかない、というニュアンスが感じられます。おそらく、そのニュアンスで「収集」という行為を理解している人は多いでしょう。

なにせ著者はこう説きます。

 >>
 ここまで説明したことをきちんとやっていてはじめて、目の前にある選択肢から最善のものを選ぶことができるようになる。
 <<

なるほど、だったら「すべて」を把握することは必要でしょう。

■現実は?

一方で、こんな表現もあります。

 >>
 実際には、完全にすべてを把握できている状態を常に保つのはまず不可能である。たいていの人はさまざまなことに携わっているので、どうしても取りこぼしが出てきてしまうからだ。
 <<

なんじゃそりゃ。

「完全にすべてを把握できている状態を常に保つのはまず不可能である」でありながら、そうしなければ「目の前にある選択肢から最善のものを選ぶことができるよう」にはならないのです。

著者の言説を真剣に受け取れば、GTDはシステム的に破綻していると言わざるを得ません。

ただし、著者は上の文章をこう続けます。

 >>
 ただ、仕事やプライベートで気になっているあらゆることを”大掃除”する習慣をつけたかったら、100%やるつもりでいたほうがいい。
 <<

つまり、本当に完全完璧に把握することはできないかもしれないけれども、だからといって中途半端でいい、ちょっとだけでいい、という気持ちではなく、可能な限り集めようという姿勢が大切だ、ということでしょう。

でもって──著者がひどい人間でない限りは──そのような姿勢があれば、GTDは機能するのだと考えられます。

■全体から伝わる感じ

実際、本書を通して読むと、片方では完全性の重要さを指摘しながらも、こうして「理想は理想として」という話がちょこちょこ出てくることに気がつきます。とは言え、それは十分に注意を向けないとうまく発見できないかもしれません。その場合は、「完全性の重要さ」ばかりが頭を占めることになります。

また、このメルマガでも何度も指摘していることですが、こうしたノウハウが「濃縮」を経て伝達されると、「すべて」という部分だけが全面に出過ぎて、「理想は理想として」の部分がまったく省かれてしまうことも起こりえます。短く、わかりやすいコンテンツが持つ脆弱性です。

だからやはり、切れ端みたいなブログ記事を読んで納得するのではなく、本一冊を通して読むことが大切なのでしょう。

というのは、タスク管理ではなく情報摂取の作法の話なので、脱線を戻します。

■把握について考える

100%でなくてもいい、というならば、どの程度が現実的なラインなのでしょうか。

それを考えるために、まず「把握」(収集)という行為について考えてみます。

私が見立てるところによると、GTDには以下の「三つの把握」があります。

・開始把握
・日常把握
・週次把握

「開始把握」は、GTDをスタートするときにまっさきに取りかかる把握活動です。頭の中にある「気になるこ」とや片づいていない物やら書類などを一カ所に集めるアクションです。

このとき同時に、インボックスも設営されます。というよりも、「気になること」を保管するその場所が、インボックスになります。

ちなみに、一般的なイメージでは、大きな紙に気になることを箇条書きで書き出す印象がありますが、『完全版』では、一項目一枚で書いた方がいい(≒その方が後からの処理がやりやすい)と書かれています。つまり、メモ用紙や情報カード、ないしはアウトライナーを使った方がいい、ということですね。

そのようなツールに、頭の中に居座っている「気になること」をすべて書き出していくのが開始把握です。

これまでそうした活動を一切したことがない人は、頭の中に大量の蓄積があるでしょうから、この作業にはかなりの時間がかかります。2時間から6時間ほど、あるいはもっとという場合もあるようです。なかなかたいそうな作業です。

■日常把握

一度「開始把握」を終えて、その後の処理・整理を行えば、日常的には「たいそうな作業」は必要なくなります。

何か気になることが出てきたら、そのたびごとにそれをインボックスに入れて、処理・整理を行えばいいからです。

これは要するに「メモする習慣」というやつです。習慣を身につけること自体は簡単ではありませんが、一度身についてしまえば、呼吸をするようにメモしていけるようになります。

■週次把握

スタートに大きな把握を行い、その後日常的に把握活動をしていたとしても、やはり「取りこぼし」は発生します。また、ある時点で「これは把握の対象にすべきことだった」と気がつくようなこともあるでしょう。

そうした諸々を回収するのが週次で行われる把握です。ようするに、週次レビューですね。

これは、「開始把握」と「日常把握」の中間のような存在で、それなりに「たいそうな作業」になります。だからこそ、この週次把握で挫折する人は多いのでしょう。

メモほど日常的でもないし、かといって一度やったら終わりというわけでもない、という居座りの悪さが週次把握にはあります。

でもって、私たちが注目すべきなのは、まさにこの週次把握でしょう。

自分の経験から言っても、「気になったこと」をすべてインボックスに入れる(=>着想をメモする)行為はまったく難しくありませんが、「すべて」を把握し直す週次レビューは非常に疲れます。あるいは、気が重くなるという表現が近いかもしれません。

逆に言えば、この「気重」を少し楽にできれば、GTDと仲良くできる可能性が出てきます。

■8割レビュー

野口悠紀雄さんの『「超」勉強法』には、「8割原則」という考え方が出てきます。8割程度の完成度でもアウトプットとしては十分だし、残り2割を詰めていくのは非常にコストがかかるので、8割で良しとしておこう、という考え方です。

これを週次レビューにも応用できないでしょうか。「すべて」ではなく、8割でよしとする。なにせ、デビット・アレンも「完全にすべてを把握できている状態を常に保つのはまず不可能である」と言っているのです。その言説をより積極的に肯定して、8割程度で十分だとしてしまう。それを〈8割レビュー〉と呼んでおきましょう。

たとえば、仕事まわりはこまかくチェックするけど、プライベートは軽めに処理するとか、食料品の在庫はチェックリストを作るけども、雑貨類はスルーする、といった重みづけを設定するといった対応です。

実際、週次レビューを行うためのトリガーリスト作りに凝り始めると、いろいろな項目がそこに列挙されるわけですが、実際日常的に私たちがそれらのことを「気にしている」のかというと、結構怪しいものがあります。

毎週サランラップの在庫を確認しておけば、「あっ、しまった、ラップがない」という状況は避けられますが、だからといって、「なかったらなかったで、しゃーないあ」と思える人までそれをトリガーリストに入れておくべきだと言えるでしょうか。

「すべて」を求めてしまうと、どうしても上記のような「瑣末だけども、もしかしたら気になるかもしれない」といった項目まで確認することになり、週次レビューの実施項目は膨れあがっていきます。それが「気重」につながることは疑いありません。

だからこそ8割レビューです。自分がかなりの程度気にしており、それを逃すとあとで痛い目に合うだろうと予想できるものを中心にレビューしていく。あとは軽く済ませるか、そもそもスルーする。そのくらいの感覚の方が、長期的に把握活動を続けていけるのではないでしょうか。

■さいごに

もう一度、デビッド・アレンの言説を引いておきます。

 >>
 ここまで説明したことをきちんとやっていてはじめて、目の前にある選択肢から最善のものを選ぶことができるようになる。
 <<

私から提示する疑問は次の二つです。

・そこまでしないと最善のものは本当に選べないのか?
・最善のものが選べないと何がマズイのか?

この点について考えた上で、把握活動は行っていきたいものです。

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