DoMA-Styleの始め方
DoMA式はその性質から、私がカッコいい構造を提示して、「ほら、これがあなたの目指す場所ですよ」と最終形を示すことができない。
一つには、どれが目指す場所なのかは私には判断できないからで、それぞれの人が適切な構造を判断していくしかない。言い換えれば、その構造が適切かどうかの判断は当事者にしかできず、部外者である私には何もできない。
もう一つには、そもそもDoMA式には「最終形」なるものがない、という点もある。注意をベースに構造を作り替えていくこのやり方では、使用者の注意がバージョンアップするたびに構造も変わっていく。むしろ、その止めどない変容の全体像こそがDoMA式の要点でもある。
よって、DoMA-Styleは、既存のノウハウのような広め方ができない。ゴールを示し、人々をそこへと導くという、「救世主スタイル」は使えない。
せいぜい私にできるのは、DoMA式の始め方を提示するだけである。
DoMA式の始め方
私はWorkFlowyでやっているが、項目数の上限がないDynalistの方が始めやすい人も多いだろうから、そちらで説明するとしよう。
まず、新しいDocumentを作り、そこに「その日」の項目を作る。
最上位項目はUntitledのままでもいいが、何かしら名前を与えておくのがよいだろう。直感的なのは「Home」だが別の名前でもよい。「Mind Garden」でも「My Brain」でも、自分が一番しっくりくる名前を与えればいい。ともかく「この場所は、自分にとって何になるだろうか?」を想像力と妄想力を働かせて考えることだ。
その時点で、強いて名前を与えなくなければ「Nameless place」とでもすればいいだろう。まさにそれが(その段階での)その場所の名前なのである。だからそれを与えておく。
この名前はいつでも変更可能なので、しっくりくるものが見つからなければ仮につけておいて、「この場所は、自分にとって何になるだろうか?」という問いを抱えておけばよいだろう。
その日のこと
で、その日項目の下に、「その日のこと」を書き並べていく。まずは「その日やること」や「やろうと思っていること」から書き並べることになるだろう。誰しも注意はそこに向けられるはずだから、出発点としては悪くない。
ここまでが、ベースである。あとは、多様にアレンジできる。
たとえば、その日やることではないが、その日に思いついたことや気になっていることを書くスペースを設ける手がある。その際は、区分となる線を置いておくと見分けがつきやすい。アウトライナーならば、区分を超えて項目を動かすことも難しくない
また、スケジュールを上にしたいなら、上にしてもいい。
「極力やること」と「できればやること」を分けたいなら分けてもいい。
他にも、さまざまな書き方がある。既存の手法に制約されることなく、自分が情報をどう並べたいかを考えるとよい。つまり、「あなたの中の情報区分はどうなっているだろうか?」がここでは問われている。どんな情報を、どのように扱いたいのか。自分に問うて、その答えをアウトライン上で表現すればいい。
一日を進める
「やること」や「考えること」など、「気になること」が片づいたら(つまり、気にならなくなったら)、コンプリートして消してゆく。WorkFlowyやDynalistなら、command + returnでコンプリートできるので手軽である。
新しく「気になる」ことが増えたら、それを書き足す。気にならないことなら書き足さない。
気になるけども、それは今日じゃない、ということならば、下の方に書き足しておく。そういうものが多い人は、先ほどあげた区切り線が有効である。
一日を終える
で、一日を終える。そこには、コンプリートされた項目と、そうでない項目が並んでいるだろう。それを処理していく。
まず、一日が終わった時点で気にならなくなったものは消してしまう。これはコンプリートされたものも含む。あなたがログを気にしないなら、コンプリートされた項目を消してしまっていい。気になるなら、それは置いておこう。
次に、コンプリートはされていないが、気にならなくなった項目も消す。たとえば「電池を買わなければならないと思っていたけど、引き出しの奥から出てきた」とかなら、「電池を買う」を消してしまう。削除。デリート。
他にも、まあいいかと思ったものはどんどん消していく。別に構わない。もう一度注意を向けたときに、書き出せばいいか、くらいの気持ちで行く。
でも、すべてが消えるわけではない。これは残しておきたい、気になっているというものも残る。それがはっきりわかるなら、その項目はシフトアップする。「デイリー」と同じ階層に並べておく。
ただ、その段階ではなんともいえない項目もある。そういうものはいったん置いておく。そして、翌日を迎える。
一日経つと、新しいデイリーが作成される。さあ、決断のときだ。昨日残しておいた項目をどうするか。やっぱりいらんと消すか、これは大切とシフトアップするか、それとも……今日もう一度考えようかと今日のデイリーに移動させてくるか、だ。
最後の手段は、奥の手である。秘奥義と言っていい。いろいろ考えたけど、決断が下せなかったら、今日もう一度考える時間をとってみる。そういう扱いだ。決して「考えるのが面倒だから、今日に移動させる」ということはやってはいけない。それをやりはじめると、デイリーはすぐさまにパンクしてしまう。
DoMA式は、考えないためにやるのではない。考えるためにやるのだ。
だから、残された項目について考える。注意を向けたいから残すのか、別の項目に下に配置させるのか、それとも不要だと消してしまうのか。その思考を経てなお、その段階では決断が下せそうにないなら、もう一日だけ猶予を設ける。そういう緊急避難的なやり方である。
その点さえ踏まえておけば、あとは何をどうしようが大丈夫である。どんな項目を立てても、どんなリストを作っても、あなたの注意に合っている限り、この方式はうまくいく。
各種ノウハウを融合するプラットフォーム
DoMA式はこれまでの仕事術のように完成された最終形を提示することはできないが、しかし、ここでさまざまな仕事術が役立つことになる。
つまり、どんな項目を作るのか、どんなリストを作るのかについて、各仕事術が提示する方法が適用できる。言い換えれば、あなたが「あなたの構造」を構築するとき、各仕事術の「構造」が、パーツとして機能する。全体はまた断片でもあるのだ。
「いつかやりたいこと」がたくさんあつまるなら、「いつかやりたいこと」リストを作ればいい。それは、毎日確認するものではないから、下の方に送るか、何かハッシュタグを付けておいて、いつでも釣り上げられるようにしておけばいい。
「連絡待ち」の気になることがあるなら、「連絡待ちリスト」を作ればいい。それをデイリーに近い場所(なんなら上部)に配置しておいて、すぐに確認できる態勢を作ればいい。
こういった感覚は、一度以上そうしたリストを作ったことがある人間であるほど思いつきやすくなる。自分が書き込んだ項目を見たときに、「あ、これは連絡待ちだな」と思えるのは、「連絡待ち」という概念を獲得した人間だけである。だから、私は『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』で嫌というほど、リストを紹介したのだ。言葉の獲得は概念の獲得であり、それはあなたのためのパーツを増やすことにつながってくる。
上に挙げたもの以外にも、あらゆる「リスト」がこのDoMA式のもとに配置できる。言い換えれば、DoMA式はさまざまな仕事術を統合・融合するためのプラットフォームである。特に、リストを使うものであれば、簡単に統合できる。「あなたの構造」のパーツにかえられる。
さいごに
GTDは、「これは何か?」を問う。DoMA式は、「あなたは何を気にしているのですか?」を問う。似ているようで、異なる問いだ。
GTDは情報の性質について問い、DoMA式はその情報を自分がどう扱いたいのかを問う。それによって、必要な構造を組み上げていく。自分の手によって。
大人になった私たちは、画一的な教育のもとには置かれていない。皆に習って方法を統一する必要もない。自分の方法でいいのだ。そして、それを見つける旅に出るのだ。
DoMA式には完成もなければ、うまい見本もない。そういう道のりを歩いていく、最初の練習になるかもしれない。
あなたが見つけ、名付け、並び替え、壊し、消し、新しく作る。
そういう旅の。