Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/05/14 第396号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。
結城浩先生のメルマガVol.319に16Personalitiesという性格診断テストが紹介されていました。
◇結城浩の「コミュニケーションの心がけ」2018年5月8日 Vol.319|結城浩
https://mm.hyuki.net/n/n51dd51f53208
◇無料性格診断テスト16Personalities
https://www.16personalities.com/ja
ものは試しにとやってみると、「仲介者」という結果が出ました。解説を読んでみると、以下のようにあります。
>>
仲介者型気質の人は、真の理想主義者で、極悪人や最悪の出来事の中にさえも、常にわずかな善を見い出し、物事をより良くするための方法を模索しています。落ち着きがあり控えめで、内気にさえも見られますが、内には激情と情熱があり、まさに光を放つ可能性を秘めています。
<<
なるほど。たしかに「極悪人や最悪の出来事の中にさえも、常にわずかな善を見い出」すようなところはあります。妻からも、「倉下くんって、何かしら良いところを見つけようとするよね」と言われます(いまだにくん付けで呼ばれています)。
逆に、極めて良さそうなものにも、何か問題点や課題がないかを探そうとします。それもまた「物事をより良くするための方法」だと思っているからです。
あるいは、満場一致の「空気」が嫌なのかもしれません。テレビとかで「○○さん悪い人だよね」と全員がうんうんと頷いていたら、「いや、何か良いところあるんじゃない」と反論したくなります。逆に「○○はいい、とてもいい」という空気にも反論したくなります。世の中がそんなに単純であるはずがないからです。
そこで、こういう気質を「水差し案内人」と呼ぶことにしました。たぶんソクラテスもこの系の人だったのではないかと想像中です。
ちなみに、この手の性格診断テストは質問が非常に断定的で「どっちかというと、どっちでもないよ」と思うことが多いのですが、この16Personalitiesはかなり答えやすかったです。質問の設定が絶妙なのでしょう。
〜〜〜アドバイス1〜〜〜
「僕からのアドバイスはただ一つだ。書けるうちに書いておけ。できなくなったらきちんと休め。これをセットで考えることだ」
〜〜〜アドバイス2〜〜〜
"自分をばかにする覚悟がないのなら、文筆業から足を洗うことだ" 『ワインバーグの文章読本』
〜〜〜ブームが早い〜〜〜
少し前、「ストロングゼロ文学」というのが私のタイムラインを賑わせていたのですが、最近はめっきり見かけなくなりました。あっという間の話題収束です。
二、三年前ならば、もう少し一つのテーマが持続していた印象があります。しかし、最近では数日どころか一日も持たないこともあります。情報量が増えすぎたこと、クラスタの分断が進んでいること、情報がアプリに移動してしまい、話題の熱がキープしにくくなっていること、などが理由として考えられますが、もちろん憶測の域を出ません。
あるいは、そもそもとしてプロレタリア文学が、現代では必要とされていないのかもしれません。それは貧困な労働者がいなくなったというのではなく、むしろそれが常態化(常識化)してしまって、意識されなくなった(あえて意識したくなくなった)という背景が考えられます。
というところまで考えてみて、最近流行りの異世界転生フャンタジーにストロングゼロ文学を掛け合わせたらどうなるだろうかというアイデアを思いつきました。ええ、そうです。異世界に転生して、そこで冒険者ではなく労働者となって、毎日お酒を飲んで暮らすというような、どこにも救いがないような作品です。
まあ、読まれないでしょうね。
〜〜〜非攻勢的校正〜〜〜
文章の品質を上げるためには、推敲や校正といった作業が欠かせません。で、雑誌や本に原稿を提供するときは、かなりの確率で校正が入ります。
良い文章を仕上げるために必要な工程ではありますが、自分が書いた文章に文句を言われている、けちをつけられていると感じる人も多いようで、さらには人格攻撃のように受け取る人もいらっしゃるようです。こうなると、校正する人も結構気を遣って指摘しなければいけません。
だったら、仮に校正者が人間ではなく、たとえば非常に無機的なAIだったらどうでしょうか。草花や天気に人格攻撃されていると感じる人は(たぶん)いないでしょうから、情報発信者から「人間的」だと感じられるものを剥ぎ取ったら、少しは衝撃緩和に役立つかもしれません。
あるいはアニメのキャラとか、最近流行りのvTuberとかに指摘されたらどうなるだろうな、などとも考えます。また違った受け止め方が生まれるかもしれません。
しかし、某OSのビジネス系ツールに登場したイルカ君に指摘されたら、激怒する人も少なくないかもしれません。UIというのはなかなか難しいものです。
〜〜〜古典攻略〜〜〜
最近、『自由論』を読み始めました。ジョン・スチュアート・ミル、1859年の著作です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B00H6XBJJ0/
タイトル通り政治における「自由」を論じた本で、基本中の基本というか、古典中の古典なのですが、これまで気持ち的敷居が高くて手に取っていませんでした。
が、たまたまKindleでスタートした「Primeリーディング」(Prime会員なら無料で本が読めるサービス)のラインナップを物色していたところ、この本を見つけ、なんとなく呼ばれている感じがしたのでとりあえずDLしておき、そこから8ヶ月ほどの積ん読を経て、ようやく読み始めたのが先週のことです。
で、光文社古典新訳文庫なんですが、やはりすこぶる読みやすいですね。文章も読みやすいし、論旨も明確です。岩波文庫版を読んだことがないので比較はできませんが、とりあえずこの感じなら最後まで読み通せそうな雰囲気があります。でもって、面白いです。
光文社古典新訳文庫+Kindle。
たぶん古典を攻める最強タッグです。
〜〜〜お手本不在〜〜〜
私は一応(というかなんというか)物書きなのですが、基本的に興味の範囲が広く、実用・エッセイ・小説と書くジャンルもまちまちで、ブログ(メルマガ)・セルフパブリッシング・商業出版と媒体も統一されていません。けっこう奇妙な知的生産者と言えるでしょう宇。
で、書店に並ぶ知的生産技術書を除いてみても、私と同じような知的生産者に出会うことは皆無です。学者、ジャーナリスト、作家、ライターなどは見かけますが、そのどれもが私と微妙に重なり、大きく違っています。
だから、さまざまな人たちのノウハウを吸収しつつ、そこからブリコラージュ的に自分なりのノウハウを立ち上げていくしかありません。「この人と同じようにやっていけば大丈夫だね」と言えるものがないわけです。
そもそもとして、私のような立ち位置の物書きは、誰か先人がいたわけではなく、むしろなし崩し的に「こうなってしまった」感があるので、それはもうどうしようもないことなのかもしれません。
※もちろん、多かれ少なかれ、他の人にも同じようなことはいえるでしょうが。
そして、だからこそ、私は自分が持っているノウハウをどんどん開示してきたいと強く感じています。後から続く人に、「そうか、なるほど」と言ってもらえるように。
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけですので、脳のストレッチ替わりにでも考えてみてください。
Q.ここ最近で、これまでまったく考えていなかった、あるいは逆のことを考えていた「考え」を手にしたことはありますか。
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。
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2018/05/14 第396号の目次
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○「マニャーナの法則の構成素」 #BizArt3rd
タスク管理を掘り下げていく企画。連載のまとめに入っています。
○「魔王のお仕事 2」 #ショートショート
読み切りのショートショートです。今回は前回の続き。
○「インターネットの緩衝地域」 #やがて悲しきインターネット
インターネットのこれからについて考えています。
○「何からはじめるか」 #今週の一冊
Rashitaの本棚から一冊紹介するコーナー。新刊あり古本あり。
○「目次案を持ち歩く」 #物書きエッセイ
物を書くことや考えることについてのエッセイです。
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
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○「マニャーナの法則の構成素」 #BizArt3rd
今回は、「マニャーナの法則」について。その内側にあるものを腑分けしていきます。
参考文献は『マニャーナの法則 明日できることを今日やるな』です。
※https://www.amazon.co.jp/dp/4887595425/
一読しただけではわかりにくいですが、この本にはシステムとして使えるフレームワークが含まれています。それを見ていきましょう。
〜〜〜
「マニャーナの法則」には以下の要素が含まれます。
・先送り管理ユニット
・リスト装置群
・実行支援ブースター
それぞれ確認していきます。
■先送り管理ユニット
まず最初に「マニャーナの法則」についておさらいしておきましょう。マニャーナの法則は以下の二つの方針を持ちます。
マニャーナの法則
1. 仕事を、その発生と同じ日に手がけるのは極力避ける。
2. 「クローズ・リスト」を使う
ちなみにこれを包括する7つの原則もあります。
7つの原則
原則1 明確なビジョンを持つ
原則2 一事に集中する
原則3 少しずつ頻繁に行う
原則4 リミットを設ける
原則5 「クローズ・リスト」を使う
原則6 突発の仕事を減らす
原則7 コミットメントと興味を区別する
この七つの原則を踏まえておくことが、マニャーナの法則の有効性を理解する手がかりになるのですが、ここで踏み込むのはやめておきましょう。気になる方は、参考文献に上げた旧版かKindle版も出ている新版を参照ください。
とりあえず、ここで取り上げたいのは先送りです。マニャーナの法則のその1「仕事を、その発生と同じ日に手がけるのは極力避ける」ことを志せば、当然仕事を先送りしなければなりません。
とは言え、一般的に先送りは忌避の対象です。「先送りしない人になるための〜〜」みたいな書籍もあります。先送り癖は、克服されるべきものとして扱われているわけです。この差異はどこにあるのでしょうか。
考えてみれば、「先送りを絶対にしない」ようにすれば、発生した仕事に随時対応しなければなりません。何があっても、何かが起こるたびに、それに対処することが求められます。これは現実的ではないでしょう。
同時に二つのことが起きたら、どちらかは先送りせざるを得ませんし、一日の作業量が8時間で、10時間分の作業が発生したら、2時間の作業は先送りが必須です。
つまり、先送りを絶対しないようにすることは──よほど限られた職場環境を除けば──そもそも不可能です。むしろ、避けるべきは「機能しない先送り」であって、求めるべきは「機能する先送り」だと言えます。
今日やらないことにして、明日に回したタスクが、仮に10時間分もあれば、明日も明日で2時過分の足がでます。当然そこに明日発生したタスクも乗っかります。それを繰り返していけば、先送りされたタスクは山積みとなり、「実行することになっているのに、決して実行されない」タスクとなりはてます。
問題視すべきはこの状態であって、先送りそのものではありません。むやみやたらに──言い換えれば、何も考えず、仕組みももたないまま──先送りしていることが問題なのです。
マニャーナの法則は、その問題にシンプルな指針で立ち向かいます。
とりあえず、今日のことは考えません。明日のことだけを考えます。具体的には、明日一日で実行できる分だけのタスクリストを作ります。そして、明日になったらそのタスクリストに掲載されているタスクだけを実行します。
それ以外のタスクが発生したらどうするか?
なにしろそこにあるのは「一日分」のタスクリストです。新しいタスクが発生しても、実行できる余裕はありません。よって、選択が発生します。残業するか、明日以降に移動させるか、やる必要はないと切り捨てるか。もし残業が禁止されているなら、移動させるか、まったくやらないかの二択になるでしょう。
このように、発生したタスクをすぐにタスクリストに載せず、一定の「判断」を経てのみ追加できるような状態を、「クローズドリスト」と呼びます。言い換えれば、リストをクローズするということは、それ以降発生したタスクを、すべて先送りにしてしまう、ということです。
そうして先送りしたもののうちから、また「一日分」のリストを作り、翌日はそれだけに取り組む、という形で進んでいくのがマニャーナの法則方式です。
このやり方は、7つの原則のうち、「原則6 突発の仕事を減らす」と「原則7 コミットメントと興味を区別する」がなければ、成立しません。いや、むしろ、タスクリストをクローズして「一日分」の作業を限定するようにすると、自然にそうなっていくと言った方がよいでしょうか。
通常のタスクリスト(あるいはTodoリスト)の問題は、それが実行可能かどうかがまったく考慮されていない点です。だから、どんどんそこにタスクを詰め込みます。そしてできる分だけをこなし、残りは「仕方なく」先送りされます。明確な意思を持った先送りではなく、「本当ならできるはずだったのに」というよくわからない(≒どこにも根拠がない)幻想によって生じる先送りです。
だから、リストに記載される項目が「本当にこれをやるべきかどうか」と問われることはまずありません。それは「できること」だと感じられるからです。
一日にできる作業量が確定しているなら、一週間でできる作業量も計算できますし、それが計算できるなら、「これはそもそもできないな」と見えてくるでしょう。「優先順位」という曖昧なものより切実な「そもそも無理」感が実感されるのです。
無限のタスクリストにはそのような切実さが生まれません。よって、際限なくタスクが増えていきます。この問題に対処するのがマニャーナ式の先送りメソッドです。
と、ながながとマニャーナの法則について解説してしまいましたが、ポイントは「今日やること」を確定した上で、残り全てを「先送り」してしまうやり方です。その情報の流れがフレームワークの基礎となります。
■リスト装置群
上記が長くなったので、残りは軽く触れておくに留めましょう。
「マニャーナの法則」では一日分のリストを作成するために以下の二つのリストを使います。
・タスク・ダイアリー
・デイリータスクリスト
そしてこのリストから生成される一日のリストがToDoリストならぬWillDoリストです。英語のWIllには「実行する」という強い意志のニュアンスがあるので「やるべきリスト」ではなく「やるときめたリスト」と訳せばよいでしょうか。できたらいいな、ではなく、これをやる、と決めた(あるいはできると実感している)ものだけが列挙されたリストがマニャーナの法則方式を支えます。
■実行支援ブースター
マニャーナの法則では、実行支援のサポートもあります。
・ファースト・タスク
・ダッシュ法
それぞれ有名なので詳しい解説は省略します。前者は、朝一に重要な仕事をすること、後者は、時間を限定してとりかかりにくいタスクを料理してしまうやり方です。それぞれ有効な手法です。
■最後に
全体をみると、この「マニャーナの法則」は、GTDような情報整理システムメインではなく、むしろ実行サポート寄りのシステムだということがわかります。リストの構成も簡素で、ややこしい話は多くありません。
ただ、普通の職場で、特に日本の職場でこのやり方を実践するのはよほどの裁量がないと難しいとも思います。なにせ「これは今日やりません。明日以降にやります」というといろいろ軋轢が起こりそうです。その辺がネックと言えばネックでしょうか。
次回は、最近話題のバレットジャーナルについて見ていきましょう。手書きノートを使った管理手法です。
(次回に続く)
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