見出し画像

ノードメモ放流の実装/メルマガ原稿自動化作戦(2)/ネットワーク型ノートのおすすめ/『頭がよくなる本の読み方』

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/09/14 第518号

○「はじめに」

うちあわせCastの最新回が配信されております

最近ホットになりつつあるObsidianをフューチャーしました。加えて、「テキストファイルっていいよね」という話を再度しております。

なんというか、今になって「デジタルツールでテキストを操作できるとこれだけ便利なのだな」を痛感しております。大切な発見だと、個人的には思います。

〜〜〜知的生産のフロンティアの宿題〜〜〜

先週号で、「知的生産のフロンティア」の展示について書きました。その際「宿題」は別の記事で書くとしましたが、メルマガではなく、R-style&noteで展開することにしました。

できるだけ広く共有されて欲しいと思う話題は、「外」のメディアで書いていくことにします。

〜〜〜作業記録の長短〜〜〜

最近毎日作業記録を書き続けています。noteのサークルで共有しているから、「今日は気が乗らないから記録を書かないでおこう」とならないのが、一つのポイントでしょう。

書き続けた作業記録を読み比べてみて、気がつきました。プログラミング作業をしているときは、やたらと作業記録が発生します。執筆のときは、「n分書きました。mmmm文字進みました」くらいしかないのに、プログラミング作業だとやたらめったらログが増えるのです。

なぜかと言えば、プログラミングしているときはひたすら検索しているからですね。自分で一からコードを書くのではなく、使えそうなコードを探したり、そのプログラミング言語での記述方法を検索しているから、作業記録にも書くことが多いのです。

また、プログラミング作業では「考えること」もたくさんでてきます。あれをこうして、これをああして、という「設計図」(あるいは指針)を決めて、それに沿って作業を進めていくのです。これも、作業記録には最適な記述です。

そう考えると、自分の頭の中にあることを連想的に書いているときには、作業記録など発生しようがありません。それが良いことなのかどうかは、いまいち判断に困るところではありますが。

〜〜〜Evernote荒技1選〜〜〜

iPhoneでEvernoteを使うときの、ちょっとした(そして荒っぽい)テクニックを一つご紹介。

まず、よく使うノートを選びます。さっと取り出したいノートが良いでしょう。そのノートをEvernoteのアプリで表示させてオプションから「Siriショートカットを作成」を選択します。すると、Siriに呼びかけてそのノートを表示させるためのショートカットが生成されます。

次に、「ショートカット」アプリを起動します。先ほど作成されたショートカットが一番下に置かれているはずです。今度はそのショートカットを「ホーム画面に置く」設定をします。

はい、これで、「特定のノートをすぐ開くためのアイコン」がホーム画面に追加されました。いちいちEvernoteアプリを立ち上げて検索したり、あるいはお気に入りから選んだりする必要はありません。

細かいですが、頻繁に利用する情報があるならば、便利だと思います。

〜〜〜立体的連載〜〜〜

ゆうびんやさんと「お互い様連載」をスタートさせていますが、一つ気がつくことがありました。

この連載は、私とゆうびんやさんがそれぞれに書くことを呼応させよう、という目論見でスタートしているのですが、記事を書いていると、自分が(一つ前の)『Re:vision』の連載で書いていたこととも呼応してくる感触が生まれてきました。面白い感覚です。

一方では、私とゆうびんやさんの連載があり、もう一方では、『Re:vision』を書いた私と『Spherize』(これがコードネームです)を書いている私との呼応がある。立体的な感覚です。

こういう感覚も、これまでの連載ではあまりなかったのではないでしょうか。横方向にも(つまり二人の連載としても)、縦方向にも(つまり私の連載としても)、読めるような形で執筆できれば、「私の連載をまとめた本」も作れそうです。一石二鳥ですね。

〜〜〜IFTTTのサブスク化〜〜〜

今までずっと無料で使えていた、IFTTTがいよいよサブスクリプション化へと舵を切りました。

というか、どうやって今までマネタイズしていたのか不思議でならなかったので、当然の帰結と言えるでしょう。無料だと3つまでアプレットが作れますが、それ以上はプロアカウントでないと作成できません。また、プロアカウントになると、マルチなトリガーのアプリも作れるようです(たぶん、A→B→Cみたいな動作をするのでしょう)。

とは言え、いきなり課金というのもハードルが高かったので、とりあえず今使っているアプレット以外は削除してみることにしました。すると、残ったのは3つだけ。プロ化しなくても利用可能です。

サービスの長期的な継続を望むなら、ここは課金の一手ですが、それはそれとして悩み処ではあります……。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

「現実性こそ神である」──意味深なテーゼです。現代では、現実/現実性がさまざまな方向から揺さぶられています。私たちにとってほとんど自明とも言える「現実」について、実は深く思考する必要がある時代なのでしょう。

ウィトゲンシュタインの哲学は、一般的に前期と後期に分けられますが、本書は後期に焦点を当てた本です。「言葉を明確にし、明晰に語り、真面目に思考することを求める」というウィトゲンシュタインの哲学は、言葉を扱う知的生産や情報社会においては一つの指針となってくれるでしょう。

ダニエル・エヴェレットというと『ピダハン』で、『ピダハン』というと普遍文法への批判なわけですが、本書はそのエヴェレットが言語について考察した一冊です。本書を読む前に、生成文法について学んでおくのが良さそうです。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. プログラミング的なパソコンの操作はどれだけできますか?

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

画像1

○「ノードメモ放流の実装」 #知的生産の技術

前回は、文章化したノードメモを「放流する」重要性を確認しました。

ノードメモはコンプリートされず、時間とともに増えていくので、情報を支配下におくことを諦めて、かわりに情報を「放流する」ことで、再利用性を高めるのが効果的だ、というお話です。

では、その「放流」はどのように実装されるのでしょうか。特にデジタルツールにおいての場合を考えてみましょう。

■「帰ってくる」を再定義する

まず、情報の放流とは、単に放置するだけでなく、それがある一定の期間を置いて「帰ってくる」ことを意味します。

では、この場合の「帰ってくる」とは何でしょうか。

ここではそれを「該当する情報を検索するのとは違った形で、その情報が目に入ること」と定義しておきましょう。たとえば、アナログツールなら、ノートに書き込んだことをパラパラと読み返しているときに過去の書き込みに触れる、といったことが相当します。

つまり、何か目的の情報があり、それを探して引っ張ってくるのではなく、そうした目的が欠如した状態において、過去の情報が目に入ることです。

この方法を使う場合、情報が「どこに保存されているか」を意識する必要はありません。階層のあの位置に保存してあるから、それを辿って引っ張ってくる、といった行為はしなくてもいいのです。だからこそ、情報を支配下におかなくてもよいのです。

もちろん、情報を支配下においた上で、情報を放流することも可能です。アナログの場合は、一度時系列に閉じこめるとそこからの開放はひどく困難を伴いますが、デジタルの場合は、データが時系列に保存されていても、それとは違ったソートや抜き出しが容易です。

その意味で、梅棹のカード法は、情報を原子的に(atomicに)扱うための手法であり、情報を電子的に(electronicに)扱うための手法であるとも言えます。

■関連性:タイムスタンプ

では、どのようにして非目的に情報を目に入れられるでしょうか。

一つは、タイムスタンプによる関連性です。

たとえば「今週書いたメモ」を読み返す行為は、該当する情報を検索するのとは違った形の情報散策だと言えます。それらのメモの内容は、「今週書いたこと」以外の共通点を持ちません。言い換えれば、(内容的)コンテキストはバラバラです。だからこそ、予想もしなかった情報との再会が期待できます。

アナログノートを先頭から読み返すことは、このタイムスタンプによる関連性で情報を散策していると言えるでしょう。

また、デジタルの場合、去年の同じ日付のメモや、去年の同じ週の同じ曜日のメモを取り出すことも可能です。ツールがそれを補助してくれる場合もありますし、自分でファイルのタイムスタンプを頼りに探す場合もありますが、どちらにせよ、アナログノートならかなり手間のかかることが簡単に実現できます。

もちろん、去年だけでなく、一昨年やそれ以上前にさかのぼることも容易です。自分が記録を残し始めた時点までいくらでもさかのぼれます。この再利用の「範囲の広さ」が、デジタルとアナログの大きな違いの一つでしょう。

■関連性:内容

関連性で言えば、もう一つ内容による関連性で情報を辿ることもできます。

これはScrapboxをお使いの方ならおなじみでしょう。自分が何かメモを書き、その文章の中の言葉をキーワードとしてブラケティングする。そうすると、ページの下部に同様のキーワードを持つページがシュッと表示される──これは「該当する情報を検索するのとは違った形の情報散策」のハイクオリティーな実装だと言えます。

ポイントは、そうした「関連するページ」が、何のクリック操作も開閉操作もなく、つまり非意志的に表示される点です。これが逆に、ある操作を必要とする(意志を必要とする)のであれば、その威力は7割以上減少してしまうでしょう。言い換えれば、「見るための操作をしなければ、目に入らない」だと、弱いのです。

いまのところ、何の設定もしなくても、勝手に「関連する情報」が表示されるのはScrapboxとEvernoteだけです。そして、Evernoteはプレミアムでしかその機能は使えないので、実質的にはScrapbox一択と言ってよいでしょう。

もちろん、「ハイクオリティー」な実装でなければ、他のツールでも関連性での散策は十分可能です。Evernoteで言えばタグが相当しますし、その他のツールでもハッシュタグが似た機能を持ちます。もっと言えば、普通のテキストファイルでも「#hoge」と書いておいて、後からそれを検索すれば、関連性による非目的な情報散策は可能です。

そうした検索をすると、ときどき面白い発見があることを体感している人は、多少手間でもそうした検索を実行するでしょう。つまり、ある程度の「訓練期間」を過ぎればハイクオリティーな実装はなくても済むのです。

とは言え、その考え方は「千尋の谷に突き落とす」的な要素を感じます。最初はツールのサポートがあった方が、おそらくは良いでしょう。

■ランダム性:乱数

上記二つは、関連性に基づいた情報散策でしたが、関連性をまったく持たない情報散策もありえます。アナログで言えば、情報カードボックスの中から一枚を適当に抜き出す行為がそれに相当します。

コンピューターで言えば、乱数を発生させる機能を使って、ランダムに過去の情報を取り出せば、関連性によらない情報散策ができます。

現状は、ScrapboxとObsidianがランダムボタンを持っています。Evernoteも、AppleScriptを使えばランダム表示は一応可能ですし、他のツールでもAPIが公開されているならコードは書けます。

逆に、アウトライナー系のツールでは、こうした機能はほぼありませんし、また実装するのも難しいでしょう。プロセス型アウトライナーならなおさらです(各トピックの情報粒度がバラバラなため)。

また、ランダムで取り出す場合、「すべてを一つの倉庫に入れておく」ワンライブラリ方式だとノイズが極めて大きくなります。私のEvernoteで、本当に全ノートを対象としてランダムで取り出せば、過去原稿、一行メモ、領収書のスキャン、確定申告書の控え(PDF)、誰かの名刺、みたいなものが取り出されてしまいます。

そうしたものは、あまり思考や思想を育む役には立ちません。よって、切り分けが必要です。幸いEvernoteは「ノートブック」という切り分けを持っているのでそれで実現できますが、そうしたものがない本当にワンライブラリなものだと、ランダムで取り出すのはノイズが大きすぎて使い物にならないでしょう。

このあたりのポイントも、個人の情報システムをいかに設計するのかに関わってきます。

■ランダム性:他者の手

関係性を用いないランダム性で、乱数を使わないものも考えられます。それが「他人の手」です。

これもScrapboxで実現できていますが、公開しているScrapboxプロジェクトの「Date last visited」は、だいたい一日経つと先頭のページが変わっています。私以外の人が閲覧したページが先頭に来ているからです。

そうしたページの大半は、自分ですら書いたことを忘れている情報で、「ああ、そういえばこういうこと書いたな」と再発見できます。しかも、完全にランダムではなく「誰かの興味をひいた情報」なので、面白い内容である可能性が高いと言えます。

ともかく、「Date last visited」は、私以外の人の手によってその順番が入れ替えられており、それが非目的な情報散策を可能にしてくれます。そしてこれは、アナログなツールでは非常に難しい実装です。

たとえば、研究室に所属していて、そこに自分の情報カードボックスを置いておけば、他の研究者が適当にカードを「くって」くれて、しかも元の場所に戻さず、ボックスの先頭に置いてくれる、といった環境があれば話は別ですが、あまり一般的な環境とは言えないでしょう。

自分の情報カードボックスは、自分しか閲覧しないものです。言い換えれば、外部性がほとんどありません。もちろん、それで困ったことになることはありませんが、デジタルだと面白い外部性を導入できることはたしかです。

■さいごに

今回は、手放した情報をいかに「帰ってこさせるか」について考えてみました。

大切なのは、「書いたことすら忘れている情報といかに再会するか」という点です。検索で探せるのは、──というか、検索して探そうと思えるのは──書いたことを覚えている情報だけです。しかし、ノードメモは忘れてもかまわないように書いているのですから、必死に覚えておくのは歩む道筋を間違っているでしょう。

情報を書き残し、それをいったん忘れて、後から再会できるようにしておく。自分からその情報を探しにいかなくても、「なにかのきっかけ」で目に入るようにしておく。

それが、ノードメモを活かすためには必要になってきます。

というわけで、次回はこれらの点を意識した私なりの「実装法」を紹介します。

(つづく)

ここから先は

6,704字 / 4画像 / 1ファイル

¥ 180

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?