『独学大全』レビュー
『独学大全』
読書猿(著)
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この本はあまり賢くなく、すぐ飽きるし諦めてしまう人たちのために書かれた。独学の凡人である私には、これが精一杯である。しかし独学の達人が書いた書物よりもきっと、繰り返し挫折し、しかしあきらめきれず、また学ぶことを再開したような、独学の凡人であるあなたの役にたつだろう。
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いきなり扉裏ページから引用させていただきました。著者は独学の凡人などと謙遜されておりますが、タイトルどおり、「独学」するすべての者のバイブルたりえる大著です。
本の厚さもそうですし、タイトルもなんか仰々しいのでつい構えてしまうかもしれないですけれども、これがまた、読んで見るととんでもなく面白くて興味深く、ぐいぐい読めちゃいます!
めっちゃ面白い。めっちゃinteresting な本なのです。
4部構成になっていて、最初の方がより大事な内容であると先に語られています。なので、まずは冒頭と第一部がキモ。ということになります。
その、キモの最初に、無知くんと親父さんというキャラクターが登場、無知くんが己の無知っぷりを克服すべく、親父さんに教えを乞うところからはじまります。
その後も各章のはじめに毎回挿入されるこの対話劇がおもしろくて、(主に)無知くんに感情移入しながら読み進められます。無知くんに対する親父さんの厳しいようで愛ある指導でその章の概略をおしえてくれる構成がこれまたありがたいのです。とても分厚い本ですが、ざっと読みたい場合はこの対話の部分だけを摘み読みして、気になった章を改めて読んでも良い形になっているわけですね。
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さて、そのキモの序文で、『二重過程説』という、ヒトの「仕様」が理解できる枠組みが紹介されます。
人類すべてが悩まされてきた、テスト前で勉強をしなくちゃいけない時になるとついつい本棚が気になって読みかけの本を読み始めちゃったり、部屋の掃除をはじめちゃったり、お料理をし始めちゃったりといった逃避行動や、ダイエットを決意したというのになぜか甘い物をついつい食べてしまうというアレが、じつは、人間に備わっている「仕様」であると看破してくれるのです。
これは目からうろこでした。
かつてサバンナの平原で進化した人類。
そうした旧石器時代のままの、いわば本能に近い情報処理システムとしての「システム1」(特徴として、素早い直観、ローコスト、つまり考えなしの行動)と、より複雑な思考、熟考による判断を行うハイコストな「システム2」が人類には備わっていて、この二つのシステムが二重に情報を処理し、行動(や学習)をするというのです。
ダイエットしないと、デヴってしまって健康的にも社会的にいろいろまずい。と、未来まで見通して熟考を、低速にのんびり行う「システム2」に対して、いつ食事にありつけるかわからないサバンナで適応進化した「システム1」は、甘い物=高カロリーの食べ物を見つけたらとにかくありったけ食べろという本能を迅速に押し付けてきて、ついひょいぱくとやってしまうわけ。人間だって生き物ですから、往々にしてこの本能が勝ってしまうというのがデフォルトの「仕様」なわけです><
勉強中(システム2を優勢にしたい時)に、ついつい机の端の落書きが気になったり、些細な物音に反応しちゃって気が散ってしまうのも、どこの物陰から肉食獣がいつ飛び出すかわからないというサバンナ時代の本能(システム1)のせいである。。と、いうわけ……。
仕様かあ、仕様じゃ仕方ないよね。
でも、うーん、そんな本能がある以上、勉強に集中なんてできないじゃない。。そんな仕様だったなんて!! それじゃいったいどうしたらいいの? と、無知くんならぬ我々もそう思うところなのですが、それに対する答えが、55もの「技法」としてこの本にはぎっしり詰まっているわけです。
ようするにこの「仕様バグ」ともいうべき脆弱性をうまく回避したり、逆に利用して(だまして)学習に役立ててしまおう。というテクニックがごっそり書かれているというわけ。著者の読書猿さんが長年の間に出合い、改良し、考案してきた多くのワザが丁寧な解説ととともに詰め込まれています。なるほどこの厚さになるのはしかたないですね。
独学者の、独学者による、独学者のための……。世のすべての独学者へ向けた、まさに「独学大全」。
これは、このお値段分の価値は絶対にあります。新しいことを学ぶあらゆることに独学はつきものですし、学びだけでなく知的生産にも応用可能なワザがたくさん!
システム1の、考えなしな本能にうっかり振り回されてしまう残念仕様のヒト族のみなさんにちょーおすすめの、全人類必携の本なのでした!
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https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784478108536
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そうそう、オーディオブック版もリリースされたようです。分厚さでびっくりしちゃう人はこちらでもいいかもですね♪