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遍在する記録とノート──『すべてはノートからはじまる』 #04

なぜ、ノートを書くことが必要なのか。情報が多すぎる現代において、私たちはノート(記録)とどのように付き合えばよいのか。身近でありながらも、現代的な困難を内包するその問題を解き明かす『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』。その一部を公開します。

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第1章 ノートと僕たち 人類を生みだしたテクノロジー(03)

ノートは遍在する

そもそも意識しようがしまいが、私たちの生活はノート(記録)に囲まれています。

買い物をすればレシートが発行され、カードを提示すれば企業のデータベースにポイントが記録されます。銀行の通帳には入出金の記録が並びますし、給料明細は一ヶ月の労働の記録です。経費を清算するためにはレシートという記録を提出しなければなりませんし、確定申告は正確な記録がものを言います。戸籍や住民票も記録ですし、あなたが今読んでいるこの本も一種の記録です。携帯電話を持って移動しているなら、GPSのデータが記録されています。記録だらけなのです。

2010年頃からはビッグデータという言葉も使われはじめましたが、もちろんそれも記録です。手帳ブームや日記ブームも記録の話題ですし、インスタグラムに写真を投稿したり、YouTubeに動画をアップしたりすることも記録を使った活動です。結局、どこを見渡しても記録だらけです。アナログツールだけでも相当な記録がありますが、デジタルツールが普及するようになって、加速度的に人類が持つ記録の数は増えました。社会全体が、情報化(記録化)し、記録を扱うことが欠かせない状況となっています。むしろ、記録の扱いを通して情報を処理することが市民としての前提になっている社会を情報化社会と呼ぶのかもしれません。

また、そうした文明の発展をすべてはぎ取ったとしても、私たちがDNAを持つ生命体である事実は残ります。DNAも一種の記録であり、記録であるからこそ、有用な特性が次の世代に受け継がれるのです。もしそれが揮発的で刹那的なものであれば、進化は起こり得なかったでしょう。つまり、遺伝子というコードによって、生命の脈は前の世代から、次の世代へとつながりつづけているのです。むしろ、人間の記録の扱いは、DNA的な記録による進化を、高速かつ広範囲に回していく行為だといえるかもしれません。記録を扱うことは、生物的にも肯定されるのです。

このように、どこに目を向けても、私たちの周りには記録が存在しています。私たちは、記録に囲まれ、記録に支えられることで、現在の生を全うしているのです。

であれば、そのノートの力を意識的に、積極的に使ってみてはどうでしょうか。少なくとも、それを望むことはだいそれた話ではありません。ノートは、人類の歩みを力づけてきましたが、それは別に「人類」という集合に働き掛けたわけではなく、一人ひとりの人間がノートを使い、その能力を発揮させてきたに過ぎません。

だから、現代社会を生き抜こうとする私たちにだって、ノートの力は役立てられます。むしろ、そうした要請が現代では高まっているのかもしれません。

ノートの定義

ここで本書が名指すノートについて確認しておきましょう。本書では、人間が記録を扱うための道具すべてを「ノート」と呼びます。私たちが「ノート」と聞いて思い浮かべるノート帳(ノートブック)は、ノートの一つではありますが、それだけがノートではありません。大学ノート、レポート用紙、手帳、家計簿、日記、情報カード、パソコン、スマートフォン、タブレット、といった道具・端末だけでなく、書籍、論文、ブログ、グループウェア、SNS、Wikiのようなメディアも含めてノートと呼びます。書き留め、記録を残し、情報を後から使えるようにすること。そのような性質を持つ道具すべてが、ノートです。

また、積極的に記録の力を利用しようとしている人をノーティストと呼び、そのための活動をノーティングと呼びましょう。本書は、ノートの力を踏まえた上で、ノーティングの技法を理解してもらい、ひとりでも多くのノーティストを育成することを目的としています。

天才的な活動で有名なレオナルド・ダ・ヴィンチも、ノーティストとして有名です。彼は奇妙なノートを積極的に取っていました。種の進化を発見したダーウィンもたくさんの観察ノートを取っています。それ以外にも、多くの科学者が積極的に観察日記や実験記録をつけています。彼ら彼女らもまたノーティストです。京大型カードの発案者と言われる梅棹忠夫もノーティストですし、手帳にいろいろ書きつけている人もノーティストです。一日の作業記録や、ダイエットのために体重や食事の記録をつけている人もノーティストです。その意味で、自覚することなくノートの力を利用している人はたくさんいるでしょう。

このように、いったんノートの定義を広くとれば、その活用の場は学業だけにとどまりません。仕事や趣味、プライベートなプロジェクトやゲームといった個人の活動すべてに広がっていきます。むしろ、現代社会で記録が使われていない場面などほとんどないことを考えれば、人生のどこにおいてもノートは活躍してくれるでしょう。その傾向は、情報社会になればなるほど強まり、個人だけでなく集団や共同体においても発揮されるようになっていきます。

なにせ、ノートにはチートとも呼べる力があるのです。使わない手はありません。

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目次

はじめに ノートをめぐる冒険
第一章 ノートと僕たち 人類を生みだしたテクノロジー
第二章 はじめるために書く 意志と決断のノート
第三章 進めるために書く 管理のノート
第四章 考えるために書く 思考のノート
第五章 読むために書く 読書のノート
第六章 伝えるために書く 共有のノート
第七章 未来のために書く ビジョンのノート
補 章 今日からノートをはじめるためのアドバイス
おわりに 人生をノートと共に


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