それぞれのノート術に向けて──『すべてはノートからはじまる』 #06
なぜ、ノートを書くことが必要なのか。情報が多すぎる現代において、私たちはノート(記録)とどのように付き合えばよいのか。身近でありながらも、現代的な困難を内包するその問題を解き明かす『すべてはノートからはじまる あなたの人生をひらく記録術』。その一部を公開します。
第1章 ノートと僕たち 人類を生みだしたテクノロジー(04)
乱立する記録本
書店の実用書や自己啓発書のコーナーを覗けば、ノートに関する本がいくらでも見つけられます。発想を広げるノート、夢を叶える手帳、人生を満たす日記、数え上げればキリがありません。しかも、長年ずっとそうした本が新しく発売され続けています。
ときに相反する内容すら含まれるそれらの本から言えることはなんでしょうか。どれか一つだけが正しいのだと断定するのは難しいでしょう。一人以外がすべて嘘をついていると仮定しない限りは、その考えは成立しません。そんな極端な仮定を持ち出さなくても、言えることが一つあります。それは、「何をどのようにであれ、書いていくことには効果がある」ということです。いたってシンプルな話です。
さまざまな書き方や内容の良さが主張され、それぞれの著者がたしかな成果を得ているのだとしたら、それらの具体的な個々の記述を超えて、「ノートを書いていく」という行為に普遍的な効果があるのではないでしょうか。少なくとも、そう考えればつじつまはあいます(そして誰も嘘つきにしなくてもすみます)。それに、「どのノウハウが本当に正しいのか」と詮無い追求をしていくよりは、むしろ視野を広げて、ノーティングに対する全般を肯定する視点に立つ方がはるかに建設的でしょう。
その視点に立てば、さまざまな方法を論じ、ノウハウを紹介する本たちは、有用な示唆を与えてくれるネタ元となります。たった一つの絶対的にうまくいく(つまり、それ以外はうまくいかない)方法を教えてくれる本ではなく、「ノートの使い方の一種」だと捉えられるようになるのです。
よって本書でも、「このノート術ですべてうまくいく」のような語りはとりません。そのかわりに、さまざまなノートの使い方を探究し、ノートの使い方とその背景を丹念に掘り下げていきます。そうすることで、それぞれの人が、自分に合ったノートの使い方や付き合い方を見つけられるようになるでしょう。むしろ、誰に対しても万能に効く「至高のノート術」ではなく、それぞれの人が自分に最適なノート術を発見・開発・改善していくことが、ノートとの上手な付き合い方だと言えそうです。
さて、準備が整いました。あとは、ノートの使い方を実際に見ていくだけですが、問題が一つだけ残っています。それも無視できない大きな問題です。
ノートの難しさ
先ほどさまざまなノート術から言えることとして、「ノートを書いていく」ことに効果があると書きました。「書く」ではなく、「書いていく」なのがここでは大切です。多様なノート術の本であっても、一日だけ、あるいは一回だけノートを書いたらすばらしい結果が得られましたと書いているものはありません。ある程度の期間、継続的にノートを使っていくのが大切だとどの本でも説かれています。なぜでしょうか。それは蓄積が情報の力を高めるからです。蓄積していない記録もそれなりに力を持ちますが、蓄積するとその力はさらに大きくなります。
たとえばデータ分析をイメージしてみましょう。一日だけの天気の記録がある状態と比べて、一年分、十年分、五十年分の記録があれば、より多様で精緻な分析が可能になります。もし、地球温暖化について分析したいなら、それ以上の期間のデータも必要になるでしょう。つまり、データが貯まることによって、はじめて可能になる知的営為が存在するのです。
定点観測することによって得られる考察もありますし、世界中の民族の生活を観察し、その結果を並べることで浮かび上がってくる知見もあります。個人の生活でも、一日の行動をずらっと並べてみたり、一年間の読書履歴を振り返ることで発見できる事柄があります。データがたくさん集まると、いろいろな「遊び方」ができるのです。
より大きな知的作業に進む上でも、アイデアの素材となる情報を集める上でも、記録の蓄積は欠かせません。つまり、ノートこそ「継続は力なり」なのです。
にもかかわらず、私たちはノートを継続できません。一番大切なことが、一番難しいのです。それが、ノートにまつわる最大の問題です。
目次
はじめに ノートをめぐる冒険
第一章 ノートと僕たち 人類を生みだしたテクノロジー
第二章 はじめるために書く 意志と決断のノート
第三章 進めるために書く 管理のノート
第四章 考えるために書く 思考のノート
第五章 読むために書く 読書のノート
第六章 伝えるために書く 共有のノート
第七章 未来のために書く ビジョンのノート
補 章 今日からノートをはじめるためのアドバイス
おわりに 人生をノートと共に