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アリアハンから旅立とう

たとえば、ドラクエ3の世界をイメージしてみよう。

アリアハンは城下町ではあるけれども、たいして栄えてはいない。そして、魔物の驚異度も低い。町の外には魔物が出ることには出るがスライムである。武器屋がひのきのぼうなどを販売していても、なんとかやっていけるレベルの驚異度だと言える(でなければ町は崩壊しているだろう)。

その意味で、アリアハンは、魔王軍に対して一番危機感のレベルが低い(切迫していない)地域だと考えられる。やばいことは知っているが、あくまで伝聞というわけだ。

そのような町から勇者は旅立った。将来魔王を打ち倒す存在が生まれた。

一番危機感の低い場所から生まれる勇者。

このイノベーションに注目したい。

魔物がむちゃくちゃ強い地域に住んでいる人間が、「このままじゃヤバい」と強い危機感を持って立ち向かったのならばわかる。そこではガムシャラな努力が行われるだろう。しかし、勇者にとっての身近な魔物はスライムなのだ。世界の危機は、伝聞として耳にしているが、まだアリアハンでは伝承レベルではないだろうか。

にも関わらず、勇者は旅立った。

そこには二つの要素があったと思う。

一つは想像力だ。自分の身の回りの出来事だけから世界を理解しないこと。いまだ訪れていない、しかし訪れたら厄介なことになる未来をイメージできること。それがなければ、旅立ちは生まれない。

しかし、旅立ちがあればそれでいいわけではない。

レベル1の勇者がいきなりさまようよろいと戦えば間違いなく負ける。試行錯誤しようが、何度セーブ&ロードしようが勝てない。毎回の攻撃がかいしんのいちげきでも勝てない。彼我の差は圧倒的である。

逆にスライムならどうか。スライムならレベル1の勇者やルイーダの酒場で飲んだくれている仲間でもなんとかなる。試行錯誤やセーブ&ロードや、道具袋に詰めまくっている薬草を駆使すれば倒せる。倒せれば経験値が溜まりお金が手に入り、それが次なる敵へと立ち向かう力を与えてくれる。

つまり、何かが可能となる環境、失敗と成功の両方の可能性が存在する環境であることが必要なのだ。つまり、「ぬるい」環境が。成果を即座に求められず、何度失敗してもチャレンジしなおせて、その間に少しずつ力をつけていけるような環境が。

もう一度言おう。ドラクエ的イノベーションでは二つの要素が必要だ。想像力とぬるい環境だ。

ぬるい環境でないと人はゆっくり成長していけない。しかし、ぬるい環境で旅立とうと決意するためには想像力が欠かせない。

どれほど切実に感じていたとしても、レイアムランドから旅立とうしてはいけない。たしかにそこには不死鳥ラーミアが待っているが魔物たちは極めて凶暴で、そのそも捧げるべきオーブなんて一つも持っていないのである。

想像力を持って、アリアハンから旅立とう。それは決して恥じるようなことではない。世界を救った勇者だってそうしたのだから。あるいは、それを成したものが勇者と呼ばれたのだから。

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