メモするものの分類 その1/ポッドキャストとブログ
Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/01/27 第485号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。
先週もお知らせした通り、1月24日に堀正岳さんの新刊が発売となりました。
すでにブログ等で紹介もしていますが、本書は実に「堀さんらしい」一冊になっています。(たぶんすごく売れた)『ライフハック大全』は、ややテクニックに偏りすぎていますし、『知的生活の設計』は、堅実な分地味な印象が拭えませんが、本書はその辺のバランスがすごくうまく成立していますし、話題と射程も広くなっています。
内容自体も実に掘り下げがいがあるので、本メルマガでも次週以降でがっつり取り上げたいと思います。
ちなみに、以下のポッドキャストではその「前哨戦」を行いました。
最近、こういう「知的生産の技術」的に面白い本がめっきり減ってしまったので、その分じっくりと取り組んでいきましょう。お楽しみに。
〜〜〜VALUの終了〜〜〜
「VALU」が終了するようです。
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この度、VALUサービスにおいてお客様の暗号資産をお預かりする業務を断念することを決断いたしました。
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詳しい話は上の記事を直接ご覧いただくとして、新しい改正資金決済法に対応するのが難しいので、暗号資産の取扱業務はやめにしますね、という話のようです。
もともとVALUは、個人が株式のようなものを発行し、その個人を応援したい人がビットコインという仮想通貨を通じてその株式を購入する、というシステムになっていたのですが、その根幹部分が成り立たなくなってしまったため、今回の事態となったようです。
一応、暗号資産を使わない形での個人での株式の発行、という形態は可能なのかもしれませんが(それはそれで別の法律に対応する必要はありそうですが)、だとしたら最近盛んな個人サロンなどと大きな差異はなくなってしまうわけで、別の意味でサービスの存続は難しくなるでしょう。
この辺は、新しい技術と法律の対応の難しさでもありますね。自由さがありすぎれば、ユーザーをだまくらかす輩もたくさん出てきてしまうので、一定の規制は必ず必要となりますが、規制が強すぎればイノベーションも生まれにくい。高度な綱引きです。
とはいえ、私もVALUには注目し、アカウントも作っていましたが、結局「株式のようなもの」は発行しませんでした。なんとなくそこに実態というか、実感が感じられなかったからです。今思い返すと、その判断は(ある程度)正しかったのでしょう。
個人が、いかに活動のための資金を得ていくのか。新しい技術を見据えながらも、安易な決断をしてはいけないのだとも思います。
〜〜〜Quoraパートナープログラムの変更〜〜〜
「Quora」という質問共有サイトがあります。
アカデミック・プロフェッショナルの要素を備えた発言小町、というと少々矮小化しすぎているかもしれませんが、イメージとしてはそんな感じが近いでしょう。気になる質問を投下し、専門家がそれに答える。そのやりとりが公開されていることで、世界に知が広がっていく。そんなコンセプトを持ったサイトです。
で、このサイトは、「パートナープログラム」という報酬制度を備えていたのですが、それが近日変更されるようです。
流れを追いかけてみると、まず質問共有サイトという性質上、質問の投稿が重要なのにその数が少ないという問題があり、その状況を打開するために質問した人に報酬を出すパートナープログラムが作られた、というが第一段階です。
しかし、そのパートナープログラムにもユーザーからの不満の声があったので、今回の変更とあいなった、というのが第二段階となります。
で、その不満なのですが、いろいろ言い訳めいたものが並んでいるのですが、一番大きなのは以下の部分でしょう。
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また、有益とはいえない質問にも報酬を支払うプログラムになっていました。
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正直にいいましょう。このパートナープログラムが導入されて以降、オブラートにがっつり包んでも「しょーもない」としか表現できない質問がものすごく増えました。精一杯誠実に回答したとして、「ぐぐれよ」としか答えられない類の質問です。
正直そういう質問が増えすぎたせいで、一時期Quoraにアクセスするのが嫌になったくらいです。おそらく同種の影響がいくつも発生していたので、今回の改定となったのでしょう。
私は、質問に答えるのが大好きなので、それを無償で行うのはぜんぜん構いません。良い質問をした人が報酬を得るのも、プラットフォームの設計(あるいは哲学)だとすれば納得できます。
しかし、くだらない質問が溢れかえるシステム設計は肯定できません。答えたくなる質問を探すのに一苦労するようなプラットフォームはやがて衰退していくでしょう。
それにしても、個人を動機づけることと報酬の関係はほんとうに難しいですね。単純なKPIで質問の投稿数だけを追いかけていたら、確実に失敗するかと思います。これは、他の分野でも言えることではあるでしょう。
〜〜〜沈黙の一週間〜〜〜
インフルエンザで結局3日ほど高熱がつづき、その後もひどいだるさに見舞われていました。おかげで、一週間ほとんど本を読むこともなく、こうしてまとまった文章を書くこともありませんでした。
思い返してみると、そんな一週間を過ごしたのは、成人後初めてかもしれません。仕事でなくても、本を読み、文章を書くことを繰り返してきたのが、私の人生でした(別に過去形で語る必要はありませんが)。
本を読まなくても、文章を書かなくても、生物としての私が死ぬことはありませんが、それでもどこかにぽっかりと穴が開いたような感じがずっとつきまとっています。
自分の人生が何によって埋められているのかは、それが欠落してみないことには感じられないのでしょう。なかなか皮肉なものです。
〜〜〜連続更新の秘訣〜〜〜
インフルエンザを経験してわかったことがもう一つあります。それは、私のブログ毎日更新が可能だったのは、期間中一度もインフルエンザにかからなかったからだ、ということです。
さすがにあの高熱が出ていたら、ブログなど一文字も書きたくありませんし、書く体力もなかったでしょう。
ようするに、健康だったから、というのが毎日更新の秘訣なわけです(秘訣でもなんでもない)。
結局のところ、上の話にも通じますが、健康のありがたさみたいなものは健康時にはわからないのでしょう。だからこそ、もし何かを書きたいという気持ちがあり、実際に書くことが可能な状況なら、ぐだぐだ言い訳を並べる前に書き始めたらいいと思います。書きたいのに、書けない状況ってほんとうにしんどいものなので。
〜〜〜今週見つけた本〜〜〜
今週見つけた本を三冊紹介します。
思想家P・ヴィリリオが編集者S・ロトランジェを聞き手として語った対談を本に起こしたものです。ヴィリリオは「身体」を、生物的身体、生態環境的身体、社会的身体の三つの相互関係に見立てたようですが、これは面白い試みですね。もっか生物的身体がどんどんと「解体」されていくなかで、私たちの「身体」はどのような変化を迎えようとしているのか。興味深い議論です。
哲学者との対話をデザインした本はたくさんありますが、日本の哲学者に焦点を定めたものは案外ありません。本書では、西田幾多郎をはじめ、三木清・鈴木大拙・二宮尊徳・道元などの日本の思想家や哲学者がピックアップされています。著者は『超訳 ニーチェの言葉』の方ということで、おそらく読みやすい本に仕上がっているのでしょう。
タイトルからはわかりにくいですが、「1968年からGAFAに至る経済史を解説」した本のようです。1968年5月革命以後から現代のデジタル革命に至るまでの経済の流れを総括した内容ということで、なかなか興味を惹かれます。以下の内容紹介にピンと来るならチェックしてみてください。
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ルクスをはじめフーラスティエやクルーグマンやセンら経済学者、ラカンやドゥルーズ=ガタリら思想家のみならず、『ホモ・デウス』、ネットフリックスや2ちゃんねるまで目配りよく援用し、iPhone世代の将来を左右する問題を考察。
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〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。
Q.あなたの人生の穴を埋めているものはなんでしょうか?
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も、インフルエンザ後遺症の影響下にあるので、少し短めでお送りします。
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2020/01/27 第485号の目次
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○「メモするものの分類 その1」 #メモの育て方
○「ポッドキャストとブログ」 #やがて悲しきインターネット
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
○「メモするものの分類 その1」 #メモの育て方
私たちが書き留めるものは何か。前回はそれを列挙してみました。
私たちが書き留めるものリスト
・スケジュール/計画
・思い出・日記
・しなければならないこと(タスク・プロジェクト)
・業務日誌・結果
・忘れたくない情報(メモ)
・資料(専門知識・非専門知識、短期・長期)
・打ち合わせ・取材メモ
・引用
・目標/クレド
・読書メモ・勉強ノート
・感想
・アイデア・思いつき
・草稿・下書き・アウトライン
・著作目録・ポートフォリオ
今回はこれをさらに分類してみます。
■よくある分類
分類するときに最大の鍵を握るのは、軸です。どのような軸によって分類するのかによって、立ち現れてくるものが変わります。
では、「私たちが書き留めるものリスト」はどのような分類軸が建てられるでしょうか。ざっと全体を眺めてみると、以下のような軸を思いつきました。
・短期/長期
・専門/非専門
・動的/静的
・使い捨て/積み重ね
・未来/過去
いかにもよくある分類ですが、これらは完全に独立しているわけではありません。たとえば、専門的なものは、たいてい長期的に利用されますし、また使い捨てよりは、積み重ねて使われるでしょう。逆に短期的なものは、たいてい非専門的であり、また静的で、使い捨てられることが大半だと思います。つまり、要素に重なる部分が多いのです。
とはいえ、すべてが完全に一致するわけでもありません。専門なのに短期で使用されるものも当然でてきます。このズレ(のようなもの)が、各種の情報整理術における違いとして露出してくるのでしょう。
その点を踏まえた上で、もう少し分類軸について考えてみます。
■仕事とプライベート
さて、情報管理でよくある分類の代表例の一つに「仕事/プライベート」があります。仕事の情報は、仕事用のフォルダ(やらノートブックやら)にまとめておき、プライベートの情報は、プライベート用のフォルダにまとめておく、といった分類軸です。これはうまく機能するでしょうか。
おそらく一般的な会社員の方ならばうまく機能するでしょうが、それ以外は若干怪しいかもしれません。
たとえば私の場合、時間の使い方に関して仕事とプライベートの切り分けがまったくありません。両方が渾然一体となって混じり合っています。もちろん、「明らかに仕事の情報」や「明らかにプライベートの情報」と言い切れるものもありますが、境界線があやふやなものも少なくありません。
たとえばデイリータスクリストには、仕事のタスクと家事の両方が並んでいるので、このデイリータスクリストはどちらに保存していいのか悩みます。そこに業務日誌や日記の記述が入り込むなら、ややこしさはさらに拡大します。
同様に、専業主婦(主夫)の方も、「仕事/プライベート」という切り分けは簡単ではないでしょう。すべての時間帯が区分けなく存在していますし、そもそも何が「仕事」なのかの定義も簡単ではありません。
あるいは、こんな特殊な状況はどうでしょうか。一般的な会社員であるにもかかわらず、何か秘密を抱えている状況です。ここでは卑近な例として、その会社員が不倫をしているとしましょう。すると彼(彼女)は、以下の三つの領域で情報を管理したくなるはずです。
・仕事
・プライベート1(家族)
・プライベート2(不倫相手)
当然「仕事/プライベート」という分類軸だけではうまくいきません。やや特殊なアレンジが必要となってきます。
■次なる拡張へ
上記は、やや極端な例を持ち出していますが、少なくとも「仕事/プライベート」という軸だけで情報整理がうまくいくわけではない証左にはなっているでしょう。
しかし、「仕事/プライベート」という軸がまったく機能不全を起こしているわけではありません。最初にも書いたように、一般的な会社員ならば、だいたいうまくは機能するはずです。
が、残念ながら現代では「一般的な会社員」というモデル自体が多数派ではなくなりつつあるので、それに合わせた概念的拡張が必要になってきている、というのが現状なのでしょう。
というわけで、今回は若干とりとめない話になってしまいましたが、この話を踏まえた上で、次回は情報を選り分ける「領域」についてさらに考えを進めてみたいと思います。
(つづく)
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