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アイデアのログ性と素材性/忙しさの魔力/GTDにアーカイブ/書き手としての信頼を積み重ねる

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/10/26 第524号

○「はじめに」

うちあわせCast、最新回が配信されております。

頭の方は『独学大全』の話を少しして、その後はTak.さんや私が最近手がけていることについていろいろお話しました。年末、そして来年冒頭あたりから、また新しい動きがありそうな予感です。

〜〜〜必要な文字数〜〜〜

最近『独学大全』を読んでいます。とんでもなく分厚い本です。

しかし、むやみやたらに分厚いわけではありません。手厚く情報をフォローしようとすると、これくらいの分量は必要になってくるのでしょう。

そういえば、『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』を書いたときも、分量的な悩みがありました。タスク管理の基本を押さえつつ、さまざまな技法を紹介し、それぞれの技法を詳しく紹介していくと、とても新書一冊分のボリュームでは足りません。

そこで、タスク管理の入門書的なものはもうすでにたくさんあるのだから、この本では技法の俯瞰を主要な目的の一つにしようと決めたのでした。

もし、文字数の制限がなく、『タスク管理大全』を書いて良いと言われたら、やっぱりとんでもないボリュームになっていただろうと想像します。

〜〜〜管理しなくても〜〜〜

便利なツールについての妄想は止まりません。

先日も、AIアシスタントに「前に洗車したのっていつだっけ?」と聞いたら「前回に洗車が実行されたのは9月21日でした」と答えてくれたらすごく管理がやりやすいのになと妄想しました。

現状ならば洗車を実行した後、次の洗車のタイミングを自分で決めてリマインドするか、カレンダーに登録することが必要です。ないしは、何かしらのリストを作り、それを更新しておく作業が必要でしょう。

一方で、AIアシスタントに「今日、洗車をしたよ」とだけ声を掛ければ、それがログとして記録され、それまでの行動記録から適切な期間を計算し、自動的に次に行うタイミングを決定した上で、私からの質問に答えてくれたり、必要なタイミングが近づいたらそれとなくリマインドしてくれるようになるなら、おそらく今人間が行っている「タスク管理」に関する行為の7割くらいは消えていくでしょう。

いつかは、「昔人類はタスク管理というのを自分でやっていたんだよ」と驚かれる時代がやってくるのかもしれません。

〜〜〜知識労働者はどこに〜〜〜

とある方からコメントをいただいて、Amazonで「知識労働者」を検索してみると、知識労働者のノウハウ本がほとんど発売されていないことに驚きました。もしかして、日本には知識労働者がほとんどいないのかもしれません。

なんてことは、もちろんないでしょう。

単に、「知識労働者」であるという自己認識がなく、そのためのコンテンツを探すことがないので、出版社が作っていないだけなのでしょう。あるいは、出版社が作っていないから、「知識労働者」であるという自覚が生じていない可能性もあります。両方ということも。

なんにせよ、「ホワイトワーカー」や「デスクワーカー」といった、具体的に何をしているのかいまいちわからない名前よりも、「知識労働者」の方が実体に近しい呼び方だと思います。

でもって、知識労働者のためのノウハウも、これからもっと重要になっていくでしょう。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

『数学者と哲学者の密室――天城一と笠井潔、そして探偵と密室と社会』( 飯城勇三)

ミステリー小説のようなタイトルですが、評論書です。天城一と笠井潔の二人の作家の作品から本格ミステリーの本質が論じられているようです。

『ゼロからつくる科学文明 タイムトラベラーのためのサバイバルガイド』(ライアン・ノース)

もうタイトルから面白そうですね。"あなたの壊れたタイムマシン「FC3000TM」はいま紀元前25000年にいます。もう現代には戻れません。皆のため、あなたが農業を発明しましょう!"という内容紹介。多分漫画の『Dr.STONE』と似た雰囲気なのでしょう。

『(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、あの名作小説を面白く読む方法』(三宅香帆)

すごくぶっちゃけたタイトルですが、内容は小説の「読み方」の本です。具体的には、『若草物語』『カラマーゾフの兄弟』『金閣寺』『老人と海』『吾輩は猫である』『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『雪国』『グレート・ギャツビー』『ペスト』『源氏物語』『サラダ記念日』といった作品をいかに楽しんで読むかについて紹介されています。もしかしたら賛否あるのかもしれませんが、個人的には本の楽しみ方を伝えるのは大切なことだと感じます。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 小説ってどのように楽しまれていますか?

では、メルマガ本編を始めましょう。

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○「アイデアのログ性と素材性」 #知的生産の技術

以前、まったく新しい情報管理ツールを夢想していました(そういうことをよくやっています)。

そのツールは、二つのビューを持ちます。一つは、タイムラインビューです。

タイムラインビューでは、新規メモはすべて時系列に並びます。画面のやや左サイドにまっすぐ縦線が引かれており、その右側がメモ領域、左側がタイムスタンプ領域になっています。

新規メモが作成されると、一番下に新しいメモが追加され、その横に現在時刻がスタンプされます。メモは、一行だけでもタイトルを持つ文章でも、URLのクリップでもなんでも構いません。すべてのメモが、そのタイムライン上に並びます。

デフォルトではソートは日付の昇順ですが、設定で降順に変えることもできます。ただひたすらにスクロースして目的の日付を探すこともできますし、日付を打ち込んで目的の日付にジャンプもできます。なんなら、自動スクロール機能やランダム表示をつけてもよいでしょう。「一週間前」や「一年前」という表示ができても面白そうです。

まずこのようにタイムラインビューでは、すべてのメモが一本の線の上に並びます。そしてこれは、人間の意識のメタファーでもあります。ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

「記録すること」「振り返ること」という観点から考えると、一本の線の上に着想という意識現象の結果を書き記しておくことは、使いやすさの向上につながるでしょう。

■リレーションビュー

新しい情報管理ツールのもう一つのビューがリレーションビューです。

リレーションビューは、情報の関係性に応じてメモを配列してくれます。また、その配列をユーザーが再設定することも可能です。

たとえば、 「Evernote」というレイヤーを設定すれば、メモの中に「Evernote」という文字列が含まれるものが集まります。さらに、そうして集めれたメモを、操作することも可能です。イメージとしてはアウトライナーが近いでしょうか。

つまり、タイムラインビューでは時系列に固定されていた情報たちが、リレーションビューでは操作可能になるのです。こちらは、意識ではなく記憶のメタファーです。

よりスマートに最初のレイヤー作りを進めることもできます。たとえば「(本文ではなく)タイトルにEvernoteが含まれいるメモ」「2018年以降に作成されたメモ」など、最初に手繰り寄せる条件を設定できるのです。

もちろん、そうして集められた要素以外にもレイヤーにはメモを追加することが可能です。タイムラインビューからaddすることもできますし、別のレイヤーからドラッグすることもできます。

そのレイヤーは、その場で解散させても良いですし、保存して利用することもできます。イメージとしては、iTunesなどのプレイリストが近しいでしょうか。

さらに、一つのレイヤーには、別のレイヤーを追加することもできます。二つのレイヤーの要素を同列に並べる「マージ」や、一つのレイヤーの中に別のレイヤーを階層として入れ込む「エンベッド」など、複数の追加方法があります。

言うまでもなく、レイヤーの操作をしているときでも、新しいメモを追加することができます。その場合は、追加した日時をタイムスタンプとして、タイムラインビューにも追加されます。

もちろん、どれだけリレーションビューで要素を操作したとしても、タイムラインビューでの表示には一切変化はありません。いつでも望むままに、ユーザーは時系列で自分の着想の歴史を眺めることができます。

■編集をどうするか

ここまでツールの妄想を膨らませたところで、一つの疑問にぶつかりました。

「既存のアイデアを修正したときに、どうするか」

書き間違えを直すのではなく、肉付けしたり断定の強度を落としたり(だ→だろう→かもしれない)、言い回しを変えたりすることはよく起こるものです。特に、リレーションビューで要素をいじっているときなどは頻繁に発生するでしょう。

もし書き換えを許容してしまえば、時系列が崩れてしまいます。しかし、書き換えを許容しなければ資料保管ツールとしては使えますが、アイデアメモツールとしては役立たずとなります。

となると、書き換えが発生した時点で、その複製を生み出せばよいでしょう。

たとえば、以下のような形です。

2020年10月23日 人は自分で癒やされる。
2020年10月24日 人は自分で癒やされる。本はその触媒となるだけだ。
(→ID:2432t3y14t3g

10月23日のメモを24日に書き換えた場合、同じメモオブジェクト(≒同一のIDを持つメモ)のコピーが新しいタイムスタンプと共にコピーされます。その際23日のメモもタイムラインビューには残っています。一方、リレーションビューで表示されるのは常に「一番新しいタイムスタンプを持つメモオブジェクトだけ」としておけば、情報の操作では困りません。

このことを逆から見ると、書き留められたメモには、「自分がそのタイミングでそれを思いついた」というログ性と共に、その思いついたものを使って何かを組み立てる素材性の両方が潜んでいることがわかります。アウトラインビューとリレーションビューはその両方を押さえるものです。

と、ここまで考えた上で、まず自分のプログラミング技術では実装できないだろうなと思って、このツールを作る計画は破棄されました。残念。

■二つを共に

上記のツールは、アナログ的メタファーで言えば、「ノートであり、カードでもある」ツールです。

アナログで言えば、ノートであることを選べばカードであることは破棄されますし、逆にカードであることを選べばノートであることは破棄されます。どちらか一つを選ばなければならないのです。

一方で、「デジタル的」に考えれば、その両方をビューの切り替えという形で実現できます。でもって、あくまで想像の産物でしかありまんせんが、上記のツールですごく便利に使えそうです。

この記事を読んだ開発者さんがよっしゃいっちょ作ったろうと一念発起してくれることをほのかに期待しつつ、私としてはデジタルにおける「Aでもあり、Bでもあること」についてもう少し考え続けようと思います。

(つづく)

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