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『大宇宙の魔女』レビュー

新訳のカバーは またよし さん

『大宇宙の魔女』
ノースウエスト・スミス全短編

C・L・ムーア(著)/ 中村融・市田泉(翻訳)

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かつて、(日本では1970年代に仁賀克雄訳で)松本零士のイラストでハヤカワ書房より発売されていたC・L・ムーアのノースウエスト・スミスシリーズが、全作品新訳決定版として創元社から出版されました!!

秘蔵の松本零士先生のイラスト旧訳三部作と並べてみました。
エロイ? いいえ、みんな宇宙人だからだいじょうぶ(そう?w)

もともとは1930年代(!)に発表された古典SF作品群。C・L・ムーアという筆名は著者の本名キャサリン・ルシール・ムーア(Catherine Lucille Moore)の頭文字を並べただけなのだけれど、当初は誰もその事を知らず、皆男性の作家だと思っていたそう。

後にムーアの夫となるヘンリー・カットナー(こちらもSF・ファンタジー作家)がデビュー当時、先輩の「ミスター・C・L・ムーア」に熱烈なファンレターを送ったところ、「キャサリン・ムーア」嬢から返信が来てびっくり仰天したという逸話も残っています。(その後お付き合いしてゴールイン! すてきですね☆)

なお、結婚した後は旦那様と競作して多数のペンネームと文体を使い分け(その数なんと19個もあったとか)、SF界に「有望な新人の正体はみんなカットナー夫妻なのでは!?」なんていう混乱を引き起こしたそうですw(カットナー・シンドロームと呼ばれたとかw)

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さてさて、お話の方は、未来の太陽系(だったり時の彼方だったり)、火星や金星の裏街道へふらりとあらわれる謎めいた男、ノースウエスト・スミス。彼は相棒のヤロールという金星人と組んで、高速宇宙艇をかっとばして密輸をしたり武器の横流しをしたり……、まあ、いうなれば無法者。太陽系無宿。出るところに出たら一発で捕まってしまう前科もち。
腰にぶら下げた熱線銃に物を言わせた冒険の数々……。

なんていうところまでは当時のパルプSFと似た設定なのですが――

実は、作品中であんまりドンパチは行われません。C・L・ムーアが得意とするのは、何と言っても毎回登場する謎の美女(型異星人や美妖女)が繰り出す肉体的・精神的な攻撃との攻防だったりします。これがまた執拗に、微細にわたってねちねちと(笑)NWスミスの身体と心をいたぶるのですw

これって、当時のパルプSF定番の、美女が宇宙生物におそわれてイヤーン。ってやつのの男女逆パターンなのかしらもしかして? なんて思っていると、さっそうと現れる相棒ヤロールがスミスを救い出したりします。
かっこいいぞヤロール!(違うw)

もちろん、この定番パターン(って思ったほどはなかったです。やっぱり第一話〈シャンブロウ〉のインパクトが強いのかそればっかに思えてましたw)以外の、危機に陥ったヤロールをNWスミスが救う回もあったり、肉体と精神が分離してしまったヤロールの魂を必死でスミスが呼び返す回があったりして。
この二人のバディものとして読むのも腐りかけ女子的に結構オツな感じがしている今日この頃ですw (このあたり、共訳者の市田泉さんもあとがきで存分に語られているので仲間!ってかんじです!w)

さて、この精神的な戦いの妖しさについては、かのクトゥルフ神話体系の大御所H・P・ラヴクラフト御大も〈シャンブロウ〉を指して、

『派手でばかに威勢がいいだけで命のかよわぬ主人公とまずしいイマジネーションを通例とするパルプ小説の中で、この作品には本当の雰囲気と緊張がある…』

ラヴクラフトさまのお言葉。野田昌弘著『SF英雄群像』より

こんなふうに(まわりをめちゃくちゃこき下ろしつつ)絶賛していますw

たしかにSAN値を削られそうな攻撃、喰らいまくりますNWスミス。どんだけ美女にモテたら気が済むねん。悪いこと言わんからヤロールにしとき!(違)
なんて、つい個人の感想がでちゃいましたw 

閑話休題。

いま読んでも当時のSF界に大きなインパクトを与えたことがわかる本です。
この一種異様でみだらな雰囲気と、みずみずしいまでの情感にあふれた描写。もうちょっと英語読めるなら原書で読んで見たくなっちゃいましたねー。
今回、お正月の暇をあかして旧訳と読み比べましたが、たしかに読みやすく、今風になっています。古本屋でプレミア付きの三冊をそろえるより、きっとお安く買えるはずw
もうじき原書発行が90年前になっちゃう古典作品ですが、今これが新訳で読めるのは幸せなことかも!? 古いと侮らず、ぜひぜひ読んで見ることをおすすめします。
えっろいよー(笑)

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余談①
NWスミスがたまに口ずさむ「地球の緑の丘」という歌に感銘を受けた当時新進作家だった(!)ロバート・A・ハインラインは、著者のお二人(ご夫婦ね)に許可をもらって自分の本のタイトルにしたそうです。

余談②
昨日レビューした宇宙軍大元帥・野田昌弘さんは、大のNWスミス、というか妖女〈シャンブロウ〉の大ファンで、SFで美女といえば〈シャンブロウ〉と常々おっしゃっていました。ハヤカワ版の『大宇宙の魔女』の解説で、『ごめんネ! 仁賀さん。』と、訳者の仁賀克雄氏へお詫びしつつ『〈シャンブロウ〉の和訳がオレじゃないなんて! 悔しい! その上解説を書かなくちゃいけないなんて蛇の生殺しだァ!』てなかんじで泣かれていますw

実際にNWスミスを紹介している野田昌弘著『SF英雄群像』

スペース・オペラの古典を紹介している名著『SF英雄群像』

の表紙を開くと、

こんなふうに書かれてます

よっぽど好きだったんですねェ。(以上余談おわり~)

#C・L・ムーア #中村融 #市田泉 #またよし #古典SF #らせんの本棚 #創元SF文庫


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