WorkFlowyとScrapboxその2/こんまりメソッドとGTD/書斎について 書類入れ編
Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/03/11 第439号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。
毎度おなじみの方、ありがとうございます。
2月に発売された『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』ですが、引き続き好評を頂いております。ありがとうございます。
で、Amazonランキング・チェックとエゴサーチをちょこちょこ(かなり控えめな表現)続けているのですが、やはり誰かが言及してくださると、きゅっとランキングがあがります。
もちろん、その上がり方は一定ではありません。グーンと上がるときもあれば、グンと上がるときもあります。でも、どうであれ、勝手に売れていくことはありません。
書店では、書店員さんが新刊コーナーな新書コーナーに陳列してくださることで誰かの目に止まり、誰かが買ってくれる可能性がアップします。
しかし、Amazonではそんな現象はおきません。ネット上にいる誰かが言及してくださることで、いわゆる「露出」が増え、誰かが買ってくれるかもしれない可能性があがるのです。これはつまり、ネット上の一人ひとりが潜在的に書店員さんと同じ機能を有していることを意味します。
ということを、私は本を書く側から理解しているので、せっせとHonkureというサイトを運営しています。あのサイトの販促効果はたぶんとても小さいでしょうが、それでもゼロではないと考えています。でもって、ゼロではない、というのは非常に大きな意義があります。
もちろんこの話は私の本の感想をつぶやいてくださいよという催促ではなく(それはそれで嬉しいですが)、あらゆる本やその他のメディアに関して、たった一言でも感想をつぶやくことには、書店員さん的機能がある、ということです。フォローされている数が多くないとか、そんなことは全然まったく関係ありません。
でもって、その際のポイントは、誰かのツイートのRTではなく、自分の言葉でツイートすることです。これがメチャ重要だと私は思います。
〜〜〜読書メモのレベル〜〜〜
唐突に昔のルーズリーフバインダーを取り出して、その整理を始めました。確定申告という現実が迫ってきていることに対する逃避なのかもしれません。
ともかくそのルーズリーフは、2008年のものでした。11年前ということで、物書きにジョブチェンジする前のものです。そこには、いわゆる「アイデアマラソン」的メモと、読んだ本のメモの二種類が書き付けられていました。
それを読み返しながら、「ああ、懐かしいな〜。この頃はFXのチャートの読み方とか勉強していたんだ」と過去を想起していたのですが、その読書メモがまったく使い物にならないことにも気がつかされました。
そのことは、本編の連載記事でも触れていますので詳細は割愛しますが、「知的生産の技術」というものにもしレベルというものがあるとしたら、この10年でそのレベルは間違いなくアップしていることはわかりました。
なんとなく、今とっているようなメモをずっと続けてきたような感覚があるのですが、実際そうではないのでしょう。でもってこれが「上級者」のノウハウが、「初心者」に役立たない理由の一つでもあります。
〜〜〜見えない肥満〜〜〜
感覚の話が出てきたので、関連するお話を。
一時期、毎日体重を測り、表に書き込んでいたのですが、なんとなくやめてしまっていました。この手の活動は、私はデイリータスクリストには記載しないので、一度忘れるとそのままズルズルと自然消滅していくのがよくあるパターンです。
そうして長らく放置されていたのですが、ある日突然「そうだ、ひさびさに体重計に乗ってみよう」と思いつきました。で、乗ってみたら、これがまあ見事に体重が増えています。二ヶ月前と比べて、+1kg。
とは言え、寒さが増して、運動量が減っているので体重が増えていること自体に違和感はありません。
問題は、そうして体重が増えているにも関わらず、私の感覚ではまったくそのような変化は発生していなかった、ということです。簡単に言えば、体重が1kg程度増えていることに、気がつきもしていなかったのです。
この話は、いろいろな教訓を提示してくれますが、とりあえず一つをあげるとしたら「感覚は、当てにならないことがある」になるでしょう。
だったらどうすればいいのか、についてはさまざまな答えが考えられますが、感覚はとても役に立つときと、ひどく役に立たないときがある、ということだけは覚えておいた方がよいでしょう。
〜〜〜取りかかれるリスト〜〜〜
デイリータスクリストの話が出てきたので、関連するお話を。
私にとって、デイリータスクリストは活動の生命線です。上に書いたように、このリストに記載されたものはその実行実現性がかなりの程度上昇しますが、ここに書かれないものは「以後気をつけます」レベルの実現性しか持ちません。かなりの差異です。
たとえば、まったく全然進んでいなかった確定申告プロジェクトですが、デイリータスクリストに書き込むようにした途端、毎日少しずつ進むようになりました。まるで魔法のようです。
とは言え、この魔法は何の苦労もなく発動できるものではありません。いくつかの条件があります。でもって、そのうちの一つが、「強くやろうとは思っていないものはリストには書かない」というものです。
「できたらいいな」とか「やろうかな」という程度のものはリストには載せません(体重を測るを書き込まないのもこれが理由です)。
そのようにリストの純度を保っているからこそ、デイリータスクリストに記載された行動は、私にとって取るべき行動だと思いやすいのです。
ちなみに、そのように純度を保ってなお、リストに記載された行動が実行できないことがあります。だとしたら、不純度が高いリストならどうなるでしょうか。推して知るべしです。
だからこれは全然魔法ではありません。少なくとも、超越的な力で自分を動かし、得がたい成果を得る、というものとはまったく違っています。
それでも、こういうリストを作ることで、なんとか私の日々の仕事は回っています。それで十分ではないか、と私などは思うのですが。
〜〜〜本を置く価値〜〜〜
以下の記事を読みました。
とても大切なことが書かれています。
>>
本を読むことの楽しみだけでなく、書物の奥には人生の多くの時を費やしてもけっして後悔しない豊饒な世界が広がっていることも、私は父から教わった。また本は読むだけでなくそれを眺め、手にふれ、あるいは心に思い浮かべるだけでも十分な何かであることも教わっていたのである。
<<
もし本というものが、その中に記載されている情報を摂取することだけを目的とする道具であるならば、読まない本などに価値はありません。言い換えれば、読み切れない本を所蔵していることは単に不合理なだけです。
でも、そうではないのです。
でもって、そうではないということをきちんと伝えていくことが、「本が古本屋で流通すると著者は困る」のような読者にとっては何の益もないことを主張するよりも、はるかに読み手と本の関係を改善していくのではないかと感じます。
〜〜〜見つけた本〜〜〜
今週見つけた本を紹介します。
>>
好きな本を、好きな方法で読めばいい――。経済学史研究者にして書評家の著者が、自身の来歴をふまえて伝える読書と勉強のワザ。幅広い知識の吸収、語学力、古典の重要性を語るとともに、経済学史の新たなアプローチも示唆。清水幾太郎、菱山泉、伊東光晴などとの交流、経済学者の裏話も満載で、学問の「効用」が伝わる一冊。
<<
>>
本書では、中国の金融シンクタンク「中国金融40人論壇」(CF40)のメンバーが、
2004年の「アリペイ」の誕生から2017年までのアントフィナンシャルの
発展史を辿り、その全貌を解明する。
<<
>>
“次なる真理”という“価値”の確立が、情報社会の最重要課題である。あらゆるものには意味がある。われわれを包囲する洪大な情報に、いまなにが起きているのか―。Amazon、ビットコイン、ブロックチェーン、VR、MR、そしてコミュ障まで、注目される現象の“深層”構造にせまる。
<<
>>
紙か? 電子か? といった技術論やビジネス論にとどまらない、本そのものの魅力、役割、可能性を考えていく。自分たちのメディアを育て、確立していくための、デジタル時代の出版論。
<<
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、脳のストレッチ代わりにでも考えてみてください。
Q. 自分に行動を実行させるための工夫は何かありますか? その際のコツはなんでしょう?
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。
――――――――――――――――
2019/03/11 第439号の目次
――――――――――――――――
○「WorkFlowyとScprapboxその2」 #比較ツール論
二つのツールを比較しながら、項目の扱い方について考察します。
○「こんまりメソッドとGTD」 #BizArts3rd
片付けの魔法とGTDの共通点について。
○「書斎について 書類入れ編」 #物書きエッセイ
書斎連載の第二回です。
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
○「WorkFlowyとScrapboxその2」 #比較ツール論
前回は、WoriFlowyの二つの特徴を確認しました。視点の移動と、越境性です。
むしろ、視点の段階的な移動が可能だからこそ、越境性が確立されるのですが、なぜそうなるのかについて、情報の構造という点から考察してみましょう。
■
Scrapboxにおけるページは、一つの細胞のようなものです。輪郭線(境界線)を持ち、他と協調的に働きながらも、内と外は完全に分けられています。
むしろ、そのように完結しても問題ない単位を、一つの細胞として保存するのがScrapboxです。
たいしてWorkFowyでは、ズーム状態では同じ振る舞いを見せますが、一度ズームアウトすると、それまで細胞内に閉じ込められていた項目が動き出す力を持ち始めます。
実際のところ、そこで行われているのは、越境ではありません。なぜならば、一度ズームアウトした状態もまた、一つの細胞内であるからです。
具体的に考えてみましょう。深い階層構造があり、最初はその4段階目(レベル)の項目にズームしていたとしましょう。当然、その項目内にもいくつかの項目が含まれていて、それは別の項目に簡単に移動させることはできません。
レベル4の項目
レベル5の項目→これを他のレベル4の項目に移動させることは難しい
レベル5の項目
このとき、一度ズームアウトすれば、レベル3に移動し、そこにはレベル4の項目が複数並ぶことになります。そうなると、レベル4同士で項目が移動できるのですが、それはレベル4の項目にズームしているときに、その内側に含まれる項目(レベル5以下の項目)を簡単に移動できたことと相似でしかありません。
レベル3
レベル4
レベル5→別のレベル4に移動可能となった
レベル5
レベル4
今あたりまえのことを言っているようですが、これは重要なポイントなのです。
レベル3にズームアウトしたところで、結局のところ、レベル3の他の項目への「越境」はできません。同じ非越境性の問題は、レベル2になっても、レベル1になっても、レベル0になっても起こります。
レベル3
レベル4
レベル5→別のレベル4に移動可能となったが別のレベル3には移動が難しい
レベル5
レベル4
レベル3での項目の移動は、レベル4の視点で考えれば「越境」と言えますが、実際は細胞内の操作でしかありません。言い換えれば、WorkFlowyで階層を一つ上に上がることは、「細胞」の単位(範囲)を変更する、ということです。
さらに別の言い方をするならば、あるものを「越境」させようと思ったら、一つ上の階層を想定する必要がある、ということです。
(この辺の話は、おそらく断片からの創造というテーマに深く関わってきますが、またそれは別の回にでも改めて)
■
ここで重要なのが、「一つ上の階層」という語句です。
「一つ上の階層」という概念が成立するのは、上下関係が設定できる空間内だけです。それが設定できないオールフラットな環境では、「個別」と「全体」があるだけであり、そこに段階的な視点は設定できません。つまり、ある要素の「一つ上の階層」はすべて「全体」になってしまうのです。
言い換えましょう。
情報をある文脈に、もっと言えばツリー構造内に位置づけるからこそ、「一つ上の階層」という概念が成立しえます。それがなければ、「一つ上の階層」というメタな──フラクタル性を引き寄せる、と言ってみてもよいでしょう──概念は成立しません。
「一つ上の階層」というのは、単なる上の階層ということではなく、「自分を基準としたときに、それよりも上位にある概念」ということです。でもって、その上位概念もまた概念なのですから、そこにも「一つ上の階層」を設定することができます。
つまり、階層的な上下関係というのは、どこまでも上に(あるいはどこまでも下に)その概念を拡大(ないし縮小)していける可能性を持ちます。
もちろん、その拡大縮小は可能性というか、「原理としてはありうる」という話でしかありません。
WorkFlowyでは、「自分のアカウント」以上の階層に上ることはできませんし、また人間が思考の対象にできるもの以下のものを項目にすることもできません。原理としては限りがなくても、現実としては限りがあるわけです。
しかし、たとえそうであっても、その上限と下限の内側であれば、私たちはいくらでも自由に「上の概念」「下の概念」を創出・想像・編集することができます。
その点が、WorkFlowyの特徴であり、最大の魅力と言えるかもしれません。
■
Scrapboxは、一度の操作で完結する情報を単位としてページを作るのが推奨されます。作ることは可能でも、2万字のページがわんさかある、という状況は望ましいものではないでしょう。
使いやすい、それだけで独立して機能する最小単位で情報をまとめていきます。私はそのような情報のまとまりを、「オブジェクト」と呼ぶことにしています。
一方でWorkFlowyは、「それだけで独立して機能する」ものを最少の単位にする必要がありません。それだけでは破片としてしか機能せず、どこかに位置づけられてはじめてその機能を発揮するようなものを扱えます。なぜそれが可能化と言えば、「一つ上の階層」にいくらでも上っていけるからです。
言い換えれば、その情報の破片が、どの階層のレベルで機能するのかを、WorkFlowyでは気にすることなく情報を保存することができます。粒度の設定は後から行っても問題ありませんし、後から変えても問題ありません。「越境」が可能だからです。
でもって、そのような情報の単位を、私は「フラグメント」と呼ぶことにしています。
■
Scrapboxは、オブジェクト。
WorkFlowyは、フラグメント。
ツールの特性を比較してみた場合、そうした対象の違いが浮かび上がってきます。
もちろん、何度も書いていますが、これはあくまで「比較して見た場合」であり、それらのツールの純粋な特性というわけではありません。Scrapboxにフラグメントを保存することもできますし、WorkFlowyにオブジェクトを保存することもできます。ただし、それを効果的に扱えるかどうかで言えば、やっぱり相手方のツールの方が良い、ということです。
以上を踏まえた上で、この二つのツールでは具体的に何を保存していけばいいのか。それについて次回は考えてみましょう。
(つづく)
―――――――――――――――――――――――――
ここから先は
¥ 180
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?