『空よりも遠く、のびやかに』レビュー
『空よりも遠く、のびやかに』
川端 裕人(著/文)
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名作『夏のロケット』で有名な川端裕人さんの久しぶり(ってほどでもないけど)の小説、それも高校生が主役のばりばり青春小説です!
アツくならないこと、常に平熱でいることを自らに課している主人公・坂上瞬は、高校の入学式で不思議な少女・岩月花音と出会います。
「地学部」の入部案内を熱心に見ている彼女に一目惚れし、なし崩しに同部に入ることになった瞬。
瞬が彼女、花音にときめいているのはもちろんですが、「地と知のオリンピック」という言葉を聞いて、抑えがちにしている彼の鼓動は思わず早くなるのでした。
そんな花音は、かつて中学生時代にクライミングの世界的なアスリート「だった」のです、しかし、現在はなにかの事情で競技の世界からはなれてしまっています。
実は瞬も過去アスリートだった経験があるのですが、今はアツく身体を動かすことを制限しています。
そんな、なにやらトラウマのありそうな二人が出会い、なぜか「地学」で青春を燃焼させるというストーリー。
この、混ぜるな危険というか、理系なのか体育会系なのかよくわからないカオスに当初思える設定……ではあるんですが、これがまた良いのですよねー。
単なる青春小説というだけでなく(もちろんそれも魅力なんですケド)登場人物の弁を借りれば『理科の王』、すなわちあらゆる理科的知識が必要な知の全種目競技である「地学」。それと、これまた川端さんらしいちょっと目新しいスポーツ競技であるクライミングががっつり組み合わさっているところがすばらしく必然性があるんです。(ほんとよ!?)
(このクライミング、延期になっちゃって、今年もどうなるかわかんないオリンピックの種目に正式採用されたんですってね)
川端さんのお話って、いつも目の付け所がいいんですよねえ。サッカーのようにメジャーなスポーツの物語も書かれてますし、ブラインドサッカーのようにそれほどメジャーじゃない競技の話も書かれていて、それらのスポーツと、そのスポーツに魅せられた人たちを描くのがとっても上手い方なのです。
そしてそして、ここのところ川端さんのもう一方の真骨頂である「地学」。これ、「地球科学」なんですよ。たんに地質学というだけのものではなく(もちろんそれも重要ですが)、地球全体の科学なんです。
地学の「地」は、地面の「地」だけれど、ここでいう「地」は、地球すべてのこと。
地球の中にはコアやらマントルがあって対流しているし、地球の上には水や大気が循環していて雲ができて風や嵐があって(気象学)、もちろん生き物が住んでいて(生物学)、もっと言えば地球が存在しているのは太陽系であり宇宙なので、天文学まで含めた自然科学のすべてが「地学」のフィールド。
その「地学」のオリンピックを目指して「知」のアスリートが集っているのが、何を隠そう(隠してない)「地学部」なのです。
そんな知的な活動と、やっぱり身体を動かすリアルなアスリートが、ともに高みをめざしていくのです。地学部のオタクな会話も面白く、身体を動かすのもやっぱり面白く、そして、トラウマをかかえている主人公たちがそれを乗り越え成長していく姿がもう尊い……じゃなくて美しい。
カオスな知的好奇心とスポーツする心を同時に、ついでに中二病もおまけに満足させてくれる、素敵に知的に、メンタルもフィジカルも嬉しい青春小説でした。
たぶん、いろんな人のツボにはまるポイントがあると思います。どっち方面の人にもおすすめです☆
※あ、某感染症の件、書き忘れてました。この、詰め込みまくりの物語に、さらに新型感染症のパンデミック騒動まで詰め込まれています。まさに、今、高校生たちと世界全体が抱えている障害を、地学部とアスリートたちが乗り越えていく姿もけっこうグッときますよー☆
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