時間を埋める
昨日の朝起きると、目ヤニがびっしりとついていた。
まころ(息子・3歳)の保育所入所直後に、アデノウイルス(はやり目)に感染して高熱を出した経験のある夫と私に緊張が走り、朝イチで眼科にかかる。
結果としては感染症ではなく、目の形態的に自分の睫毛で目の表面を刺激しやすいから、風邪や疲れやストレスで出やすくなるよ、とのことだった。
そう指摘されて思う。
うん、やっぱり私、疲れてる。
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もう数ヶ月も前から、きぷく(娘・10ヶ月)は眠りが浅く、昼寝は抱っこ(もしくは胸の上)でないと眠れないし、夜間も隣にいないとたびたび目を覚ましては泣いている。
それがここ数日、夜間の覚醒頻度に拍車がかかっていて、隣に寝ていようがなんだろうが1時間半〜2時間くらいおきに泣いている。
これまでは授乳のタイミングでない限り、ラッコスタイルで胸の上でしばらくトントンしていると安心するのかまた眠りに落ち、頃合いを見計らってお布団に寝かせていた。
それが、立ち上がって抱っこしたり、おっぱいを飲まないと寝入れないということが増えているし、胸の上から下ろすとまた泣き出すという状態になっている。
ものごとに理由が欲しい私は、なんでやろうとついぐるぐる考えてしまう。
寝るときの姿勢かな、体温調節がうまくいってないんかな、離乳食が負担になってるんかな、昼間の関わりが足りひんのかな、、、
色んなことを変えてみるけれど、なかなか良くならない。
そんな日々の積み重ねで、身体は然ることながら、心にじわじわと疲れが溜まってきていたようだ。
それが昨夜、ふとこんな想いが降ってきた。
ああ、この子は時間を埋めようとしているのかと。
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妊娠31週6日の産休前の勤務最終日、退勤まであと1時間という時に、私は出血してしまった。
慌てて上司に事情を伝え、最後の挨拶もそこそこに取り急ぎで荷物をまとめ、ライトが光り始めた冬空の下、車を走らせかかりつけの産婦人科に向かった。
エコーの結果、切迫早産の兆候があるからと張り止めの薬をもらい、家で安静にするように促された。
家に着くと、おじいちゃんおばあちゃんの家で食事とお風呂を済ませたまころが、夫と一緒に出迎えてくれた。
身体は冷えていたけれど、緊張と疲れでお風呂に入る元気もなく布団に潜り込む。
まころの夜泣きで目が覚めたけれど、私はあまりのお腹の痛みで何も出来なかった。
次の朝、トイレに行くと血の気が引くくらい大きな血の塊のようなものが出た。
ああ、これはもう絶対アカンやつや、と直感で分かった。
そして、くだされた診断は早期破水。
破水してしまうと赤ちゃんに感染が起こる可能性があるので、早急に出産しないといけない。
早産の赤ちゃんに対処出来るよう、NICUのある病院への転院が決まり、生まれて初めて救急車での搬送を体験した。
転院先で入院し、その次の日の朝から点滴の陣痛促進剤が開始された。
まころも正期産ではあるが、破水したものの陣痛がついてこなかったので、飲み薬の陣痛促進剤を使っての出産だった。
だから直接血管に薬が入る点滴ならば、あっという間に陣痛が起こるものだと思っていた。
ところが、待てども待てども生理痛くらいの痛みから強くはならず、夕方に点滴は打ち切りになった。
それから毎日、薬の種類を変えたり、追加の処置をしたりしながらも、日中に陣痛促進剤の点滴をする日々が続いた。
だが、一向に『産まれるぞ』という痛みが来ない。
毎日定期的にしてもらうNST(赤ちゃんの心拍や陣痛の具合を見るために、機械をつけて行う検査)ではなんの問題もなく元気な様子で、今まで通りボコボコとお腹を蹴っている。
不幸中の幸いと言うべきか、破水をした穴がぴったりとどこかに密着しているようで、羊水が漏れ出てくる気配もない。
毎日する血液検査でも、感染症を示唆する数値は上昇することなく経過していた。
………まだまだお腹の中に居たいんやな?
完全にそんな感じだった。
おそらくお腹の中のきぷくにしてみたら、居心地の悪さを感じる要素がなかったし、出なければならないという頭もなかったのだろう。
私としても、32週を超えれば生命維持の確率も高く、合併症が残る可能性が低いとは言われても、なるべく長くお腹の中にいて欲しい。
赤ちゃんにとっての1日1日が、外に出てくるための準備に大きな意味をなしているのは明白だ。
もう無理に出産にせんでもいいんじゃないかと思いながらも、陣痛促進剤を開始して1週間を過ぎた頃、いよいよ陣痛が来た。
来たら一気で、あっという間に羊水が流れ出し、バタバタと分娩室に移動する。
羊水が流れ出てしまえば、もうお腹にのんびりは居られない…。
それでも彼女は出口のほうに向かうことなく、お腹の上の方にいたのだが、胎児心拍が下がってきてしまい、早く出産にならないと赤ちゃんが危ないという状況になった。
助産師さんも医師も血眼で、私のお腹を押し、吸引をしての分娩だった。
「おぎゃー」
可愛い産声が響いたが、すぐに彼女は新生児科の医師に引き渡され、私達は離れ離れになってしまった。
それからきぷくは1ヶ月弱、NICU・GCUに入院していた。
止む終えない事情とは言え、お腹にも隣にも赤ちゃんが居ないのは、私にとっても辛い日々だった。
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彼女は出産の間際になってもまだ、お腹の中に居たいと主張していたのだと思う。
それなのに無理矢理外の世界に押し出されてしまったものだから、心残りがあるのじゃなかろうか。
日中は、食う(飲む)・寝る・出すが事足りていれば、ご機嫌でひとり遊びしている娘だ。
だけど、酔っ払ったときにポロッと本音が出てしまうアレのように、眠たい時間になるとその心残りが顔を出すのではないか、と思っている。
毎日くっついて寝ることで、お腹に居られなかった時間を必死で埋めようとしているのかもしれない。
勝手な思い込みできぷくがそう思っているかを確認する術はないけれど、私自身は眠れへんのも仕方ないよなと思えて、心がフッと軽くなって愛しさが増した。
こんな思い込みなら、思い込みでもいいか。
早くに離れてしまって、心残りやったのは私も一緒。
二人でこの時間をゆっくり埋めようと思う。
ここまで読んでくれたあなたは神なのかな。