Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/12/17 第427号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。
12月14日にマークダウンの解説書が発売されました。
最近のエディタでは、マークダウンが使えるものが多いのですが、案外「見出しくらいは使えるけど、それ以外はあんまりわかっていない」という方がいらっしゃるかもしれません。
本書はかなり基本的なレベルからマークダウンを解説してくれているので、「リッチテキストエディタは重いから嫌なのだが、リッチな表現(太字など)は使いたい」という要望をお持ちならば、本書が役立ってくれるかと思います。
〜〜〜大切なものは目に見えない〜〜〜
『星の王子様』という作品に、「大切なものは目に見えない」という有名な台詞があります。キツネさんの台詞ですね。
ここでKPIについて考えてみましょう。「Key Performance Indicator」(重要業績評価指標)の略です。
その業務において重要な要素を、測定可能な指標で表し、その数字を改善させることで、業務を重要な要素に向けていこう、といういかにもビジネスフルな考え方で、それはたしかに有用ではあるのでしょう。
では、「信頼」はどうでしょうか。信頼は数字で測定できるでしょうか。
読者が、ページにアクセスしたら、そのページを信頼していると言える? 長い時間記事を読んでいたら? そのページで広告をクリックしたら? 買い物をしたら?
使えるのは、どれも代替の数字でしかありません。信頼というものは、目には見えないのです。
だから、日々の行動の蓄積で、自分が誰かからの信頼を獲得していても、それは目には見えません。実感としてもきっと感じられないでしょう。
で、たとえば、困ったときとか、助けが必要になる事態になったとき、はじめて信頼に基づく助けの手が差しのばされて、「ああ、自分は信頼されていたんだな」ということが、実感としてわかるわけです。
この話からいくつかの教訓が導き出せるでしょうが、とりあえず「大切なものは目に見えない」ので、自分がそれを持っているかどうかも自分ではわからない、ということは気に留めておいた方がよいでしょう。
〜〜〜得意な魔法〜〜〜
"得意な魔法を自覚しておくと それは自分を信じるべき時に支えてくれる自信となる"
『とんがり帽子のアトリエ』(4)よりの引用です。
大切なのは、「信じるべき時」というフレーズですね。日常的な自信ではなく、いろいろなことが混み合っていて、絶対的なものが何一つ見えず、それでも前に進むためには、歯ぎしりをしても何かを掴んでいなければならないときに役立つ自信です。
ここぞというときのために、持っておきたいものです。
〜〜〜みつけた本〜〜〜
今週見つけた本を四冊紹介します。
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テクノロジーは知覚の未来をどう変えるのか?
大学や企業の研究室で、バイオハッカーの地下室で、「世界の感じ方」を変える研究が進められている。
キーワードは「バイオハッキング」。身体を「ハッキング」して知覚を操作しようという研究では、今まさにSFが現実になろうとしている。
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※:ユヴァル・ノア・ハラリの『ホモ・デウス』で示されていた道の一つですね。着実に進行しているようです。
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主体の叛乱(68年)から記号の氾濫(ポストモダン)へ。「神」が去ったニヒリズム時代。永劫回帰なシミュラークルの世界で我々は、はたして、いかなる戦略が可能なのか?
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デリダで/とともに考えるのは、ソクラテスからオウム真理教まで! デリダの脱構築を手がかりに、政治と宗教と権力の力学をあぶりだし、死刑を考えるためのハンドブック。編者の緒言をはじめ、六人の執筆者による書き下ろし。
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※:ぜんぜんどうでもいいですが、「デリダで/とともに考えるのは」という表現が実に現代思想っぽいですね。
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社会における習慣、ルール、貨幣、結婚といった「制度」はなぜ「存在」するのか。経済学、社会学、人類学等の社会科学が独自に分析してきた「制度」という問題を、ゲーム理論、分析哲学といったツールを駆使して、共通の土台を作ることを目指した気鋭の科学哲学者による野心的な試み。
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※:個人的にシステム論は大好物なので、読んでみたい一冊です。
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。
Q. 得意な魔法(スキル)はありますか?
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週はやや長めの連載をあわせ、合計三つの記事をお送りします。
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2018/12/17 第427号の目次
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○「Allbox式Evernote運用のコツ」 #Evernote
Evernoteを1ノートブック式で運用する際のコツをご紹介。
○「ポータルが欠如したウェブ」 #やがて哀しきインターネット
「検索があればいい」と言い切れるかどうか。
○「編集が作品を生む」 #物書きエッセイ
本作りにおける編集の役割について考えます。
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
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○「Allbox式Evernote運用のコツ」 #Evernote
以前、Evernoteをたった一つのノートブックで運用する「Allbox」方式を紹介しました。現状の私が運用している方法でもあります。
今回は、そのAllbox式で運用するちょっとしたコツを紹介しておきます。
■Macクライアントで
まず、使うのは Mac for Evernoteです。まかり間違っても、ブラウザ版は使いません。特に最新のブラウザ版は、ノートブック・スタックを扱えないので壊滅的です。
また、後述するいくつかの理由からもMac for Evernoteの利用が推奨されます。
■サイドバーは隠す
Allbox式では、ノートブックを一つしか使わないので、サイドバーの表示を消してしまいます。メニューの「表示」に「サイドバーを隠す/表示」という項目があるので、それを選択すればOKです。
サイドバーを消すと、ノート表示領域が広く使えるようになります。「展開したカードビュー」ならば6×4個のノートが一覧できますし、「サマリービュー」でも、エディタ部分を広く取れます。快適です。
ビュー・スタイルについては、以前は「展開したカードビュー」を使用していたのですが、最近は「サマリービュー」を使用しています。一覧性で言えば、圧倒的に「展開したカードビュー」なのですが、ノートを編集したときのノート順の変更挙動に差があるので、「サマリービュー」を使っています。
たとえば、ノートブックを上からチェックしていくとしましょう。ソート順は更新日順です。で、チェック中にノートタイトルがついていない無題のノートを見つけたとします。当然のように、そのノートを編集するのですが、「展開したカードビュー」では、ノートのタイトルを編集すると、そのノートの更新日順が変更され、ノートがソートのトップに移動し、それと共にスクロールも移動します。つまり、上に戻ってしまうのです。
その点、「サマリービュー」であれば、ノートを編集して更新日が上書きされても、ノートブックリストのスクロールはそのまま維持されます。つまり、自分が見ていた位置が維持されるのです。
上から下にずずーっとノートをチェックしていく使い方の場合は、こちらの挙動の方が適切でしょう。なので、一覧性を犠牲にして「サマリービュー」を選択しています。
■ショートカットを利用する
Allbox方式とは言え、Evernoteにノートブックがたった一つしかないわけではありません。この方式をスタートする前に作ったノートブックは残っていますし、そうしたノートブックから情報を引き出すこともあります。
そうしたときは、いったんサイドバーを表示させてノートブックを選択肢しなおさなくても、ノートブックリストの上部にはノートブックの移動メニューがあるので、それを使えば問題ありません。
また、定期的に訪れる必要があるノートブック(私の場合は、「保管庫」というノートブックがそれで、売上げデータや取扱説明書が入っています)に関しては、ショートカットに設定しておきます。
ショートカットは、サイドバーの上部に表示される、名前の通りアクセスを簡略化するための機能です。その領域にノート、ノートブック、タグ、保存された検索をドラッグすれば、それが保存され、ワンクリックでそこにアクセスできるようになります。
当然のように、サイドバーを表示させておかないとクリックできないのですが、ショートカットキーに対応しているので、実はサイドバーが表示されていなくても使えます。
たとえば、ショートカット欄の一番上に置いたものは、command + 1 でアクセスできます。二番目ならcommand + 2 です(9個までしかショートカットキーは効きません)。
これを使うことで、定期的に訪れる可能性があるノートブックについては、ショートカットキー一発で移動できます。また、普段表示させているノートブックも登録しておくことで、どこの場所に移動しても、コマンド一発で「現状復帰」できるようになります。
私の場合は、coomad + 1 がメイン利用しているノートブック、command + 2 がそのノートブックに入っているhubノート(さまざまなノートリンクが貼ってあるノート)に対応してあります。
これでマウス操作を介さずに、いつでも「ホーム」な状態に帰ってこられます。
■クイックサーチ
もう一つ、Mac for Evernoteで便利なのが、command + j です。このショートカットキーを叩くと、Macのspotlight検索(control + spaceで開くやつ)と似た画面が表示され、そこに文字列を打ち込むと、「それっぽいもの」を検索し、候補を提示してくれます。
「それっぽいもの」の対象は、ノート、ノートブック、タグ、の三種類。よって、先ほどの「保管庫」ノートブックへのアクセスも、ショートカットキーを使わずに、このクイックサーチからもアクセスできます。
これはかなり便利なのですが、「それっぽいもの」の名前を覚えていないと使えない、という問題があります。たとえば、「保管庫」を探そうと思って「保存庫」と入力してしまうと、候補が出てきません。Scrapboxなら一文字ぐらいの誤字は許容してくれるので見つかりやすいのですが、このクリックサーチの場合は、きちんと文字列を把握しておかないと目的のものが探せません。
逆に言えば、頻繁に利用していて、指が覚えているような対象(ノート、ノートブック、タグ)であれば、サイドバーを表示させなくても、楽々移動できます。もちろん、そうして移動した後に帰ってくるときは、command + 1や command + 2でOKなわけです。
■「未整理」タグを付けるように
Allbox方式では、タグが鍵を握るので、できるだけタグ付けが促進されるようにしています。以前R-styleでも書きました。
まず「未整理」というタグをつけて放り込んでおき、処理する段階でそのタグを消して適切なタグをつける、という流れです。
ノートブックを移動させないので、この「未整理」タグがついたノートと、それが剥ぎ取られたノートが一つのノートブックに同居することになります。そこで、「未整理」タグへのアクセスも確保しておきます。command + 3にそれを割り当てています。
これで、command + 3 がいわゆる「inbox」へのアクセスに相当します。そのキーを叩けば、「タグづけ待ち」のノートが一覧表示されるので、機能としてはまったくinboxです。しかし、そのノートはallboxに存在しており、タグを付けてもノートブックは移動しないので、純粋な意味で「inbox」ではありません。強いていえばvirtual inboxでしょうか。
この仕組みのおかげで、普段表示させているノートブックで、ぷらぷらとスクロールしながら、処理済みと未処理のノートを両方を目に入れつつ、処理の旅を進めていくことも、「未処理」タグにアクセスして処理したいノートだけをピックアップすることもできます。気分によって、アプローチを変えられるが非常に良いですね。複数ノートブックシステムではこうはいきません。
ちなみに、「未処理」タグへのアクセスは、ショートカットキーでも可能ですし、もちろんcommand + j のクイックサーチから「未整理」を入力してもいけます。この辺も気分で使い分けられます。
■さいごに
Mac for Evernoteでは、サイドバーを表示させなくても、自由にノートを移動できます。Allbox方式にぴったりです。
イメージとしては、普段はAllbox用ノートブックを表示させておき、必要に応じてcommand + j で好みのタグへとジャンプし、command + 1 や2のショートカットで元の場所に帰ってくる、という使い方です。これがすこぶる快適です。
あとは、検索結果の表示が、もっと速くなれば……
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