見出しメモを文章メモ化するときのポイント/テキストファイルとの関係修復/自分の言語/どう書くのか
Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2020/06/22 第506号
はじめに
はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。
先週号で、二種類のメモの喩えとして「ゾンビ/転生可能な死体」という(ひどい)表現を使いましたが、それをはるなさん(@haruna1221)さんがイラストにしてくださいました。
わっ、わかりやすい。
やっぱりイラストの力は強いですね。私も小難しい文章ばかり書いていないで、ちょっとしたイラストなら自分で描ける画力を練習して身につけた方がいい気がしてきました。
まあ、小難しい文章をわかりやすく書く表現力を身につける方が「自分の仕事」なのかもしれませんが。
〜〜〜転生したらスプレッドシートだった件〜〜〜
『転生したらスプレッドシートだった件』という本が、6月22日に発売されるようです。もう、ツッコミどころしかありませんね。
とは言え、出版社は技術評論社さんというころで、技術的な内容には期待が持てます。
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異世界転生×Google Spreadsheets! まさかの技術小説!
「Googleスプレッドシートは燃え尽きたExcel職人の魂で動いているんだ」
Googleスプレッドシート、その先進性と共有性の高さからExcelを超えるとも言われる次世代表計算ツール。まさかそれが死者の魂で動いているなど、誰が想像したであろうか? 転生したExcel職人たちがGoogle スプレッドシートのworkerとなって、様々に活用されるGoogleスプレッドシートの世界で繰り広げる表計算冒険活劇!
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「表計算冒険活劇ってなんだよ」とやっぱりツッコミたい気持ちでいっぱいになりますが、Google Spreadsheetsって、かなりとっつきにくい印象があるので、こういうアプローチが案外有効なのかもしれません。
〜〜〜生(き)の情報を得られる場所〜〜〜
以下のポッドキャストを聞きました。
「Zoomについての情報収集をポッドキャストを対象にやってみたら案外良かった」という話なのですが、たしかに頷ける話ではあります。
最近のGoogle検索では、人気のキーワードは「はい、SEO対策をばっちりしました」という意識高い系Webサイトばかりが見つかって、いわゆる「素朴な声」がほとんど拾えません。その点、ポッドキャストの世界は(特に日本のポッドキャストの世界は)、まだ安直なマネタイズの手法が確立されておらず、結果的に「マーケティング汚染」が避けられている状況です。
同様に、ScrapboxもGoogleのアドセンスをばりばり貼りまくるような運用ができないので、マーケティング汚染からは逃れられており、素朴な個人の意見や情報が閲覧できるようになっています。
まったく個人的な話ではありますが、Webの情報ってそれだけで十分なのです。もちろん、Wikipediaとか企業などの公式サイトは必要でしょうが、今誰かの手にデスノートがあって、雑に「アフィリエイター」とそのノートに書いたとしても、Webの情報が不足するようなことは起こらないでしょう。
だったらもうそれでいいのではないかと思わないではありませんが、もちろんデスノートはありませんし、仮にあったとしてもそのような行動が倫理的にもとっていることは間違いないので、腐海が地上の汚れを浄化してくれるのを待ち望むような気分で時間が経つのを待つしかないのかもしれません。
〜〜〜 Hey! 〜〜〜
Basecampから新しいEmailツールが登場したようです。
◇HEY - Email at its best, new from Basecamp.
いくつか面白い概念や機能が提供されていますが、私が注目したのは「imbox」と「件名の編集」です。
「imbox」はinboxのタイポではなく、importantなinboxということで、重要な案件だけが入ってくる限定的な受信箱です。利用者は基本的にそのimboxに注意を払っておけば仕事が進められるというわけです。
また、受信したメールに返信しなくても、そのメール(に関する件名)のタイトルを自分で設定できる機能も面白いです。メールの中には、非常に曖昧なタイトルで送ってくるものもあり、受信箱のリストを眺めただけでは、それが何の案件だったのかを即座に思い出せないことがしばしばあります。自分でタイトルを付け直せるならば、(自分にとって)適切なネーミングが可能になるわけで、もちろん使いやすくなるでしょう。
Gmailもいろいろ頑張ってくれていますが、とりあえず電子メールというのは、受信する側にコントロールが小さく、送ったもの勝ちな傾向があることは間違いないので、その関係性を良い形に戻そう、という試みなのでしょう。
こうした動きを見ても、まだまだインターネットというのは「若い」メディアなのだと思います。
〜〜〜今週見つけた本〜〜〜
今週見つけた本を三冊紹介します。
インスピレーションや天啓という言葉からわかるように、創造的な発想というのは、「どこからともなくやってくる」と認識されがちですが、当然それは脳から発露されたものなわけで、何かしらのメカニズムのもとで生まれていることが予想できます。それを脳科学や計算論、そして人工知能に関する知見から議論していこうという本のようです。
もう、タイトルからして辛いですね。大学と企業が共同で研究を進める「産学共同研究」が、企業側にとっては成果が上がっているものの、大学や研究者にとってはあまり益のないものになっている、という指摘でしょう。国からの独立が推進されている中で、産学共同研究は研究のための資金を得る一つの活路なはずですが、それがうまくいっていないというのはなかなかしんどさがあります。
「ワンダーウーマン」はDCコミックスの作品で、2017年に映画化もされました。本書で論じられているのは、1940年代から連載が開始されていた原作のコミックスの方で、フェミニズム運動との関係性に焦点が当てられています。
〜〜〜Q〜〜〜
さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。
Q. 人は(あるいは人類は)どの時点で「階層」という概念を手にしたのでしょうか。
では、メルマガ本編をスタートしましょう。
今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。
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2020/06/22 第506号の目次
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○「見出しメモを文章メモ化するときのポイント」 #知的生産の技術
○「テキストファイルとの関係修復」 #物書きエッセイ
○「自分の言語」 #エッセイ
○「どう書くのか」 #セルフパブ入門
※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。
○「見出しメモを文章メモ化するときのポイント」 #知的生産の技術
前回紹介したメモシステムの流れを再確認しておきましょう。
まず、ぱっと思いついたことは、WorkFlowyに書きつけます。そのときは、一行だけの〈見出しメモ〉として書きます。その方が手軽に書きつけられるからです。
ただし、そのままでは再利用性は高くなく、逆に「処理しなければならない」という心理的圧迫感ばかりが高まるので、隙を見てその見出しメモを文章化していきます。具体的には、Evernoteに書いている作業記録のメモとして書きつけていきます。
このように見出しメモを〈文章メモ〉にしておくことで、検索したときに見つけやすくなりますし、リストに溜まっている心理的圧迫感も緩和されます。とは言え、そのすべてを文章化はできないので、あんまりやる気が起きないものは、しらばくWorkFlowyに滞留させておき、時間が経ったら、「Back Number」という項目の下に移動させて、私の視野から消し去ります。保存はしてあるけども、私の意識からは消えていく。そんな関係です。
以上が、最近の私のメモシステムの骨子ですが、今回は周辺的な話をしてみます。
■文章化するときのポイント
一行だけの見出しメモを文章メモに変える作業は、たとえば以下のような変身を意味します。
「見出しメモ」
タスク管理・情報整理ツール
「文章メモ」
# 422
情報整理ツール∋タスク管理ツール という、安直な位置づけでいいのだろうか。 汎用的な情報整理ツールがあり、ある用途に特化した情報整理ツールがある、というような。 その構図を疑ってみたときに、何が見えてくるだろうか。
たとえば、Evernoteは情報を保存しておくためのツールでもあり、リマインダーやチェックボックスがあるのでタスク管理にも使える。一方で、Todoistは、情報を保存しておくためには使えない。だとしたら、Todoistはいったい何をしているのだろうか。このデジタルツール時代において。
# 422.1
たとえば、タスク管理ツールは、情報の枠組みを極めて限定することによって、迷いを減らし、また情報をどのように扱うのかの「型」を学ぶための場だと考えることができる。
# 422.2
一方で、Wikiでタスク管理するのは、不可能ではないまでも、かなり面倒だろう。しかし、Scrapboxでは一応可能である。これは単に操作性の問題に過ぎないのか。
—
いくつか特徴があるので、それを説明します。
▼特徴1:説明するように書く
まず、明らかな違いとして、「見出しメモ」は、私が脳内に浮かべている「ある考えること」を象徴する言葉でしかありません。他の人が見ても、なんのこっちゃさっぱりでしょう。
一方、変身した「文章メモ」は、コンテキストは少々わかりにくいものの、何を言わんとしているのかは私以外の人でも掴めるようになっています。
なぜそうなっているのかと言えば、この作業記録が共有されていて、他の人が閲覧できるようになっているので、その人(イマジナリー読者)に向けて、私が「説明」しているからです。
こうして「説明」しておくと、明日の(あるいは来週の、来月の)自分が読んでも、もちろん意味が通ります。一方、「見出しメモ」の状態では、来週の私は、東大生が考えたなぞなぞを解くときみたいに頭を「う〜〜〜ん」とひねらないと「ある考えること」を想起するのは難しいでしょう。
逆に言えば、こうして文章化しておくことで、ゾンビが死体へと転じるわけです(前回参照)。
▼特徴2:ブロックを分ける(+ナンバリング)
もう一つの大きな特徴として、当初は一行だけだったメモが、いくつかのブロックに分かれています。これは、梅棹のカード法などに代表される「一枚一項目」原則を守った形です。このようにブロック分けしておくことで、後から「情報を組み替える」ことがしやすくなりますし、それ以上にだらだらと文章が続いていないので、これを読む人によっても、心地よいリズムが刻めるはずです。
また、PoICという情報カードシステムでは、タイムスタンプによるカードのID設定を行っていましたが、私のメモシステムではそれを採用するかわりに、ルーマンのカード法で用いられているナンバリング制度を使っています。
このナンバリング制度はまだ粗削りなのですが、概要は以下のようになっています。
・スタートの項目のナンバリングは普通(たとえば、422)。
・それを書いた後に思いついた関係することは.を打って新しいナンバリングを始める(たとえば、422.1)
・それを書いた後に思いついた関連することは.を打ってアルファベットでナンバリングを始める(たとえは以下)
三つ目の要素に関する実際例は、たとえば次のようなものです。
421
線形に拡大しているように見えても、ズームしてみれば、ジグザグに伸びているものである(→株価)。
421.1
フォロワー数が増えているといっても、フォローしてくれる人と、アンフォローする人が両方いて、前者が多いときにそのように「見える」というだけにすぎない。
421.a
チャートのジグザグを構成している線も、さらにズームしてみると、やっぱりジグザグしている。フラクタル。
最初421を書き、その話の展開として、421.1を書いたのですが、さらに連想して、そこにフラクタル構造があることを思いつきました。その話は、421を起点とはしていますが、しかし、421.1に連なる話の流れではありません。別ものです。よって、それをaという分岐で示しています。
タイムスタンプによるIDでは、このような関係性は示せませんし、単純なナンバリングでも、「連想」という横の関係性を示すのは不可能です。この分岐を含んだナンバリングが、連想をよく思いつく私にとっては非常に使いやすいものであることがやってみてわかりました。
▼特徴その3:つながりを考える
もう一つ、重要な要素として「つながりを考える」という点があります。上の例で言えば、「株価」「フラクタル」という表現がそれにあたります。
「この話って、あれと似ているな、関係しているな、こういう言い方ができるな」
ということを、常に考えながらメモを書くのです。いや、その表現は正確ではないかもしれません。もう少し私の体感に則して言い直せば、「関係性を探す思考を抑制しないでメモを書く」が近いかもしれません。
私は、たとえや「ちなみに」で話をつなげていくのが好きというか、それが「当たり前」の思考になっています。しかし、文章を書くときは、あまりに枝葉な話は切り落として、流れを整えるのが「よろしい」とされています(そういう規範性がバックグラウンドで走っているという言い方もできるでしょう)。
よって(文章の本流から見て)「余計な」連想はそぎ落とされてしまうわけですが、この文章メモではそうした抑制は行わずに、思いついたままに連想を広げています。そして、その言葉を記します。
ちなみに、書き込まれるのは、上のようなダイレクトなフレーズだけではなく、私が考えている企画コンテキスト(たとえば、「断片からの創造」)や、あるいはあるメモブロック(たとえば、422)など、多岐にわたっています。
簡単に言えば、「関係ある」と感じたものは、なんであれメモとして記述しているのです。
そのような記述があれば、検索するときのフックが増えることになりますし、ご想像の通り、これをScrapboxに転記したときに、さらなる効果を発揮します。基本的に、こうした記述を増やすことのデメリットはありません。
また、今回初めて実感したことですが、メモごとにナンバーを通番で振っておくと、そうでない場合に比べて、「あの思いつき」のように一つの塊として想起しやすくなる効果があります。
ナンバリングのどの作用によって、そうした認知が引き起こされているのかはわかりませんが、メモ同士の関連性を広げていく上では有用な効果だと言えます。
■メモは必ず見返すこと
で、ここからが大切な話ですが、こうして時系列に書き留めたメモは、何らかの手段を用いて、後から見返すことが肝要です。この重要さは、ループを百回回してprint(“重要”)しても足りないくらいです。
なぜなら、グルーピングを支えるものは、必ず「後から」生まれるからです。別の言い方をすれば、パターンは数が揃ってからパターンとして認識されるということです。
たとえば、310のメモと、315のメモに同一の構造が潜んでいたとしましょう。その発見は、310を書いた段階では絶対に発生しません。「うむむ、俺はこれから二日後に、これと同一の構造を持つメモを思いつくから、グルーピングしておこう」とは思えないわけです。言い換えれば、パターンは、ある時点から過去を振り返ることでしか発見できないのです。だから、メモを見返すことが重要になってきます。
KJ法的なボトムアップのグルーピングは、要素が出そろった後でしか立ち上げることができません。だから書き留めたメモは、必ず後から振り返ることが可能な形になっていないといけないのです。
たとえば、小さな村をイメージしてみましょう。
その村には、村長がいて村を切り盛りしていましたが、ある日幼子が生まれました。圧倒的なカリスマ性を持った幼子です。そのとき、村長がその幼子に未来を託して自分の地位を譲り渡すことを計画したとしたら、それはボトムアップ的な在り方です。逆に、自分の地位に固執して、その幼子を村から追放するのがトップダウン的な在り方です。
最初に想起される「これってグループになるんじゃないか」というトップダウンの予想ではなく、要素(着想)が揃った後に見出される「明らかに抜きんでた存在」という実際的な要素からグループを形成していくこと。
実りある知的生産を行うためには、この姿勢が欠かせません。カテゴリーを作って着想を分類するのは構わないのですが(どうしたって文章をアウトプットするならそれは必要となります)、そのカテゴリーは着想が揃ってから、もっと言えば着想を並べて、他の着想を牽引しうる力のある「カリスマ着想」が見つかってからで十分です。
この点は、次回紹介する予定の「仮であってもテーマを設定する」という話と関わってきますので、そこでより詳しく論述しましょう。
■さいごに
今回は二つのお話をしました。
まず、「見出しメモ」を「文章メモ」にするときのコツです。人に説明するように、しかし一項目一枚の原則を守りつつ書いていきます。書いていく際は、「これって〜〜に関係あるかも」という連想を抑制せず、思いついたら気兼ねなくそれを書きつけておきます。
さらに、そうして書いたメモを後から読み返すことが肝心です。もっと言えば、見返すことで、「これって〜〜に関係あるかも」という探索をより広げていけます。着想ネットワークの広がりは、振り返りの中で深まっていく。そう言ってもよいでしょう。
当然その振り返りは、見出しメモではなく文章メモでないとうまく進みません。つまり、この二つは関係しています。文章化してあるから見返しやすくなり、見返しやすくなるからネットワークを広げやすくなります。
どのように「文章メモ」を保存するのかについては議論はさまざまあるでしょうが、とりあえず「文章化してメモを保存し、それを見返す」という点は、着想ネットワーク(なんなら情報ネットワーク)を広げていくためには欠かせない作業です。その重要性は、これまでアイデアメモを大量に死蔵してきた私が力強く太鼓判を押します。
*この文脈で言えば、ブログ記事一つひとつが「文章メモ」とも言えるでしょう。
ですので、もしこれからアイデアを集めていこうと思っている方は、単にそれを見出しメモとして書き留めるだけでなく、文章メモとして書き上げる時間を確保してください。その威力は、考えているよりも大きいと思います。
(つづく)
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