第十回:Open your mind, close your list. その1
朝一に作ったリストも、実行に合わせて(あるいは周りからの要求に合わせて)どんどん変わっていきます。そのようにリストを「動かす」ことがリストを使うことの意義であり、楽しさでもあります。
なにせ人間の記憶力や認知操作力はそう大きなものではありません。状況に応じてどんどん変化するリストを、脳内だけでキャッチアップするのは困難でしょう。だからこそ、リストに書き出すという「外部化」を行うのです。
これは、プロ棋士が将棋盤を使って将棋をするのと同じことです。彼らは空で将棋を打つことも可能ですが、次の一手をじっくり考えるのは盤を使ったほうが楽でしょう。言い換えれば、駒の配置を「外部化」したものが、将棋盤というわけです。
彼らよりも、脳の機能が相当劣っている私たちは、積極的にリストを使い、操作対象を「外部化」していくのが吉です。少なくとも、そうすれば脳の負荷を減らして対象について(つまり、何をするのかについて)考えていけるようになります。
さて、この話を踏まえた上で、リストを「動かしていく」ために大切なことが一つあります。それは、そのリストを閉じておくことです。
■閉じたリスト
「閉じたリスト」という概念は、マーク・フォースター の『マニャーナの法則』(新版→『仕事に追われない仕事術 マニャーナの法則・完全版』)で提出されています。
オープンリスト:要素が追加されるリスト
クローズドリスト:要素が追加されないリスト
別段、難しい概念ではありません。一つのリストがあって、そこにどんどん項目が増えていくなら、それはオープンリスト(開いたリスト)です。たとえば、「自分のやること」を書き留めた TODOリストは、基本的にオープンリストになります。
一方、クローズドリスト(閉じたリスト)は、一度作成されたらそこに要素が追加されないリストです。容器のフタが閉じてしまっているイメージを思い浮かべてもらえばよいでしょう。たとえば、規定の項目を確認していくためのチェックリストは、その使用中に項目が増えることがありません。上から下までチェックしていって終わり、というのがチェックリストの基本的な運用です。よって、これはクローズドリストと言えます。
で、理想的なデイリータスクリストのあり方というのは、クローズドリストであると、『マニャーナの法則』は説きます。つまり、朝一にデイリータスクリストを作ったら、そこには新規項目はいっさい追加するなと言うのです。
だったら、新しく発生したタスクはどうしたらいいのかと言えば、次の日にまわす、というのがその答えです。そもそもマニャーナという言葉がスペイン語で「明日」という意味で、「明日できることを今日やるな」という理念がこのメソッドの根底にはあります。
今日は「今日やると決めたこと」に集中し、明日も「今日やると決めたこと」に集中する、という具合に「実行することと実行できること」の粒度を合わせていくことで、破綻なく計画を進めていけるようになる(≒実行不可能なタスクを抱え込まないようになる)、というのが『マニャーナの法則』の肝です。
■クローズドリストの理想と現実
ここまで読んでみて、「そりゃまあ、たしかにそうかもしれないけど」と思った方は少なくないでしょう。たしかに、その日やると決めたことだけを実行し、新しく追加された「やること」をすべて明日移行に回せるなら、集中して作業に取り掛かれそうな気はしてきます。
が、現実的に言ってそのような運用は、不可能とまでは言わないものの難しくはあるでしょう。上司からの依頼や、取引先からの無理なお願いをすべてスルーしていたら、「あいつは使えない」ラベルを貼られて、仕事の機会そのものを損失してしまう可能性があります。
でも、それでいいのです。
「絶対に新規タスクを追加しないデイリータスクリスト」は、いわば「理想のデイリータスクリスト」なのです。そして、理想と現実は異なるのだとこれまで確認してきました。つまり、現実のデイリータスクリストは、「絶対に新規タスクを追加しない」ほど厳しいルールは設けず、しかしその理念は引き継いで運用すればいいのです。
(つづく)
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