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プライオリティについて思うこと


3,000字超の長文かつストレスフルな内容なので、気乗りしない方は閉じて頂いて全く問題ない。

軟禁された。



というと大袈裟で物騒な物言いだが、「禁」の「」の部分が極めてソフトな状態の軟禁だ。
超軟らかいので超軟禁。
いや、超軟禁・・・と書くと、むしろ事態は酷く見える。
漢字の難しいところだ。
意味合いは重複するが、ここは便宜上「ソフト軟禁」ということにしておく。

※犯罪性、事件性のある内容では一切ないが、「軟禁」という単語そのものに不快感を覚える方はここでページを閉じて頂きたい。
当記事では便宜上、この「軟禁」を複数回使用する。

念のため注釈を入れておく

とある平日の朝。

少し遠方の取引先へ出向くため、高速道路のインターチェンジに向かう。
コーヒーでも飲みながら行こうかなどと考えながら、高速に乗る直前のコンビニエンスストアに立ち寄る。

ちょうど通勤ラッシュの時間帯、駐車場は「ほとんど」満車状態。
「ほとんど」の内訳はこうだ。
十数台停められる駐車場にはギッシリと車が停まっている。
店舗入口の延長線上には歩行通路としてのゼブラゾーン、それを挟むように右側には車椅子用の駐車枠、左側には奇跡的に一般車用の枠が1台分空いている。
車椅子用の枠に駐車する選択肢は僕には無いため、奇跡の1台枠に前向きで車を入れた。
正面には店舗、運転席のドアを開ければゼブラゾーン、といった格好だ。

混雑する店舗なのですんなり停められたことはラッキーだったが、ここでこの日のラッキーを使い果たしたことを、当時の僕はまだ知る由もなかった。


さて、降りてコーヒーを、とドアハンドルに指を掛けるか掛けないかのところで、


キッッ!ブレーキ音
カチャン!スタンドを立てる音


特有の音と共に視界の右側に何かが入り、動きを止めた。

運転席のドアが開くのを阻止するかのように停められた、電動自転車がそこにはあった。

(おい、出られないだろうが。)

心の声をぶつけるべき相手は、そそくさと店内に入っていく。
後ろ姿から察するに20代後半から30代前半の女性のようだ。

幸いこちらは一刻一秒を争う状態ではないし、たかだかコンビニでの買い物、長時間というわけでもないだろう。
僕の数分を、この無法者にくれてやることにした。
その程度には、時間にも気持ちにも余裕はある。

こうして僕のソフト軟禁状態は完成した。

彼女の帰りを待つ間、僕の黒い部分が少々顔を出す。
無論実行することはないのだが、

(ドアを開けて自転車を倒してやろうか。こいつがこんな所に停めた報いだ。いや、その場合は僕が他人の物を壊したことになるから罪になるのはこちら側。多少なりとも車に傷も付くだろうからやめておこう。そういえば自転車なんて随分と乗っていない。電動自転車って結構楽な乗り物なんだろうか。お、子ども用の座席が後ろに装着されている。ほう、このほろみたいなのがあれば雨で子どもが濡れることも無…)

(どす黒くうごめく感情)


…いやいや、子ども乗ってるじゃんよ。



万が一倒しでもしたら一大事いちだいじ、というか傷害事件にすら発展するかもしれない。


黒い妄想劇から現実に戻った僕は、少々考え込む。
色々とツッコミどころはあるが、子どもが自転車に乗せられたまま放置されているのはアリなのか?

考えるまでもなく、答えはNoだ。
アホなのか。

誘拐されるかもしれないし、突風が吹いて自転車が倒れ子どもが大怪我をするかもしれない。
それこそ僕が本当に「ヤバい奴」だった場合、故意にドアを開けて子どもを自転車ごと地面に叩き付けるかもしれない。
このご時世、どんな人間がいるか分かったものではないのだ。

アホ親の子どもとはいえ、この子に罪は無い。
仕方なく、僕はアホ親が買い物を終えるのを待つのと同時に、罪の無い子どもに意識をることにした。

子どもは無表情で自転車の後部座席に座っている。
これは一体何の時間なんだ、この野郎。


数分後、アホ親が自転車の元に戻ってきた。
こちらに気付き「あ、すみません!」「いえいえ」の展開かと思いきや、こちらに一瞥いちべつをくれることもなく、バッグから取り出したスマホを何やら操作している。

さすがに少々イラッときたが、事を荒立てる必要もない。
僕は窓を開け、なるべく穏便な声色で言葉を掛ける。


「あのー、少し自転車を動かしてもらってもいいですか?ドアを開けられないんですよね。」

さすがに来るだろう、「あ、すみません!」のやつが。


「いえいえ」ふところに忍ばせつつそう思った瞬間、なかなかの回答が返ってきた。

「いや、急いでるからここに停めただけで、すぐにどかしますけど。」



ん?何故そちらがキレている?
何か思っていたのと違う。
じゃあすぐにどかしてくれ。
というか、最初から変なところに停めるな。

「あ、すみませんでした!」のやつが来れば「いえいえ」を発動させるのだが、意味不明過ぎたので再度声を掛ける。

「そこに自転車停められちゃってドア開けられなくて、しばらく待ってたんですよ。」


「こっちは子どもを保育園に送る途中なんで急いでるからここに停めたんです。店員さんにも許可は取りました。何なんですか?」


あぁそうか、お子さんを保育園に送るから急いでたのね。
なるほど、それなら仕方ない…



ん?


…いや、知らねぇし。
おたくが急いでいるからって他人をソフト軟禁していいのか。


自転車を停めるスペースなど、他にいくらでもある。
あと2メートルくらい進めば、古いタイプのヤンキーが地べたに座ってカップ麺を食べてそうなスペースもあるんだからそっちに停めてくれ。

あと、サラッと言ってたけど「店員に許可取った」とか絶対嘘だろ。
「子どもを保育園に送る途中で急いでるので歩行者用通路に自転車を停めて、とある車のドライバーをソフトに軟禁してもいいですか?」と聞いたとでもいうのか。
なんだその許可取り。
仮に本当だったとしてもそんな謎質問、店員だって「?」となるだろう。


(あ、ヤバい人だ)

と判断した僕は無言で窓を閉めて、無理やり反対側の助手席のドアを開け、降りた。
※最初からそうすれば良かったのに、とか言わないで頂きたい。
通常、運転席に座っている人間は運転席側のドアから降りるのだ。
意外と頭は回らない。

このヤバいアホ親に用はないのだが、必要最低限の捨て台詞を置いていくことにした。
逆上して十円玉で傷など付けられても、その時は防犯カメラが役立ってくれるだろう。

「おたくの急ぎ具合とか保育園とか、こっちには関係ないんですよ。まぁそれはどうでもいいけど、子ども置いていくのはやめた方がいいと思いますよ。ヤバいやつに連れてかれても『急いでて』とか『許可取ったのに』とか言って解決するなら別にいいですけど。」


というようなことを告げ、コーヒーを買うためにコンビニに入った。
彼女は無言で僕を睨みつけているようだった。


こんな文章を書くと、以下のような炎上が想定される。

・子育てしているお母さんは大変なんだから、そんな言い方するのはひどい
・車ってそんなに偉いんですか?自転車は乗るなってことですか?
・保育園に毎日送り迎えする親の気持ちとか考えられないんですか?

素っ頓狂すっとんきょうな炎上内容だが、こんなのが無いとも言い切れないので念のため事前に押さえておく。

・子育てしている親は確かに大変だ。
しかし、だからといってそれを他人が背負う義務は無い。
周囲がサポートすることは素敵だが、敢えて当人が不要で無意味な面倒を他人にぶつけるのは筋が違う。

・偉そうな態度を取るドライバーも確かにいるが、それは「車」の問題ではなくドライバー本人の問題なので却下。
そもそも偉い、偉くない、という議論の対象ではないし、正しく車や自転車に乗っている人にも失礼だ。

・保育園に送り迎えするために急いでいるなら、なおさら時間に余裕を持て。
そんなギリギリで動いていたら、事故に遭う可能性だってある。

僕も親だからこそそう思うし、子どもがいる/いない、大変/大変じゃない以前の、人間性の話だ。
人をソフト軟禁して逆切れしていい道理は、どこにもない。

小さい子どもがいる親などごまんといる・・・・・・し、常識的な親もまた、ごまんといる・・・・・・

自分の子どもを水戸黄門の印籠のように都合よく使う親には、なりたくない。


保育園へ送る時間が守れれば子どもがどうなってもいいのか、という破綻した議論が頭の中で渦巻いた、平日の朝。
プライオリティ優先順位は大切だ、という話。


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